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128. ピクニック③

 サンドイッチを食べ終わり、そろそろ昼休憩も終わりだ。


 俺が立ち上がると、他の面々も動き出す。


 全員が立ち上がりレジャーシートの上に荷物がないことを確認した俺は、シートを畳み込む。


 そして自身の鞄の中にしまい込んだ。


「さて、帰るか!」


 用事は済んだわけだし、もう帰っても良いんじゃないか?


 ……というのは冗談だ。


 今からが調査の本番だからな。


「馬鹿なこと言わないで」


 ナタリーに少し強めの口調で言われた。


「いや、まあ、冗談だよ」


 ははは、と笑いながら応える。


 今のナタリーに言うような冗談ではなかった。


 ちょっとテンションが上がっていたせいで、ナタリーの癇に障る発言をしてしまった。


「冗談……ね。帰りたかったら帰っても良いわよ。別にあなたがいなくても大丈夫だわ」


 俺の返答が気に入らなかったのか、ナタリーが一言つけ加えた。


 さっきまでスッキリと晴れた気持ちだったのに……急降下。


 眉間に皺を寄せ、言い返そうとする。


 だが、その前にシャロットが口を開く。


「どうして生徒会長はそんなに機嫌が悪いんですか?」


「機嫌が悪い? ……そのように見えるのかしら?」


「はい。はっきり言って、そういう態度を取られるのは迷惑です」


 シャロットは歯に衣着せぬ言い方で突っ込む。


 このズバっと食い込んでいくのはシャロットの長所であるとともに短所でもある。


「そう見えていたら謝るわ。ごめんなさい」


 ナタリーは、自分が悪いと感じたのか謝罪を口にする。


「謝って欲しいわけではありません。どうして機嫌が悪いかを聞いているんです」


 理由を聞いているシャロットからしたら、ごめんなさい、の言葉は不要らしい。


「ま……まあまあ……シャロットもナタリーもそんなに怖い顔しないで」


 エミリアが二人の仲裁に入る。


 ナタリーはそっと顔を背け、シャロットはナタリーを睨んだまま、わざとらしくため息を吐いた。


「今から別行動しましょう。そうした方が……効率が良いわ」


 まるで一人になりたいというのように、ナタリーはぼそっと言った。


「そんなに効率考えなくても良くないか? ピクニックなんだし」


「だらだらとやるのが嫌いなのよ。生徒会としての仕事と遊びを一緒にしたくないわ」


 それなら、なんでピクニックに行くことに賛成したんだよ……そう言いそうになるのを抑える。


「私は一人で良いわ。北の方を探索してくるわ」


 ナタリーはそう言うや否や、その場をすぐに去ろうとする。


 俺はナタリーを呼び止めようとすると――――


「じゃあ、オーウェンとシャロットは北の方を見てきて。私がナタリーと一緒に行動するよ」


 エミリアがナタリーの後を追っていった。


 その後ろ姿を見て、エミリアに任せようと思った。


 おそらく、俺やシャロットよりもエミリアの方がナタリーに寄り添える。


「生徒会長、自分勝手な人ですね」


 シャロットは不満を顔に表しながら言った。


「長として忙しいんだろ」


 彼女の欠点を挙げるとすれば、色々なことを一人でこなしてしまう点だ。


 個人として間違いなく優秀だ。


 だが、組織の長を務めるなら他人に任せるのが重要になってくる。


 ナタリーもそのことは理解しており、他人に任せる所はしっかり任せている。


 だけど、ナタリーは自分に多くの負担がいくようにしているため、結果として彼女自身が大変になっている。


 本人はそのことに気づいていないのが問題だ。


 そして、その反動で色々抱えすぎてしまい、苛ついていると……俺は考えている。


「それはわかりますけど、先輩がわざわざ親睦を深めるために提案したピクニックですよ。それを壊して……感じ悪いです」


 シャロットの言う通りなんだけどな。


 楽しみしていたピクニックであんな態度取られたら……俺だって嬉しくない。


「俺たちは俺たちで行動しよう」


 今はあんまり考えないようにする。


