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104. 動き出す者達

 オーウェンが勝った。


 多くの者がユリアンの勝利を疑っていなかった中、ベルクはオーウェンが勝つと信じていた。


 いや、ただ単にオーウェンに勝って欲しかった。


 それはオーウェンならユリアンよりも勝ちやすい……という安直な考えではない。


 むしろ、その逆。


 ユリアンにも勝つほどの実力を持ったオーウェンに勝ちたい。


 どうしてそこまで彼との戦いを望むのか?


 それはベルクにとってオーウェンが理想の存在であるからだ。


 ベルクはオーウェンのような魔法使いになりたかった。


 そして星付き魔法使いに強い憧れを持っていた。


 だが、この魔法至上主義の国で魔法が使えないベルクは蔑まれてきた。


 無能の第三王子。


 それがかつての彼のあだ名だ。


「僕はオーウェンが羨ましい」


 強欲で嫉妬深い……ベルクは自分のことをそう評している。


 誰からも称賛されるほどの魔法の才を望み、そして才ある者に嫉妬した。


 身体強化を極め、四大祭という大舞台で決勝戦に進出した今でも、その気持は変わらない。


「だからこそ、君に勝ちたい」


 オーウェンに勝つことで、自分の努力が間違っていなかったことを証明したい。


 ベルクは剣の鞘を握り、息を吸う。


 そして―――スパッ―――。


 剣閃が宙を裂く。


 腰にさしていた片手剣を振った。


 それはまさに神速。


 息を吐くと同時に身体強化を行い、瞬間的に爆発的な速度を生み出した。


 だが、特筆すべきは速さだけでない。


 ベルクの動きは極限まで無駄を削ぎ落としたものであり、そこには速度以上の疾さがある。


 齢15にして極みに達した剣。


 それは彼の天賦の才によるところが大きい。


 しかしそれ以上に、彼の血の滲む努力が窺える。


 しばらくの間、ベルクは剣を振り続ける。


「まだだ……まだ届かない」


 ベルクの求める剣は――理想はまだずっと先にある。


「これではオーウェンに勝てない」


 とベルクが呟いたときだ。


「おや? 何かお困りのようですね」


 ベルクはパッと後ろを振り返り、そして低い声で問うた。


「誰ですか……?」


 どこからともなく、現れたその人物は黒色の帽子を被っていた。


「私はあなたの味方ですよ」


「味方? 到底そのようには見えませんが」


 そういいながら、ベルクは帽子の男に最大限の注意を払う。


 ここは学園の敷地内にある公園だ。


 ベルク以外の存在がここにいてもおかしいことではない。


 だが、目の前の男から放たれる雰囲気が、ベルクの警戒を強めた。


 おそらく学園の関係者でない。


「そんなに警戒しないでください。あなたに危害を加える気はありませんよ」


「急に背後をとられたら警戒もします」


 注意深く男を観察していたベルクは、気がついたことがある。


 直後、片手剣を男に向けて一振り。


 それは常人では目で追うことすらできないほどの速度だ。


 剣は帽子の男の体に触れ――――なかった。


「いきなり攻撃とは……乱暴なお方ですね」


 帽子の男はなんでもないように笑った。


「実体が……ない」


 剣は間違いなく帽子の男にあたった。


 だが、彼の体に触れたと思いきや、そのまま通り抜けたのだ。


「バレてしまいましたか。これはホログラム? というものらしいです」


 当然、ベルクはホログラムが何かを知らない。


 ただ、こんなものが作れる人間は一人しか知らない。


「狂人の遺産ですか……」


 ベルクは眉をひそめながら言った。


 かつて天才の名を恣(ほしいまま)にした一人の少年がいた。


 だが、いつしか道を踏み外したその少年は【狂人】と呼ばれるようになった。


 狂人が作り出した魔道具はいくつもある。


 そのどれもが、彼以外では到底考えもつかないような発想から作られたものだ。


「狂人とは酷い言いようです。彼は偉大な発明家ですよ。ただ……少し精神に異常をきたしているだけです」


「その異常者が過去に起こした虐殺を忘れたとは言わせませんよ」


「それも彼には必要なことだったのでしょう。……まあ、彼のことを話に来たのではありません。明日の決勝戦。私に何か手伝わせてくれませんか?」


「手伝い?」


「あなたが望めば確実な勝利を約束しましょう」


 もちろんベルクは勝ちたいと思っている。


 明日の決勝戦をどれほどベルクが望んできたか。


 きっと誰にもわからない。


 そして、優勝したいという思いは他の誰よりも強いと自負している。


 ベルクが黙っていると、帽子の男が続けていった。


「明日の試合で勝つことで星付きになれる。この機会(チャンス)を逃すわけにはいかないと……そうは思いませんか?」


 星付きとは一ツ星以上の魔法使いのことを示す。


 身体強化は魔法ではないため、ベルクは星付きの魔法使いにはなれない。


 だが、中等部もしくは高等部のときの四大祭で優勝すれば星付きになれる。


 それをベルクが望まないわけがない。


 だが、勝利を約束という甘美な言葉に乗るほどベルクは愚かではない。


「僕は自分の力で機会(チャンス)をものにします。誰かの助けなどいりません」


 ベルクの返答を聞いた男は帽子を深くかぶり直した。


「……そうですか。それは残念ですね」


「あなたは何者ですか? どうして僕に声をかけてきたんですか?」


「私が何者かはさておき声をかけたのは……私達に……してくれ……そう考えたからです」


 男の像が話の途中から揺れ始め、声にノイズが混じった。


「僕が……賛同? 一体何の話です?」


「あなたら変えら……はず……」


「お……ここ……ですね。では――――」


「待て!」


 ベルクが呼び止めるが、帽子の男はスッと消えていなくなった。


 あとに残ったのは小さな魔石が一つ。


 ベルクは魔石を拾った。


 おそらく、この魔石を媒介にホログラムとやらを出現させたのだろう、と彼は結論付ける。


 それにしても――――、


「今のはなんだったんだ……。何が目的だったんだ?」


 ベルクは先程まで男が映し出されていた場所をじっと見つめながら呟いた。


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