vs 骨×……
祈ることも願うことも縋ることも覚えてる
忘れたのは生き方だけ
激情のままに、加速する。
足の指で砂粒の一つ一つを掴み、搔き上げながら。
私が近づくにつれ、相手も私めがけて走ってくるのがわかる。
両手を突き出してるのはゾンビ映画とかでお馴染ね。
私は先手を取ろうと、残り3メートルほどの距離で脚に思いっきり力を込めて跳んだ。
左腕側から一度相手に背を向けるように回転。そのまま左腕の刀を相手に向けてスイングする。
遠心力と相対速度を十分に使った私の刃は、白骨の首を易々と堕とした。
うん、弱いかも。けれど、数が多い。
自分から近づいていったのは、遠くからでは確認できなかった敵の全容を探るためでもある。
今ハッキリと見えたそれは、目視だけど百はくだらないだろう。
全部倒すには、効率を考える必要がある。
あれ?私ってこんなに好戦的だったっけ?
ふと、そんなことを思う。
学校行って、帰りにカフェに行って、友達とダベッて。
そんな生活の方が、幻想だったんじゃないかって感じてしまう。
でも、この状況で「ハロー。皆さんこんにちは」って具合にコミュニケーションを図ろうとするほど、私は能天気でもない。
「……なんかちょっとおかしくなってきてるかも」
独りごちる。
// 後ろ!!
「っと危ない!」
首筋に一瞬、白骨の冷たい指の感触があった。
右肘の皮膚を裂いて、体ごと半回転させて相手の胴体を切る。
背骨のあたりを切られた白骨の上半身が、慣性の法則で私の横に転がる。
頭の中でメイに『ありがと』と短く伝える。
こいつらからは当然だけど生き物の気配がしない。
犬だったら、うめき声や呼吸音。視線なんかで把握できることもある。
それがこいつらには無い。
「それなら……これでどうだ!」
左腕と右肘から出していた刃を一度戻し、代わりに右腕から刃を出す。
それを天高く掲げながら出来るだけ長く、鋭く、形状を整える。
そして刀を5メートルほどに薄く延ばすと、私は掲げた右腕を左腕で抱え、右腕は首に巻き付けるようにして固定した。
腰を捻り、回転の力を加える。
私はただ、力の限りそれを振り回す。
犬との戦いで分かったことがあった。私にはこういう戦い方の方が良い。
元々が普通の女子高生で、剣の達人ってわけでもなければ、剣道すらやった事がない。
そんな私が真似事で剣を振ったって、付け焼刃にもならないのだから。
風切り音と共に白骨がバラバラと崩れ落ちる。遅れて砂埃が巻き上げられた。
勢いのまま回転の端で脚の踏ん張りを効かせ、逆回転。
背後から近付いてきた白骨を纏めて屠った。
十、十一、十二、、、削った敵の数は、まだ全体の十分の一ほど。
単純計算で、これを後九回は繰り返さなければならない。
「はぁ……はぁ………ふぅ」
深呼吸一つ。普通に刀を振り回すだけでも体力を使うのに、これはもっと使わなければならない。
単純に重いのと、血液を体から多く離しすぎるため。
// **ちゃんだいじょーぶ?
「大丈夫じゃないよ。多すぎ」
今、倒した敵の9倍。何とか体力が持つか怪しいところ。
// そうじゃなくって、ほら
// 倒せてないよー
ギョッとした。足元でバラバラになった筈の白骨が私の足首を掴んでいた。
慌てて脚を上げて白骨の手を振りほどき、距離をとった。
しかし、すぐに背後から同じように復活した白骨に首を掴まれる。
両腕、両足としがみつかれ、身動きが取れなくなった。
「痛っったいな!!離れてよ!」
掴まれた場所から射出するように刃を出し、体を思いっきり捩じる。
犬に噛み疲れた時と同じ回避方法。
決して頑強ではない白骨の拘束は、それで何とか外すことができた。
しかし冷静になってあたりを見渡せば、さっき倒したはずの白骨がワラワラと再生を始めている。
そして今、カウンターを喰らわせた白骨でさえ、見た目ノーダメージ。
うわー、わんこ達ってこういう気持ちだったのかなぁ・・・
考えてみれば当然だ。こいつらはそもそも死んでいるのだから、切ったって死ぬ?わけがない。
私とはまた違う再生能力のある敵。
対峙してみて分かる。正直これはかなりやばい。
私の攻撃は極端にいえば物理攻撃。それも『切る』という動作が主体。
他にもパンチしたり、キックしたりも出来るけど、多分そこいらの普通の女の子にも負ける。
しかし、そのどちらもこの白骨達には通用しそうにない。
どうすればいい。どうすればいい。考えなきゃ。なんとかしなきゃ。
とりあえず、右腕の刀は一度体に戻そう。
刀を体に戻すと、肩で息をしていた呼吸がわずかに楽になった。
しかし、すぐに右腕から短めの刀を取り出し、戦闘態勢をとる。
これで切り抜ける。今度は建物の陰に隠れながらヒットアンドアウェイを繰り返す。
それで?結局どうなる?敵は一匹も減らない。それでもやらなきゃ。
現状を整理すれば、なるほど私が疲れただけでスタートラインに戻ってる。
先手を取ったつもりだったけど、こいつらにとってはそんなのどうでもよかった訳だ。
無性に腹がたって、このまま白骨を切りつけようとしたとき、
// 食べるとこもないし、帰ろーよー
っと、メイが言った。この子の発想は明後日のベクトルを向いてるので無視・・・とも今回は言い切れなかった。危うく蛮勇のままに突っ込むところだった。それではさっきの二の舞だ。
メイのおかげで少し冷静になれた。なんというか能天気に救われた形だ。
ここで意固地になって死ぬ?それは嫌だ。
確かに手がかりがあるかもしれない。でも、無警戒に近づくべきではなかった。
人がいるかもしれないって浮足立って大声を出したもの私だ。
下唇を噛み締める。
ようやく掴めそうになった手がかりを、みすみす諦めなければならない事が悔しい。
自分の力に思い上がって、敵を弱いと思った自分が情けない。
所詮私は、ちょっと変わった力をもった子供に過ぎないと思い知らされた。
慎重な人間だったら、こうはならなかっただろう。
// **ちゃーん・・・
溜息をついて、刀をしまう。
「もーわかってるよ!今回は私がドジったのが悪い!帰るって」
撤退。易々とできるとは思えないが、幸い白骨の動きは鈍い。
全力で行けるところまで走れば、逃げ切れないということはないだろう。
しかし、そんな私の浅はかな願望は、すぐに打ち破られる。
遠吠え
それは何度も聞いた。犬の襲来を告げるものだった。
ひぇーわんわんおの受難は続く