 噛み合わないときっに無理に合わせようと思っても駄目だ。


 そう思うことにした。


「そうですね。私的にはこれで問題ありませんから」


 川を沿って南東……王都方面に向かう。


 しばらく無言で川を見つめながら歩く。


 砂利の上を歩いている途中、シャロットが酷に耐えかねたのか、口を開いた。


「森と言えば……先輩は初等部1年のときにハイオークを倒したと聞きました。あれって本当のことですか?」


 身長が俺よりも大分小さいシャロットが、下から覗き込む様に聞いてきた。


 俺はシャロットに視線を移す。


「俺が倒したわけじゃないよ。倒したのはクリス先生だ。どうしてそんなこと聞くんだ?」


「いえ、何か話題がないかと思いまして……」


「気を使わせてたか……申し訳ない」


「いや……そういうことじゃないですけど……。でも、先輩は凄いですね」


「すごい?」


「はい。魔法の才能ももちろんですけど、勇気というか……蛮勇というか……」


「蛮勇って……全然褒めてないだろ」


「いえ、そんなことありません。これは言葉の選択を間違えただけでして……」


「そっか。……まあ言いたいことはわかるよ」


 人並み外れた才能を自分が持っていることは自覚している。


 この認識は奢りから来るものではない。


 四大祭で2度の優勝という事実から来る当然の認識だ。


 それに……自分が凡庸な才能の持ち主だと認めることは、俺に負けた人たちにも失礼だ。


「そういうシャロットだって凄い。魔力量は人並なのに主席だなんて」


 人並みというのはサンザール学園基準での話だが。


 学園の生徒は一般人と比べ物にならないほどの魔力を有している。


「運が良かっただけです。落ちこぼれ世代ですから」


 落ちこぼれ世代……とひとつ下の世代が揶揄されているのは知っている。


 俺たちの世代と比べると、たしかに一個下は霞んで見える。


「それでも1番は凄い。1番と2番の間には大きな差があるから。それに会計に関して言えば、大人よりも詳しいじゃないか」


「父の手伝いをしているのが幸いしました」


「へー、金貸しだっけ?」


「そうです。嫌われ者の金貸し業です」


「どの社会でも、金貸しは嫌われたり蔑まれたりする傾向にあるからな。お金を貸したら利息がつく。その利息って普通は返したくないもんな。お金は借りたいけど返したくない。それが普通の人の考えだ。でも俺は、お金を貸すことが悪いこととは思ってない」


 ドラマとかで金貸しが悪い人という印象が抱かれやすい。


 例えば、ヤクザが到底返せないほどの金利で金を貸し、最後には借金返済できなくなったサラリーマンが首をつる、といった話だ。


 こういった認識からお金を貸す人=悪者という構図ができあがってしまった。


 だけど、お金の貸し借りは経済を循環させるために重要な役割を持つ。


 確かに金貸しは悪い一面もあるが、良い一面だってある。


 極端な話だけ持ち出して良し悪しを判断すべきではない、と俺は考えている。


「それに……個人的な意見だけど、お金に疎い人よりもしっかりお金の管理ができる人と結婚したいな。だってそっちの方が将来困らないだろ?」


 浪費癖のある嫁さんよりも家計の管理ができる嫁さんの方がいいに決まっている。


 会計ができるというのは、それだけ価値があるってことだ。


 まあ、この世界の人が嫁に家のお金の管理をさせるかはわからんがな。


「け……結婚!? オーウェン先輩はお金や数字に強い人はお好きということでしょうか?」


 シャロットがささっと距離をつめて聞いてきた。


 いきなりの彼女の変化に戸惑う。


「いや……例えばの話だよ。まあ、そりゃあ知識を持っている人の方が良いけど……」


 と俺が言うとシャロットがぐっと拳を握り、ニヤニヤした顔を見せる。


 え? なに?


 その質問とその反応……勘違いしちゃうんだけど?


 いや、勘違いはしないけど。


 だってシャロットが俺に気があるなんて……そんなわけないからな。

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