ナハト大砂界①
私が若かった頃、この砂漠は隊商の通り道だった。
日の半分は夜。夜の全部は夜。
どうして、この砂漠の砂はこんなに黒いのかと、
隊商一物知りの老人に聞いたことがある。
彼はこう言った。
かつて、この地に大きな水脈があった。
それは砂漠の縦横を流れ、人々に恵みを齎した。
水脈を中心に四つの大きな国が生まれ、
人々はその中で豊かに暮らした。
やがて国々はその繁栄を恣にしようと大きな水門を築いた。
そうして水脈は五つに分断された。
しかし人々は知らなかった。それが女神の現身だとは。
四肢を裂かれ、首だけとなってしまった女神は怖れ怯え、
真っ暗な夜の中に隠れてしまった。
突然水脈が枯れたことに驚いた人々は怒り狂い、
それを他国のせいにすると、わずかな水を奪い合うようになった。
争いが長く長く続いたが、いつしか人々がこの地から絶えた頃、
新しい水脈がこの地に生まれた。
砂漠の黒は、その水脈の色。
今でも、亡国の民は姿を変えてこの地を彷徨っているという。
黒い砂漠の中、新たな水脈を求めて。
彼の話が終わると、私は砂漠に『女神の隠れ家』と名付けた。
外界の恐怖に怯える女神の姿は、いつかの私のように思えたから。
―探検家 アンネ・フランクの日記より抜粋―
ダンジョン説明回的な何か。
今回は本編が前書きみたいなものなので、前書きなしです。