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俺と彼女と甘々な幼馴染  作者: @山氏
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第8話 お見合い

 俺は速足で教室に戻った。自分の席の周りにはいつも通り蓮と愛莉が居て、何か話しているようだ。内容まではわからないが、表情を見るに深刻な話ではなさそうだ。


「おう将太、彼女と昼飯なんて羨ましいなぁおい」


 席に近づくなり蓮に茶化される。いつまで言われ続けるのだろう。付き合っていたらいつまでも言われるのだろうか。


「ただ昼飯食ってただけだろ。そんなこと言ったらお前と愛莉だっていっつも一緒に昼飯くらい食ってるだろ?」


「だって愛莉ちゃんと俺は付き合ってねーもん」


 それはそうだが、と声に出しかけるが、これ以上何を言っても無駄だろう。深く、深くため息をついて自分の席に座る。黙っていた愛莉が俺の方を見て「どうだったの」と一言。


「どうって、何が」


「彼女となんか面白い話したんじゃないの?」


「何の期待だよそれは。話っていう話はしてないよ。ホントにただ一緒に昼飯食っただけ」


 言い終えて愛莉を見ると、信じられないものを見るような目で見られた。蓮を見てみると、同じく酷い顔で俺を見ている。


「な、なんだよお前ら」


「あんたたち、お見合いでもしてたの?」


 愛莉が吐き捨てるように言うと、蓮が笑いだす。


「なんか気まずくて」


 イライラしているのか、愛莉は貧乏ゆすりをしていた。何か怒らせるようなことをしたかと心配になる。


「確かにお見合いみたいだな、それ。その光景見たかったー」


 蓮は笑いを堪えるように手を口元に当ててこちらを見ている。後で殴ってやる、と決意し、昼の事を考えてみる。そんなに酷かったのだろうか。確かにほとんど何も話すこともなく昼休みは終わってしまったが、お見合いって……。


「そんなに酷かったのか……」


 思っていたことをそのまま口にする。蓮と愛莉はお互いの顔を見合わせ、もう一度俺の顔を見た。


「まあ、気にすんなよ」


 蓮が笑い、つられて愛莉も笑う。二人は笑っていたが、俺は笑っていられる気分ではなかった。明日からどうしよう。一緒に昼を食べるにしても、今日みたいになるのはよくないだろう。かといって愛莉たちに相談するようなことでもないだろう。それに、愛莉の場合はそのまま弟に筒抜けになる分、変な相談はできない。


「はぁ……」


 大きくため息をつく。あまりに俺が話さなかったから、理香を怒らせてしまったかもしれない。


 授業が始まる鐘が鳴り響き、俺は一旦考えるのをやめて授業の用意に取り掛かった。


 俺は昼の授業もダラダラとただ暇を潰す。先生の教え方が上手いだとかは正直わからないが、俺はテスト前に勉強すればそこそこの点数を取ることができるのだ。なので授業を受ける意味は教師の無駄話を笑いながら聞く、ということにしか見出せない。


 結局授業終了のチャイムが鳴るまで、俺は机に突っ伏してみたり、ノートに落書きをしてみたりを繰り返して過ごしていた。


 ホームルームも終わりをつげ、教室内は帰る生徒とこれから部活に行く生徒で賑わった。俺は教室が少し静かになるまで自分の席でぼーっと黒板を眺め、人が少なくなったところを見計らって教室を出る。愛莉と蓮は、俺を待っていたのか、昇降口で話をしていた。


「あ、遅いぞ」


 蓮が俺に気付き、不満げに声をかける。いつものことなのであまり気にすることもないだろう。


「人ごみが嫌いなんだよ。いつもこんなもんだろ」


 靴を履き替え、先に歩き出した蓮たちを早足で追いかける。


「お前、ちゃんと彼女フォローしといたほうがいいぞ」


 蓮がやけに真剣な表情で言う。表情は真剣なのに声のトーンは軽いために真剣に話しているようには見えない。


「まあそうよね、聞いてる分には最悪だもんね」


 愛莉も同意する。俺も悩んではいたのだが、はっきりとそう言われるとやはり精神的にくるものがある。


「そうだよなぁ。謝っておかないとなぁ」


 まるで独り言のように呟く。考えれば考えるほど、理香に悪いことをしてしまったと反省する。とりあえずメールだけでも、と携帯を取り出してメールを送信した。メールはすぐに返ってこなかったが、まあ後で返信が来るだろうと携帯をポケットにしまいこんだ。


