1. prologue
「あれ……? なにかがおかしい……」
俺は目を覚ますと自分の体に違和感を感じた。
8歳の子供の体。
ぶよぶよに太った腹や二の腕は、見慣れている。
なんら違和感はないが……。
「そもそも俺って誰だ?」
自分が何者か―――そういう小難しいことを考えたいわけじゃない。
単純に自分が誰かわからない。
記憶喪失とかじゃない。
むしろ、記憶があって困っている。
え、どういうことって?
俺もよくわからん。
ただ、間違いなく俺はオーウェン・ペッパーだ。
それは、間違いないはずなんだが……。
自分が今寝転がっているのは、高級そうなベッドだ。
そして、壁にかけられているのは趣味の悪い絵画。
変な化け物に人が食べられている、なんとも気味の悪い絵。
こんな趣味は俺にはない。
俺って誰だっけ……?
いや、ほんとわけがわからん。
俺はペッパー領を治める領主、ブラック・ペッパーの一人息子だ。
おいおい、ブラック・ペッパーって黒コショウじゃん。
誰だよ、そんな名前にしたのは?
完全にネタキャラじゃん。
ん……ちょっと待て?
さっきから、何かおかしいぞ。
そもそも……なぜ、俺は父上のことを馬鹿にしているんだ?
確かに、父上はデブでくそで領民のことを家畜としか見ていないゴミ野郎だが、今まではそんな彼のことを尊敬していた。
どこに尊敬するポイントがあるかはわからんが、なぜかあの姿こそ本当の貴族だと思っていた。
「俺は本当にオーウェンか?」
―――いいや、違う。
俺は佐々木だ。
21世紀の日本でサラリーマンをやっていた日本人だ。
それを自覚した瞬間、オーウェンが知らないはずの記憶が大量に流れ込んできた。
そこで、プツンと意識が途切れた。