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12. ダンス

 俺はナタリーを抱きながら、バルコニーから飛び立った。


 後ろの方で、ラルフがなにやら叫んでいるが、俺の耳には入ってこない。


 ふー、やっぱり空はいいな。


 人類は空に憧れ、バベルの塔などの高い建物を建てた。


 さらには、飛行機を作り、空を飛べるようになった。


 そして、オーウェンは空を飛ぶことに成功したのだ。


 これぞ、人類の進歩だ。


「ま、まさか飛行魔法!?」


 ナタリーが驚愕している。


 過去に【魔女】と呼ばれていた存在が飛行魔法を使えたものの、彼女以外、飛行魔法が使える人間はいない。


 それにも理由がある。


 この世界の概念に『重力』はないのだ。


 重力の代わりに「万物は地面に縛り付けられている」という考え方らしい。


 そのため、地面から解放されれば空を飛べると考られている。


 万有引力によって引き付けられているというのが事実であり、このちょっとした認識の違いが問題だ。


 現象を正しく理解していない状態で魔法を行使しても効果は薄い。


 特に空を飛ぶというのは、その認識の違いで結果が大きく変わってくる。


 そういう理由があり、飛行魔法は難しいとされてきた。


 だが、万有引力を知っている俺は飛行魔法、もとい重力魔法が使える。


 これは、俺一人で生み出したというよりも、前世の知識とカザリーナ先生の知恵のおかげだ。


 先生も万有引力の考え方を聞いて、びっくりしていたな。


 だけど、先生は柔軟な発想の持ち主のようで、原理を説明すると納得してくれた。


 さすがは先生だ。


 大抵の人は常識と異なることに対し、ばかばかしいと嘲笑う。


 ガリレオガリレイの地動説もしかり。


 一節にはガリレオは地動説をそこまで主張しなかったらしいけど。


「え、ええー! オーウェンどういうこと!? 空飛んでいるわよ!」


「そうだ! 気持ちいいだろ!」


 俺も初めて飛行に成功したときは感動したな。


 解放感が半端なく、嫌なことも忘れてスッキリする。


 だから、気持ちはわかる。


 人は空に憧れる生き物なのだからな!


「ええ! とーっても気持ちいいわ! ほら見て! 私の家が小さく見える! あはははは!」


 彼女の無邪気な笑い声が耳元で聞こえてくる。


「俺からの誕生日プレゼントだ」


 ちょっと、気障なことを言ってみた。


 どうだ?


 かっこいいだろ?


「オーウェン! ありがとう!」


 抱きしめているため、ナタリーの顔は見えない。


 でも、喜んでいるのは、その声から伝わってくる。


「どういたしまして……。そろそろ降りるぞ」


「えー! もう少し飛んでよね!」


 ナタリーがさっきよりも幼く見える。


 いや、これが素なのかもな。


 空を飛べてはしゃいでいるようだ。


「ごめん。さすがに二人分の重さでは、飛行を維持できない」


 重力魔法の制御は難しい。


 こればっか練習してきたから、なんとかできるようになった。


 俺は徐々に高度を下げていき、噴水があるところに着地する。


「ふー、疲れた」


 俺は彼女を放すと、地面に尻餅をつく。


 結構、神経を使ったな。


 少しでも制御を誤れば地面に急降下だ。


 ほんの30秒ほどの飛行なのに、体中が汗でべたべたになった。


 昔と比べて、だいぶ痩せたため、嫌な匂いがしないのが幸いだ。


「あなたって、すごいのね。もしかして、悪名被っているのはカモフラージュかしら?」


 それは俺じゃなく、(オーウェン)のせいだ。


 どっちも俺か。


「若気の至りってやつだ」


「まだ若いじゃない……」


「ふっ。大人ぶりたい年ごろなのさ」


「それ、さっきも聞いたわ……。やっぱり変な人ね」


 ナタリーは表情を緩めて言った。


 別に、変な人でもいっか。


 彼女を笑わせることができたんだし。


「どうだ? 楽しかったか?」


「ええ。とても楽しかったわ。それより、こんなことして大丈夫なの? 傍から見たら誘拐犯よ。それも公爵家の私を」


「だ、だ、だ、大丈夫だ……。俺は悪名高いオーウェン・ペッパーだからな」


 もともと評価が最低なのだ。


 このぐらいやったところで、さらに評価が下がるだけ。


 それなら、落ちるところまで落ちてやろうじゃないか。


 ハハハハハ……。


 ちょっと、焦ってきた。


「ふふふ。オーウェンって面白いわね。ところで、ダンスはできる?」


「ダンス? あんまり得意じゃない。練習してこなかったから」


 1週間みっちり練習したおかげで、ステップ程度ならできるけど。


 俺にはダンスの才能が全くないことがわかってしまった。


 リズム感が壊滅的らしい。


「はあ……。ほんとに伯爵家の嫡男なのかしら? まあ、いいわ。一緒に踊りましょう」


「え、なんで?」


「今はダンスの時間よ。本来ならば主役として、会場のど真ん中でダンスを披露していたのに。誰かさんに誘拐されたものだから」


 それは俺のせいなのか?


 うん、間違いなく俺が悪い。


 そう言えば、かすかにだが会場の方から曲が聞こえてくる。


「あんまり踊れないけど。それに、まだ汗でびしょ濡れだけど大丈夫?」


 俺はそういいながらも、立ち上がる。


「大丈夫よ。気にしないわ」


 そう言って彼女は俺に近づいてきて、腰に手を回した。


 なんか、ドキドキするな。


 ナタリーは10歳児とは言え、文句なしの美少女だ。


「お手柔らかに頼むよ」


 会場からこぼれる僅かな音を頼りに踊り始めた。


 俺のぎこちない動きををカバーするように、ナタリーは踊る。


 そうして、暗闇の中でしばらく踊るのだった。

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