131. ピクニック⑥
このままでは駄目だ――脅迫観念がナタリーを支配していた。
オーウェンとともに歩む。
それは、彼女の決意だった。
オーウェンはいつもナタリーの知らない場所で動き、傷つき、勝手に解決してくる。
ナタリーの助けなどまるで必要にしていない。
一人でなんでもやろうとしないで。
そうと訴えかけても、すぐにどこかに消えてしまう。
悔しくて悲しかった。
同時に、彼女はとても不安だった。
何か困ったら自分に頼って欲しかった。
しかし、ナタリーは自身が頼られるほどの存在でないことも理解していた。
「それに私は公爵家の長女よ」
加えて、アルデラート公爵家としての重圧。
アルデラート家は王族派筆頭の公爵家だ。
王国には3つの派閥がある。
王族に権力を集中させる王族派。
それぞれの領地に権力を分散させようとする貴族派。
そして、そのどちらにも属していない中立派。
現在は王族派が最も権力を有しており、長女であるナタリーの責任の重さがわかるだろう
完璧なんて存在しないはずなのに、彼女は完璧を目指さざるを得なくなっている。
幼い頃から厳しい教育環境で育ってきたこともあり、今更行動や思考を変えれない。
常にミスなく、他人よりも上の結果を求める。
アルデラート公爵家長女としての責務であり、彼女のプライドとも言えた。
オーウェンへの想いとアルデラート家の重圧が重なり、ナタリーは焦りを感じずにはいられなかった。
「知ってるよ……。色々抱えているのは知ってる。でも無理をしすぎじゃない?」
ナタリーを一般生徒の視点から見れば、才色兼備のスーパーウーマンとして映るだろう。
生徒会長の仕事をしっかりこなし、コミュニケーション能力に長け、優れた魔法の才能がある。
それなのに自らの粗を探し、常に足りないと自身を追い込むのがナタリーだ。
「まだまだだわ。もっとやらなきゃいけないの」
エミリアは、そんな頑固なナタリーを見て「はぁ……」と呆れる。
正直、ナタリーはごちゃごちゃ考えすぎだ、とエミリアは思った。
馬鹿なの? と思うほど責任感があり、肩肘を貼りすぎなくらいの向上心を持っていて、そしてオーウェンのことを想っている……エミリアはナタリーをそのように評していた。
要は不器用なのだ。
無駄にキャパシティが広い分、ある程度のことはできてしまう。
だからこそ、不器用のくせに器用に見えてしまうのがナタリーだ。
本当に馬鹿なんだから、とエミリアは思いながら、
「ナタリーは自分のことをもっと評価してあげた方がいいと思うよ。がむしゃらに走るのもいいけど、落ち着いて自分を見てみると、案外私ってできるかもって思えるよ」
「そんなこと――――」
そんなことないわ、とナタリーが自分自身を否定するが、エミリアはそれを遮る。
「ほら……また自分を過小評価しようする。そもそも得意不得意があって当たり前。人間の能力なんて限界があるし、全部をやれるような超人なんていない。だからさ、肩の力を抜こうよ。リラックスしようよ。だって今日はこんなに晴れた日で、こんなに落ち着ける空間にいるんだから」
自分のできることとできないことをしっかり見極めているのがエミリアだ。
エミリアの世代には天才たちがいる。
その天才たちの中にナタリーも含まれている。
どんなに頑張っても追いつけない人たち。
彼らがいるからこそ、エミリアは自分と見つめ合う機会が増えた。
「エミリアが羨ましいわ」
「羨ましがるポイントなんてあった?」
「ううん、私の話。オーウェンやシャロットに嫌な思いさせてしまったわね」
「うん……まあ、あっちはあっちで楽しんでるからいいと思うけど……。戻る?」
「いいえ、エミリアと2人がいいわ。落ち着けるもの」
ナタリーにとって一番気を許せる相手がエミリアだ。
オーウェンといると、色々考えさせられてしまう。
シャロットとは相性が悪い。
本当に……ナタリーはシャロットとは気が合わないのだ。
だからと言って業務に支障が出ることはないようにしているが。
「今日は2人で楽しんじゃおう! ねっ!」
「そうね。そうしましょ」
ナタリーは頷いてからエミリアをまじまじと見た。
「え? なに?」
いきなり見つめられたエミリアはもじもじと手を交差させる。
「友達でいてくれて、いつもありがとう」
唐突なナタリーの感謝の言葉。
それ対し、照れたような反応を示すエミリア。
その姿が面白く、ナタリーはくすっと笑ってしまった。
「今日初めてちゃんと笑ったね」
「そう……かしら?」
「そうだよ。やっぱり笑ってる方が良いよ。最近、むぅーって顔してて怖かったもん」
エミリアはそういって唇をたてて眉間に皺を寄せた。
「そんな怖い顔してた?」
「眉間に皺が寄りすぎて般若みたいだったよ」
「おおげさすぎ」
「大げさじゃないって。でも……機嫌が直って良かった」
エミリアは久しぶりにナタリーと楽しい会話ができ、自然と笑みがこぼれた。
その後、エミリアとナタリーは2人の時間を存分に楽しみ、気がついたら日が暮れ始めていた。
ちょうど、帰ろうとしていたタイミングで上空からオーウェンが現れ、本日のピクニックは終了した。




