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150. カザリ―ナ対ファラ

 美術室で、カザリーナとファラは、じりじりとお互いの様子を窺うように睨み合う。


 先に動いたのはファラだった。


「発現せよ、溶解液」


 ファラが液体を発射し、カザリーナはそれを避ける。


 液体が当たった壁が、じゅわっ、と音を立てて溶けた。


風穴(かざあな)


 カザリ―ナの放った鋭い風の一撃を、ファラは横に飛ぶことで避ける。


 ファラは足を動かしながら、魔法によって複数の溶解液を作り出し、カザリーナに向けて時間差で放った。


 当たれば、皮膚が爛れる。


 カザリーナは身体強化を使って教室を駆け、飛び回って回避する。


「溶解液よ、集いて、渦潮となれ」


 ファラの放った液体が、至るところから中心に向かって飛来する。


 カザリ―ナがそれらを避けた、次の瞬間、集まった溶液が一体となり、渦のごとく、ぐるぐると回り始めた。


風防障(ふうぼうしょう)


 物理的防壁なら溶液に溶かされるが、風の防壁であれば、その心配はない。


 カザリーナの読み通り、溶液の渦は風の障壁によって防がれた。


 ファラは、ちっ、と舌打ちをし、不愉快な感情を露わにした。


風穴(かざあな)


 大気に穴を空け、真っすぐに突き進む疾風の一打。


 ファラは上半身を横に捻らせて、風穴を避ける。


 そして、彼女は、態勢を崩しつつも魔法を放った。


「断ち切れ! 水縦斬(すいじゅうぎり)


 水が強烈な勢いを兼ねて、縦一閃となり、机や椅子を断ちながら、カザリーナに襲いかかる。


 カザリーナは右にジャンプし、回避するが、ファラは次なる魔法を放つために詠唱を始めていた。


「いでよ、溶塊(ようかい)


 直径1メートルほどある水球が、教室の真ん中に出現する。


 そして、直後――


「――――弾け! 散れ!」


 ファラは叫んだと同時に、後ろに飛んで、2階の窓から外へと飛び降りた。


 その刹那、溶解液の塊が破裂し、四方八方に水弾となって飛び散る。


 触れた瞬間、人も物も溶かしてしまう液体。


 逃げ場のないカザリーナは、先ほどの防御障壁を展開すべく、両腕を突き出した。


風防障(ふうぼうしょう)


