NO.1 音
コロコロと音がする。
一つの人影が朝日に照らされた校舎の中―廊下を通っていく。
部屋―ある教室の扉の前でその人影は止まった。
誰一人としていない教室。
開け放してあった扉の奥へと進む。
すぐ近くにあった机の前に止まり、定位置につく。
この教室は一時間ほど経てば、徐々に生徒たちでいっぱいになるだろう。
もってきたカバンの中からスマホを出す。
その画面を見て、一人呟く。
「今日は大雨か」
時計の短針は十二時をさしている。
キンコンカンコン。
昼放課はじまりの合図だ。
座ったままで机上に弁当を出す。
一緒に昼食をとるような物好きは―いない。
机の左側にあるフックに掛けてあるカバンの中から(再び)スマホを出し、
(朝と同じ)アプリを開き、その内容を小声で読み上げる。
「…今日は大雨。夜の九時くらいから降りだす…」
スマホの画面に釘付けになりながら、考えをめぐらしていると、
「今日は、いつ帰るんだ?」
右側から声がした。
その声は、男声―ではなく、女性の声だった。
廊下と教室をへだてる壁に取りつけてある窓―今は換気のため、開いていた―の窓枠に寄りかかって来ながら、その人はそう言った。
女性にしてはボーイッシュな声と見た目をしたこの人は、
担任の先生、富高先生だ。
彼女の髪は短く、体はすらっとしていて、いつもズボンをはいている。
担当の教科は体育。
―まさしく運動が好きそうな人、である。
「…また『天気』なんて気にしてるのか…無茶はするなよ」
富高先生はほどよい距離感で話しかけてくれるため、なんというか…居心地がいい。
「はい。いつもどおり母親にも同じようなことを言われてから登校してきました」
「そうか。でも、それは当然のことだよ…。その状態じゃ」
先生は「自分」の容姿を見た。
性別は女。
肩の高さより少し長い髪の毛は黒い。
他人からの表情についての評価は「おとなしそう」だそうだ。
一方、知り合いからの評価は「無愛想」だったが。
これだけでは心配される理由にはならない。
先生は目線を少し下にさげた。
彼女の目線の先には黒いタイツを着用した両足があった。
そして最後に、先生は体をおこして「彼女」の全容を両目に映し、
その上に覆いかぶさるように悲しみや苦しみの色が現れた。
彼女の目に映ったものには
一人の女子生徒と―
―車椅子があった。