表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

151/174

151. 告白

 肖像画の裏にある穴。


 俺はその中に足を踏み入れる。


 すると、突然、薄暗い洞窟のような通路に切り替わった。


 薄暗く、じめじめした場所だ。


 壁はごつごつしており、等間隔に灯りが設置されている。


 土中を無理矢理にくり抜いたような場所であり、全く舗装されていないため、所々に岩が放置されていた。


「空間転移……もしくは固有空間?」


 シャロットが呟く。


 肖像画が掛けれれている壁を、物理的に突き破ったとしたら、他の教室に繋がっているはずだ。


 しかし、視線の先には通路が続いている。


「見た感じだと、空間転移の方だろうな」


 固有空間なら、もっと人工物らしい場所になっているはずだ。


「罠かもしれません」


 シャロットが、きゅっと制服の袖を掴んで、怯えた声を漏らす。


「いまさらそれを言っても、仕方ないだろ。どっちにしろ、進むしかない」


 俺たちはまっすぐな一本道を走り始めた。


「ナタリーさんを助けられるでしょうか?」


 シャロットが緊張した声で話しかけてきた。


「助けるしかない」


 できるかできないか、なんていう選択肢の話ではない。


 やるしかないんだ。


「先輩は……強いです」


 シャロットが声を漏らす。


「強くなんかないよ。俺だって……怖い」


 もし、助けられなかったら、と考えると恐怖で足がすくみそうになる。


 でも、もう自分の力不足に嘆きたくないだけだ。


 大切な人を失いたくない。


 シャロットは俺を一瞥して、先輩、と声を出す。


「なんだ?」


 俺が聞き返すと、彼女は大きく息を吸ってから、告げた。


「好きです」


「うん?」


 今、シャロットはなんて言った?


 聞き間違えかと思い、走りながらも、シャロットの顔を2度見した。


 彼女の真剣な表情から、今の言葉が冗談ではないことを悟る。


 もしも、今が放課後の校舎裏なら、このシチュエーションにドキドキしていただろう。


 そして、返答に迷っていたことだろう。


 そんな甘酸っぱい青春があったのかもしれない。


 だけど、今は一刻を争う時である。


 立ち止まって返答を考えるときでもないし、そもそも、恋愛にうつつを抜かすときではない。


「今は、違うだろ」


 俺は冷たく言い放った。


「こんな状況だから言うんです。もう、言えないかもしれません。最後になるかもしれないじゃないですか」


 シャロットは笑っていたが、声が震えていた。


 今、行われているのは命をかけた戦いだ。


 ファーレンも、エミリアも、ベルクも、カザリーナ先生も、全員が必死になって戦っている。


 死ぬ可能性だってある戦闘だ。


 怖くないわけがない。


 こんな状況だから、彼女は告白してきたのだ、と俺は気づく。


 シャロットが覚悟を決めて言ったなら、俺も真剣に答えなければならない。


 当然、曖昧な返事や保留は論外だ。


 俺が立ち止まると、つられてシャロットも立ち止まった。


 そして、俺は彼女に視線を合わせる。


「ごめん、シャロットの気持ちには応えられない。俺はナタリーが好きなんだ」


 俺の本心は、自分が思っていた以上に、簡単に、口から溢れた。


 俺はナタリー・アルデラートが好きなんだ。


 ナタリーの意地っ張りで、責任感があって、努力家で、だけど少しお茶目な性格が好きだ。


 大人びた話し方や、品の良い笑い方が好きだ


 光沢のある金髪と、透き通るような碧眼が好きだ。


 雷魔法をかっこよく使えるところが好きだ。


 ずっと側にいたからこそ、いなくなってしまうことを、考えたくない。


 こういう状況だからこそ、自分の素直な気持ちに気づいた。


 彼女が消えてしまうことを想像するだけで、酷い喪失感に襲われる。


 感情を揺さぶられる。


 今、俺の心を支配するのは、胸を締め付けられるような恐怖だ。


 この恐怖の大きさが、皮肉にも、ナタリーの愛しさを伝えている。


 俺はナタリーが好きだったんだ。


「そんなこと、ずっと前からわかってました。この人達、なんでくっつかないの? じれったいなぁ、って思って。今さらなんですよ。本当にもう、今さらです」


 シャロットが目線を伏せる。


 こういう話を、もっと普通のときにしておきたかった。


 他愛もない時間なんていくらでもあったのに。


「俺は、ずっと本心を言えないでいた。だから、ありがとう」


「それ……振った相手に言いますか? 本当に最低ですよ」


 こんなときに告白してくるシャロットも大概だよな。


 そう思ったものの、口には出さなかった。


 別に、シャロットを責めたいわけじゃないが、何気ない日常の中で、こういうイベントが起きてほしかった。


「助けましょう。ナタリーさんとは意見が合わないことも多かったですけど、私の憧れでもありました。絶対に、助けましょう」


 シャロットが決然とした瞳で、力強く言った。


 彼女は、今の会話で何か吹っ切れたようだ。


 同時に、俺はシャロットから勇気をもらった。


 もちろんだ、と大きく頷く。


 絶対にナタリーを助けようと、俺は決意を固くした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