 カザリ―ナの前方に風の守りが現れ、溶解液が彼女を避けて、辺りに飛び散る。


 だが、すべての溶解液を避けきることはできず、カザリ―ナの服の一部が溶ける。


 さらに、その下の皮膚が爛れた。


 教室内は酷い荒れ様で、そこら中が焼けたように黒く変色し、凄惨な光景となっている。


 攻撃が止んだ直後、カザリーナの立っていた足元が崩れた。


 溶解液によって、床の一部が崩れたのだ。


 カザリーナは身体強化を使い、着地に備える――。


 落下中に、彼女は真下を確認すると、そこには水たまりができていた。


「水弾」


 水たまりが形を変えて弾丸となり、カザリーナに向かって放たれた。


 カザリーナは空中で身体を捩るが、避けきれず肩に被弾する。


 痛みに耐え、地面に着地すると、次の瞬間――ポタポタと水が滴っている音が、室内から聞こえてきた。


 彼女は瞬時にあたりを見渡し、思考を巡らす。


 土魔法や水魔法は他の属性と比較して、威力が弱い。


 しかし、その代わりに、物質として現実空間に残りやすく、魔力伝導率も高い。


 罠を仕掛けるに、最適な属性魔法である。


 室内のあちらこちらにある水たまり、それらは魔力を内包しており、一気に膨れ上がった。


 危険を察知したカザリーナは、着地の反動をバネに、窓の外に向かって駆け出す。


 直後、地を這うような低い轟音とともに、室内が爆破した。


 カザリ―ナは爆発の勢いで、校舎の外へと放り出される。


 すると、地面に転がるカザリーナに向けて、ファラが魔法を発動してきた。


「沸き立つ水柱」


 カザリーナは転びながら水中を避け、さっと立ち上がった。


「滝となり、飲み込め」


 カザリ―ナに向かって、水が滝のように落ちてくる。


 カザリ―ナは、ポケットの緑黄色の魔石を握り、自身の体内に魔力を流し込む。


 急激に体内魔力が増加すると、魔力酔いが起こりやすくなる。


 しかし、魔力制御に慣れている彼女は、供給した魔力を軽々とコントロールした。


 魔力を魔石から供給した直後、カザリ―ナは魔力循環を行った。


 それによって、身体能力を格段に向上させ、彼女は、地面を蹴って空に飛んだ。


 空中で身体強化を解除する。


 それと同時に、カザリーナは、ポケットの中から小さな魔石を3つ取り出す。


 そして、魔石をファラに向かって投合。


 ファラの周りに魔石が散りばめられる。


「魔石は共振し、炎爆する」


 魔石に内包された魔力が、カザリーナの詠唱に呼応し、共振する。


 次の瞬間、魔石同士が共鳴し、大爆発を引き起こした。


 遠距離にある魔石を用いた魔法の発動――それは、緻密な魔力制御が必要とされる。


 曲芸じみた魔法制御をみせるカザリーナを、クリスが好敵手として認めるのも自然な流れだ。


 大気と、地を同時に揺らす炎爆は、鼓膜を震わせる。


 カザリーナが地面に降り立った瞬間、


「カザリイィィィィィナァァァァァァ」


 狂乱の絶叫が響き渡る。


 ファラが激怒に顔を赤くし、カザリーナを睨みつけていた。


 ファラは、爆発の直前に全身を水で覆い、体を保護していた。

 

 しかし、予想を遥かに超える爆発により、ファラは大やけどを負い、痛々しい姿をしていた。


 視線で人を殺せるような鋭い睨み、憎しみの感情を込め、ファラは魔法を発動する。


「水よ、串刺しにせよ――針地獄!」


 濡れた地面、カザリーナの直下の水が変化し――地面一帯に複数の鋭い針が出現する。


 それは、まさに針地獄であり、針がカザリーナの肩、膝、足裏を突き刺した。


「く……っ……」


 カザリ―ナの口から、苦悶の息が漏れる。


 カザリーナは膝を折り、地面に手を付いた。


 彼女が触れた個所も、針となっており、小さな針がカザリ―ナの掌を貫く。


 それを見たファラは、唇を吊り上げた。


水刃(すいじん)!」


 ファラは水浸しになった土に魔力を込め、カザリ―ナの真下から、水の(やいば)を放とうとした。


 だが――ファラの魔法は発動しなかった。


「なぜ……!?」


 ファラは、驚きの目でカザリーナを見て、直後、「まさか」と声を漏らす。


 カザリーナは、泥となった地面に自身の魔力を込めていた。


 カザリ―ナがやったのは、魔法解除と呼ばれる魔力制御の一種だ。


 魔法とは想像を現実とするものであり、他人の想像に干渉できない以上、魔法を発動前に止めることは難しい。


 しかし、魔法発動の直前に、魔力干渉することで魔法解除が行える。


 ファラが流し込んだ魔力に、カザリーナは自身の魔力をぶつけた、それだけの行為だ。


 しかし、原理として簡単なことであっても、実際に使うのは恐ろしく難易度が高い。


 想像から現実へと魔力変換が行われる、その一瞬で、魔力を打ち消す必要がある。


 実戦で使うとなれば、よりリスクは増大するため、魔法解除が戦場で使われることは少ない。


 ファラが驚愕で固まるその一瞬で、カザリーナは身体強化を施した。


 カザリーナは痛む足に鞭を打ち、針地獄の上を疾走する。


 そして、ファラの目前に迫り、右手に魔力を込めた。


「鉄拳――!」


 鉄拳は、カザリーナがオーウェンに教えた技であり、本家である彼女の威力はオーウェンのそれを大きく上回る。


 鋼鉄を宿したカザリーナの右手が、ファラの腹にのめり込んだ。


「が……はっ……」


 グキッと骨が砕ける音がし、直後、ファラを大きく吹き飛ばす。


 ファラは痛みに顔を歪め、それでも、なんとか立ち上がろうと足掻く。


 しかし、激痛は耐え難いものであり、彼女は足に力を入れることができなかった。


 そんなファラに対してカザリーナは、人差し指を向ける。


風穴(かざあな)


 カザリーナは容赦なく魔法を放ち、ファラの肩を貫いた。


 がくっ、ひざを折り、ファラはうつ伏せになって倒れ、そのまま、動かなくなる。


 カザリーナは、かろうじてファラに勝利した。


 しかし勝利の反動は大きく、針が突き刺さった痛みで体が怠い。


 カザリーナは、崩れるようにその場に腰を下ろす。


 しばらくは動けそうにない、とカザリーナは自身の状況を冷静に分析した。


 そして、美術室の方に視線を向け、


「オーウェン様……頼みましたよ」


 とつぶやいた。


 オーウェンは、カザリーナの最初の生徒であり、最高の生徒である。


 これまで、深い愛情を注ぎ、オーウェンを見守ってきた。


 もうすでに、彼はカザリーナの手を離れ、飛翔の二つ名を体現するように大きく成長している。


 彼ならきっと、ナタリーを救ってくれる、とカザリーナは固く信じた。

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