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129. ピクニック④

 数分間歩くと、川が折れ曲がっている地点まで来た。


 ここの地形を空から見れば、円弧となっているはずだ。


 さっきから、シャロットと雑談しながらだらだらと川沿いを歩いているだけだ。


 フィールドの調査なんて全くやっていない。


 ぶっちゃけ、調査と言ってもやることはそんなにないんだけど。


 森の中も特に危険があるわけでもなさそうだし。


 ただ……全く遊びに来ただけってなると、余計ナタリーに嫌な思いをさせてしまうな。


「そろそろ――」


 そろそろ、森の中にでも行こう……そう提案しようとしたときだ。


 「えいっ」というシャロットの声が聞こえてきた。


 すると、右側から水をピシャっとかけられる。


「つめたっ……!」


 俺は頬に当たった水の冷たさに思わず体が反応する。


 シャロットの方を見ると、楽しそうに笑い声を上げていた。


「なんだよ、いきなり」


「だって、先輩。今日はピクニックでしょ?」


「いや、それはそうだけど……」


「遊んでてもいいのか? と……そう考えてる顔してますよ」


「まあ、一応、調査に来たわけだしさ」


「生徒会長に申し訳ない気持ちでもあるんですか?」


「そういうわけじゃ……」


「じゃあ、遊びましょうよ。少しだけです。せっかくこんな綺麗な川に来たんだから、ちょっと遊ぶくらいでバチは当たりません」


 シャロット後ろには空の青さを映す川が広がっていた。


 彼女の言葉に、たしかに、と納得する。


 今このときを楽しもう。


「シャロットは水切りってやったことがあるか?」


「水切り……ですか?」


 シャロットは小首を傾げながら聞き返した。


「水面に向かって石を投げて、水面で石を跳ねさせる遊びだ」


 俺はそういって砂利の中から平な5センチ程度の石を拾った。


 そして、右膝を地面に付け低い態勢を取る。


 川に向かって、石を回転させて投げた。


 石を横回転しながら水面に触れると、ピチャッと音を立てて跳ねた。


 水面を3回飛び、4回目にポチャンと川の中に落ちる。


「これが水切りってやつだ」


「すごいですね! どういう原理なんですか?」


「入水時の角度とか速度とか回転とかがうんちゃらかんちゃらで……。つまり、よくわからんけど跳ねるんだ」


 水切りの原理なんて知らない。


 俺は雑学王ではないのだから。


「一回やってみ? 楽しいぞ」


「はい! やってみます」


 シャロットは直径30センチはある、明らかに水切りに向いてない石を両手で持ち上げた。


「ちょおっと、ストップ! それで何やろうとしてる!?」


 なんか人殺しができそうな石だぞ、それ。


 血が付着してたら、間違いなく凶器に使われたと判断されるだろう。


「え、そうなんですか。って始めからいってくださいよ」


 少し拗ねた表情をするシャロット。


「いや、言わなくてもわかるだろ。水切りで使う石ってのはな、もっと小さくて平な石がいい。例えば……」


 俺は落ちているちょうど良さそうな石を見つけ拾うと、シャロットに渡す。


「こんな感じのもの。一回投げてみ」


 シャロットはコクリと頷いて、平で小さな石を受け取った。


 そして、石を右手で持った状態で振りかぶる。


 おおっと、シャロット選手! 振りかぶって投げました! っと実況できそうな綺麗なフォームで川に向かって石を投げた。


 直後、ドンッという音が耳に届いた。


 石が浅い川の中、地面の奥深くまで突き刺さった。


「ちょ……もしかして身体強化使った?」


「あ、はい。力強く投げた方が良いかと思いまして」


「力強すぎない? 穴、空いちゃってますよ」


「うーん、水切りって難しいですね」


 シャロットはちょこんと首を傾ける。


「とりあえず、身体強化はなしでやってみようか。それと振りかぶらなくていいから」


 俺は手頃な石を拾い、もう一度手本を見せるようにして投げた。


 さっきと同様、石は水面を3回跳ねて水の中に消えていった。


「石に横回転を加えながら、低い位置から投げる。力は……ほどほどに」


 端的にコツを伝える。


 シャロットは手頃な石を拾って、俺が言ったとおり投げた。


 ピチャン……ピチャン……ピチャ…ピチャ、ピチャ、ポチャン。


 石は水上を5回も跳ねてから水中に落ちていった。


「できました!」


 シャロットは嬉しそうに振り返った。


「おお、いきなり5回も……」


 なんか、ちょっと悔しい。


 ま、まあ……俺が本気を出せば10回くらい余裕でいけるけどな。


 まだ本気を出していないだけ。


「ちょっとだけ、俺の本気を見せてやろうじゃないか」


 水切りは石の選定が重要だ。


 平で回転を加えやすそうな石だ。


 俺はしっかり石を見定め、これだと決めた石を拾い、そして、


「しゃああああああ」


 変な掛け声を上げながら石を投合。


 ぽちゃん……。


 なん……だと!?


 0回……だと……!?


 力を入れすぎたせいで、角度とか回転とかを疎かにしてしまった。


「先輩、跳ねてませんよ。早く本気とやらを見せてください」


 ニマニマとからかうような視線を向けてくるシャロット。


 くそ、恥ずかしい。


「いや、こういうときもあるから……次は本気出すし」


 そういって石を拾って投げたが……結果は残念。


 3回しか跳ねなかった。


 なぜだ?


 そうだ!


 きっとこの世界の水は前世と水と何かが違うんだ。


 きっとそうだ。


 そうに違いない。


 シャロットがいつの間にか拾っていた平らな石を川に向かって投げた。


 すると、石が6回も跳ねた。


「あれれ、先輩。どうしました?」


 煽ってくるシャロット。


 これが青は藍より出でて藍より青し、か。


「ふっ。師匠を超えたか。さすがは我が弟子」


「何言ってるんですか?」


「ちょっと現実逃避」


 その後、シャロットの6回の記録を超えるために一人で頑張った投げた。


 何回目かの挑戦でシャロットの記録を塗り替え、石が8回も水面を跳ねた。


 ふふふ、どうだ。


 俺だってやるときはやるんだぞ、という思いを込め、自慢気にシャロットを見る。


「子供っぽいところありますね」


「男はいつまで経っても少年の心を持ち合わせているのさ」


「あぁ……はいはい。そうですね」


 シャロットはジト目になりながら棒読みで言った。


 どうやら、男の気持ちは女にはわからないらしい。


 これが男女の脳の違いだろうか?


 男と女は永遠にわかり合えないものだからな、と斜め上……虚空に視線を向け、ワイルドな感じを出してみた。


 まあ……全然ワイルドじゃないけどな。

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