133. 魔導団視察②
少し短めですが投稿します。
ちょうどユリアンとの会話が終わったときだ。
ナタリーと話をしていた魔導団の女性――ファラが近づいてきた。
「あなたがオーウェンね。私はファラよ。よろしくね」
「はい。よろしくお願いします」
握手を求めてきたファラ、それに応じるように手を出す。
彼女のしっとり感のある肌が、握手した後でも感触として残った。
きめ細やかな肌であり、なるほど、と良くわからないことに納得する。
挨拶を済ませた後、しばらく彼女と談笑した。
会話が途切れたところで、ファラはちらちらと周りを確認し始める。
「カザリーナはいる?」
「カザリーナ先生ですか? 多分、いると思いますけど」
俺も彼女につられて周りを確認するが、今この場にカザリーナ先生はいない。
というか、この時間帯は一応モーリス先生の講義の時間だ。
カザリーナ先生がいるわけがない。
「カザリーナ先生の知り合いですか?」
「そうね、同級生よ。少し挨拶をしようと思ったけれど、いないならいいわ」
「また違う時間で会えると思います。カザリーナ先生と同級生ということは、クリス先生とも……」
そうよ、と頷くファラに俺は小さく驚いた。
なぜならファラはクリス先生やカザリーナ先生よりも随分と若くみえるからだ。
もちろん、クリス先生やカザリーナ先生が老けて見えるわけではない。
あの2人も相当な美人であるが、ファラよりも年上な印象を受けるのだ。
「仲が良かったんですか?」
「仲が良い? ……そうね。クリスとはお互いライバル同士だったわ」
「カザリーナ先生とはどうなんですか?」
すぅーと目を細め、ファラはニヤリと口元を歪める。
「そういえば、カザリーナは私にいつも負けてばかりだったわね」
「そうなん……ですか?」
魔導団に入るほどだからファラが優秀であったのは、なんとなく想像できる。
でもカザリーナ先生が負けた、と言われるとなんだか……もやもやした気分になる。
「貧弱な魔力しか持たず、才能だってない……そんなカザリーナが私に勝てるわけないじゃない」
ファラの言葉にはカザリーナ先生に対する侮蔑が見て取れる。
棘があり、見下すような発言に対し、俺は少し……いや、かなりイラッとした。
苛つきを内心に押し込めながら、
「カザリーナ先生は偉大な人です」
静かな口調でファラに視線を向ける。
「あら、そんな怖い顔をしちゃ嫌よ。能がないからと言って、クリスのおこぼれを預かるだけの、そんな彼女のどこが偉大なの?」
首をかしげ、心底不思議そうな表情を作るファラ。
「クリス隊長ですよ」
隣にいたユリアンがファラに指摘を入れる。
「そうね……。つい、昔の呼び方をしてしまったわ。私ったら……。ごめんなさいね」
まるで悪びれる感じもなく、ファラはそういった。
その態度も自分はクリスと同等なんだ、と言外に匂わせるようで嫌な感じがした。
高慢でいて、人を見下すような雰囲気が好きにはなれない。
「カザリーナ先生はクリス先生のおこぼれを預かってもいませんし、そんなことで威張るような人でもありません。あなたがなんと言おうと、カザリーナ先生は偉大な人で、僕の生涯の師です」
ファラは冷たい視線を俺に向けて、水色の瞳で射抜いてきた。
「あなたのような素晴らしい才能を持つ子がカザリーナの弟子であったこと。それが魔導団にとって……いえ、この魔法界において大きな損失とならないことを願うわ」
俺は彼女の言葉に苛立ちが隠しきれず、声を荒げようとする。
しかし、ファラは「うふふ、冗談よ」といたずらっぽく笑い、妖美な仕草で口元に指をあてた。
そんなファラに怒りをぶつけることもできず、中途半端な憤りを俺はうちに押し留めた。
彼女は「じゃあ、またね」と言ってから、さっと身を翻してこの場を去る。
そしてファラに視線を向けていた男どもの方へ向かっていった。
このビッチめ、と俺は彼女の後姿を睨みつけながら内心で毒づいた。




