NO.4 昨晩
「―サテツ?」
名前を呼ばれた方へと目を向ける。
「はい」
「ああ、いや、特に何もないんだが、
ボーっとしているようだったからな。
声をかけてみただけだ」
「それは、すみません」
体育の先生が私に声を掛けていた。
―その先生とは、
担任でもある富高先生だ―
クラスメイト全員が体操服を着用し、
太陽の下で汗を弾かせながらサッカーをしている。
そんな中、運動場の傍にある木の影に入り、
制服を着たまま車椅子に座っている私、
寺木 咲徹は先生の言う通り、
暇を持て余していた。
「……先生のおっしゃる通り、
ボーっとしていました」
閉じていた右手を開く。
私がその手に握っているものを見て、
先生は驚きの表情を見せたあと
呆れた表情をした。
「石……」
『石』。
見た目は宝石のようなもの。
それは『夜の力』の源のこと。
特に総称が無いため、
そのように呼ばれている。
視線を右の手のひらに向けたまま、
ぽつりぽつりと話始める。
「昨晩のことを考えていました」
「ああ、交戦したのか」
「ええ。倒しました」
「……」
「ですが……また今夜も戦わなくては。
また新しい『悪魔』が出てきますから」
「サテツ」
先生の方に顔を向ける。
「止めろとは言わないが、
気をつけるんだよ、
無理はするなよ」
「はい。
……分かっています」
先生はため息をつき、
困り顔で苦笑いをする。
「まあ、本当は止めておけ
と言いたい所だがな」
私は心の中で感謝の意を伝え、
先生は再び女子生徒達の方へと
向かっていった。