「お前、彼女と帰ったりしねーの?」


「方向が真逆だからな」


「家まで送ってやれよ。彼氏だろ」


 蓮がからかうように笑いながら話す。そこらへんはどうなのだろう。彼氏だから送ってやらないといけない、というのは違うのではないか。と送ってやれない言い訳を考える。


「別に将太がそれでいいならいいんじゃない?」


 愛莉が口を挟んだ。今の状態でいいのか、と聞かれると、どうしようもないというのが本音なのだが、それは言い訳に過ぎないのだろう。正直、まだ二人っきりでいるというのが堪えれないのだ。気恥ずかしさと気まずさで何も喋れなくなって、どうにかなってしまいそうになる。理香の前でそんな無様な姿は見せたくない。


「難しい顔して深く考えすぎんなよ」


 蓮が俺の背中をポンっと叩く。少し考えすぎてしまっていたたようだ。返事が来ていないかと携帯を取り出してみたが、まだ返事はない。やはり今日の事で何か思っているのか、


と心配になる。


「明日とかでも一緒に帰ってやれよ。喜ぶと思うぜ?」


「そうする。ありがとな」


「お前がそんなこと言うと気持ち悪いぞ」


 素直に感謝すると、いつも蓮に気持ち悪がられる。まあ、それもいいだろう。彼女なんて出来たことない俺にはこういうことを言ってくれる人間がありがたい。


「俺は人に感謝することさえ許されないのか……」


「そうじゃなくてよ、お前って俺には感謝しないっつーかそういうイメージなんだよ。だから、突然感謝されると気持ち悪い」


 結構失礼なこと言われてないか? こいつにだけはもう感謝しないことにしよう。いや、したとしても声に出さないようにしよう。


「お前にはもう感謝しねえ」


「いや、そういうことじゃなくて……」


 蓮は慌てて弁解しようと試みているが、話があっちこっちに飛んで、結局何が言いたいのかが分からない。彼女の事は内心感謝している、それは事実だ。もうそれでいいと、俺 の中で結論が出てしまったので、この話はもう長引かせる必要もないだろう。


「まあ、私たちはあんまり口出さないほうがいいわね」


 蓮がまだ話し続けているのを愛莉が遮った。蓮はしばらく不満げな顔をしていたが、何か思い至ったのか、納得したように頷く。


「そうだなぁ。あんまり俺らが口出しするのはよくないよな。こいつ見てるとすぐ別れそうだけど」


「確かにね」


 蓮と愛莉は笑って俺を見る。シャレになってないからすぐ別れるとか言わないでほしい。本気でこわいから。


「相談はいつでも乗るわよ」


 勝手に何も言わないが、何か言ってきたら答える、といった感じか。それはありがたいと思ったが、俺は自分から彼女との関係を話すというのは少し躊躇う。理香だってあんまり話してほしくはないだろう。


「本当に困ったら話すよ。ありがとな」


「いつも思うけど、あんたって、ありがとうって言葉似合わないわね」


 愛莉にまでそんなことを言われた。やはり俺は感謝してはいけない人種なのかもしれない。気持ち悪いだとか、似合わないだとか、何気にダメージがデカいことを蓮と愛梨は知らない。悪気はないのかもしれないが、もう少し言葉を選んでくれてもよかったのではないか。


「お前らには絶対相談しねえ」


 俺は歩くペースを速め、二人を置いて先に帰った。後ろでまだ何か言っているようだが気にしない。どうせもうすぐ分かれ道だ。


 一人になったところで携帯を取り出してみる。メールはまだ来ていない。ここまで時間が経つと心持ち穏やかではなくなる。怒らせたかな、だとか俺の事やっぱり嫌いになられたかな、とかネガティブな妄想が俺を支配する。ああどうしよう。もう一回メールを送るのはなんか嫌なので待ってみるしかないのだが、やはり不安だ。


 結局、携帯が鳴ったのは晩飯を食べている時だった。予想はしていたが、文面は一言「大丈夫です」とだけ。不安を通り越して怖くなってくる。いつも文面は短いのだが、今日はその短さが怒りの象徴のように思えてくるのだ。


 俺はメールを返すことはしなかった。きっと明日、今日昼食を食べたところに来てくれるだろう。という淡い期待を込めて。

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