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140. パーティにて

 交流会の初日。


 午前中は普段どおりに講義を受け、午後からセントラル学園の生徒を出迎えた。


 夕刻、セントラル学園の生徒が乗る馬車が学園中に入ってきた。


 生徒と教師合わせて、数十人がぞろぞろと馬車から降りてきた。


 すでに何度も顔を合わせたことのある生徒ばかりだが、一部、初めてみる子がちらほらいる。


 馬車から降りてきた生徒の中には、水色の特徴的な髪の青年――トールがいた。


 俺はすぐさまトールのもとへと向かう。


「久しぶり、四大祭以来だな」


 なるべくにこやかに、と笑顔で挨拶をする。


 トールは俺を一瞥し、「そうだね」と短く返事をしたあと、俺のすぐ隣を通り過ぎた。


 冷たい対応に、悶々とする。


 モネがいなくなってから、トールは変わってしまった。


 もとから彼は社交的とは言い難かったが、他人に対して、もっと関心を持っていた。


 しかし今は、会話をしたくない、という雰囲気が随所に漂っている。


 それを寂しく思い、トールの後ろ姿を眺めていると、彼がパーティ会場に向かっていないことに気づいた。


「会場はそっちじゃないぞ」


 呼び止めるものの、トールは俺の注意を無視して去っていった。


 大丈夫かな、と心配に思うが、トールだけに構っていられない俺は、パーティ会場に向かった。


 パーティは入学式等の式典で使われる、一際大きなホールで開かれる。


 会場のセッテイングは、生徒会から全校生徒にボランティアを募って行われた。


 そのおかげで、装飾は例年以上に凝った出来となっている。


 生徒の手作り魔道具がちらほら見える。


 サンザール学園の生徒による作品を、たかが生徒の手作り、と馬鹿にできない。


 ここは最高峰の魔法学園なのだ。


 そこに集う生徒たちの実力は折り紙付き。


 魔法によって、あらゆる細工がなされた会場は、見る人の目を楽しませてくれる。


 例えば、空中にぷかぷかと浮かぶ星たち。


 天井から糸が垂らされているが、調整された光加減で糸が見えにくくなっており、星が空中に浮かんでいるようにみえる。


 それらの星は、様々な色に変化し、幻想的な光景を作り出している。


 他にも、壁に立てかけられた巨大な絵画がある。


 サンザール学園のシンボルである、巨大な赤竜をモチーフに描かれている。


 しかし、それはただの絵画ではなく、動く絵画だ。


 まるで生きているかのように、赤龍は絵の中を動きまわり、時々、口から火炎を吐く。


 迫力ある絵画は、セントラル学園生徒たちの視線を集めている。


 魔法学園ならではの魔道具の数々が、サンザール学園の実力を示していた。


 セントラル学園初等部の生徒たちは素直な反応を見せ、しきりに感心したり、驚いたりしている。


 パーティ会場のセッテイングは、シャロットが陣頭指揮を執って行われた。


 魔法工学や魔道具に関して言えば、シャロットの右に出る者はいない。


 彼女はひとつ下なのに、俺よりも遥かに頭が良い。


 独学で魔法工学を学んでいた彼女の知識には、何度も驚かされてきた。


 俺は今回の会場のセッティングを見て、感嘆の声を上げた。


 すると、いつの間にか隣にいたシャロットが、ふふふん、と得意そうに胸をはる。


「こんなの、まだまだ序の口。魔法工学は、今後最も発展していく分野です。10年後には、魔法工学は大きく進歩しているはずです。それだけ革新的な技術です」


 熱弁するシャロットに気圧される。


「俺も魔法工学について、もっと勉強しないとな」


 今後伸びてくる分野なら、なおさら学んでおく必要がある。


 星付きだと言って、調子に乗っていては、時代に取り残される可能性がある。


「にしても、魔法工学の第1人者、ユーマ・サトゥはどんな人物だったんだろうな」


 魔法工学を世に広めた天才。


 名前から推測するに、ユーマ・サトゥは日本からの転生、もしく転移者だ。


 彼の技術は前世で見たものも多くあり、名前も日本人っぽい。


 ちなみに、俺も何度か、前世知識を使おうとしたことがある。


 いわゆる知識チートだ。


 しかし、インターネットに頼っていた俺は、何かを生み出せるほどの知識もなく、知識チートなんて無理だ、と諦めた。


 現代日本の知識を持っていたところで、一般人レベルの浅い知識では使い物にならない。


 それに対して、日本人だと思われるユーマ・サトゥは天才だろう。


「ユーマ・サトゥに興味があるんですか?」


 シャロットが俺の呟きに反応し、尋ねてきた。


「いや、うん……そうだな。彼が生きているうちに、一度は話したかったな」


「そうですよね。彼の頭脳は人類の何十年も先を行く、と言われていますから。私も彼の頭の中がどうなっていたか、知りたかったです」


「きっと、同じように考えていた魔法研究者は多いと思う」


 ユーマの死は魔法工学の発展を大幅に遅らせた、と言われ、魔法社会に大きなインパクトを与えた。


「ですよね。若くして亡くなる天才……せめて、あと十年は生きていてほしかったです」


 惜しむような彼女の呟きに、俺も同意し、頷いた。


 それから、シャロットと少しだけ雑談した後に別れ、俺は会場の中央に向かった。


 いくつか用意された丸テーブルの上には、様々な料理が並べられていた。


 そして、器に盛られた食材の横には、色とりどりの花があり、皿の上を彩っていた。


 俺はテーブルに置いてある、空のグラスを手にとった。


 果実がたっぷり入ったオレンジジュースを、グラスの7分目まで注いだ。


 ちょうどそのとき、ぱっと照明が落とされた。


 天井から吊るされる星も、照明によって反射された明かりであるため、真っ暗闇になった。


 ざわめきが会場を支配する中、突如、壇上が照らされた。


 そこにいたのは学園長だ。


 凝っているな、と思い、離れたところに立つシャロットに視線を送る。


 すると、軽くウィンクを返された。


 これはパーティを盛り上げるための、シャロットによる演出だ。


 俺は事前に説明されていたため、大きな驚きはない。


 学園長は仰々しく身体を動かし、芝居がかった口調で、挨拶を始めた。


 そして、話を終えた学園長は、右手で持っていたワイングラスを高々と持ち上げる。


「乾杯!」


 低く、よく通る学園長の声が、パーティ会場に響いた。


 こうして、交流会のパーティが幕を開けた。

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