151. 告白
肖像画の裏にある穴。
俺はその中に足を踏み入れる。
すると、突然、薄暗い洞窟のような通路に切り替わった。
薄暗く、じめじめした場所だ。
壁はごつごつしており、等間隔に灯りが設置されている。
土中を無理矢理にくり抜いたような場所であり、全く舗装されていないため、所々に岩が放置されていた。
「空間転移……もしくは固有空間?」
シャロットが呟く。
肖像画が掛けれれている壁を、物理的に突き破ったとしたら、他の教室に繋がっているはずだ。
しかし、視線の先には通路が続いている。
「見た感じだと、空間転移の方だろうな」
固有空間なら、もっと人工物らしい場所になっているはずだ。
「罠かもしれません」
シャロットが、きゅっと制服の袖を掴んで、怯えた声を漏らす。
「いまさらそれを言っても、仕方ないだろ。どっちにしろ、進むしかない」
俺たちはまっすぐな一本道を走り始めた。
「ナタリーさんを助けられるでしょうか?」
シャロットが緊張した声で話しかけてきた。
「助けるしかない」
できるかできないか、なんていう選択肢の話ではない。
やるしかないんだ。
「先輩は……強いです」
シャロットが声を漏らす。
「強くなんかないよ。俺だって……怖い」
もし、助けられなかったら、と考えると恐怖で足がすくみそうになる。
でも、もう自分の力不足に嘆きたくないだけだ。
大切な人を失いたくない。
シャロットは俺を一瞥して、先輩、と声を出す。
「なんだ?」
俺が聞き返すと、彼女は大きく息を吸ってから、告げた。
「好きです」
「うん?」
今、シャロットはなんて言った?
聞き間違えかと思い、走りながらも、シャロットの顔を2度見した。
彼女の真剣な表情から、今の言葉が冗談ではないことを悟る。
もしも、今が放課後の校舎裏なら、このシチュエーションにドキドキしていただろう。
そして、返答に迷っていたことだろう。
そんな甘酸っぱい青春があったのかもしれない。
だけど、今は一刻を争う時である。
立ち止まって返答を考えるときでもないし、そもそも、恋愛にうつつを抜かすときではない。
「今は、違うだろ」
俺は冷たく言い放った。
「こんな状況だから言うんです。もう、言えないかもしれません。最後になるかもしれないじゃないですか」
シャロットは笑っていたが、声が震えていた。
今、行われているのは命をかけた戦いだ。
ファーレンも、エミリアも、ベルクも、カザリーナ先生も、全員が必死になって戦っている。
死ぬ可能性だってある戦闘だ。
怖くないわけがない。
こんな状況だから、彼女は告白してきたのだ、と俺は気づく。
シャロットが覚悟を決めて言ったなら、俺も真剣に答えなければならない。
当然、曖昧な返事や保留は論外だ。
俺が立ち止まると、つられてシャロットも立ち止まった。
そして、俺は彼女に視線を合わせる。
「ごめん、シャロットの気持ちには応えられない。俺はナタリーが好きなんだ」
俺の本心は、自分が思っていた以上に、簡単に、口から溢れた。
俺はナタリー・アルデラートが好きなんだ。
ナタリーの意地っ張りで、責任感があって、努力家で、だけど少しお茶目な性格が好きだ。
大人びた話し方や、品の良い笑い方が好きだ
光沢のある金髪と、透き通るような碧眼が好きだ。
雷魔法をかっこよく使えるところが好きだ。
ずっと側にいたからこそ、いなくなってしまうことを、考えたくない。
こういう状況だからこそ、自分の素直な気持ちに気づいた。
彼女が消えてしまうことを想像するだけで、酷い喪失感に襲われる。
感情を揺さぶられる。
今、俺の心を支配するのは、胸を締め付けられるような恐怖だ。
この恐怖の大きさが、皮肉にも、ナタリーの愛しさを伝えている。
俺はナタリーが好きだったんだ。
「そんなこと、ずっと前からわかってました。この人達、なんでくっつかないの? じれったいなぁ、って思って。今さらなんですよ。本当にもう、今さらです」
シャロットが目線を伏せる。
こういう話を、もっと普通のときにしておきたかった。
他愛もない時間なんていくらでもあったのに。
「俺は、ずっと本心を言えないでいた。だから、ありがとう」
「それ……振った相手に言いますか? 本当に最低ですよ」
こんなときに告白してくるシャロットも大概だよな。
そう思ったものの、口には出さなかった。
別に、シャロットを責めたいわけじゃないが、何気ない日常の中で、こういうイベントが起きてほしかった。
「助けましょう。ナタリーさんとは意見が合わないことも多かったですけど、私の憧れでもありました。絶対に、助けましょう」
シャロットが決然とした瞳で、力強く言った。
彼女は、今の会話で何か吹っ切れたようだ。
同時に、俺はシャロットから勇気をもらった。
もちろんだ、と大きく頷く。
絶対にナタリーを助けようと、俺は決意を固くした。




