犬〇〇
『私』とは思考と経験の集合
グシャっという音をたてて犬の頭が割れた。
まぁ、なんというか、本当に出ちゃった。
驚くよりも、あぁやっぱりって感じ。だって本当に出来そうな気がしたんだもん。
『ちょっとやってみよう』って具合に腕に力をいれて、『喰われてたまるかー』って意気込んだ。
私がやったのはそれぐらい。
あとはそれに頭の中にぼんやり浮かんだ『出来そうな』イメージを重ねた。
うーん。それだけで出来ちゃうって私は天才なのかもしれない。
そんなことを考えていると、、、
ガブっ!!
ぐえぇーまた噛まれたー。
コイツ!まだ生きてたのか……。生命力の強いワンコだなぁ
左首だけ残った犬は形としてはかなり不格好。
だけど、それでもまだまだやる気満々とばかりに歯を、爪をたててくる。
さっきまでの私だったら、それだけで恐怖と痛みで情けなく悲鳴を上げてた筈だ。
だけど、全然痛くないんだよね……。
だから、逆にといってはなんだけど、とても落ち着いていられる。
本当に私の体に何がおこってるんだろう?
とりあえず、そっちがその気ならと刀になった方の腕を振る。
ふっ、命乞いをすれば見逃してやったものを……。今の私はさっきまでの私と一味違うぞ!
「ふんっ!ふんっ!それっ!しねぇ!!俳句を読め!」
少し可哀そうだが、私は猫派なのだ。来世は三首そろって猫に生まれ変わるが良い。
しかしそれは切るというより、ぽこぽこと犬の頭を叩いているようだった。
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やがて犬は小さく唸り声をあげると、力尽きて私にもたれかかるように倒れた。
はぁはぁ。勝った。強敵だった。
おそらく私が今まで戦ってきた中で二番目に強い生き物だった。
一番はまだ黒光りのGさんに譲ろう。
あれは多分、死んだって私には勝てない。
犬を押しのけ、力なくその場にへたり込む。腕の刀は自然と体内に戻っていった。
ふぅ……ふぅ……っと呼吸を整えるために深呼吸を繰り返す。
あたりを見渡せは死屍累々。戦闘の激しさを物語る血生臭い鉄と砂の匂いがした。
窮鼠猫を噛む。
女子高生、三つ首犬を殺す。
うん、ことわざ出来た。意味は『生首になっても諦めるのはまだ早い』。
はぁ、意味わかんね。
っと、こんな事やってないで現状整理しなきゃ。
何がどうなってんのか分からないけど、えっーと、まず……。
一つ、私は普通の人じゃなくなった。
まずこれ。だって生首になっても生きてるし……。
これは保留ね。もう考えたって仕方ない。
一つ、なんか超能力が使える。
血が全然出なかったり、逆に刀みたいにして体から出したり出来る。
私が今、妙に落ち着いてるのも多分コレが理由。
簡単に言えばドキドキしない。だから落ち着いていられる。
無意識に心拍とかを操作しているのかもしれない。
どうやってるのかは漠然とわかるけど、それもまた謎。
これも保留にしとこう。
一つ、時折精霊とかいうムカつくやつの声が聞こえる。
これは今は聞こえないし、相手の姿も見えない。
だけど、私が今こうしているのは多分コイツが原因。
うーん、こっちから呼びかけても応答ないし、向こうからの接触待ち。
つまり保留。
そして一つ、ここはいったいどこなの……
いや、本当にどこなの……。砂漠って、、、うそでしょ?
女子高生は空調と空気清浄機に浄化された空間でしか生活できない繊細な生き物なんだよ?
本当だよ??
ここは人気もないし、こんな化け物みたいな犬までいる。それに埃っぽい。
うーん、現状とあいつの話を整理すると……異世界転生的な?
リスポーン地点が砂漠のど真ん中になっちゃった……みたいな。
いや、まさか、あはは…………とりあえずその線は保留ってことで。
うん、考えたってわからないし。
それから、気になることと言えば当然家族や友達の事。
私自身、何がなんだかよくわかってないから何とも言えないけど。
とりあえず私みたいに生首になっていないといいな。
それから最後の一つ、服を着たい。
なんでこういうとこ気が利かないかな!!異世界転生ものだって着る服くらい選べるでしょ!!
花も恥じらう乙女が下着で犬の死闘を繰り広げるって何てマゾゲー?
これだけは本当に保留じゃ済まない。死活問題。
ただ、コレに関しては一つだけすぐに打開策が思い浮かんだ。
自分でもどうかしてるとは思ったけど、考えてみれば極自然な事。
わんこの毛皮を着こめばいい
戦利品ってやつなのかな?
うん、その発想がJKじゃない気がする。だけど背に腹は代えられない。
まぁだから仕方ないし……いいよね?
このままゆるゆると進行します。