貧血だからね、しょうがない
世界とは可能性の乗り物
その最小単位は在るという認識によって定義される。
血だ。血だ。血だ。血だ。血だ。血だ。血だ。血だ。血だ。血だ。血だ。血だ。
血が足りない。血が足りない。どれだけあっても、どれだけあっても。
どうすればいい。わからない。わかるのは足りないってこと。
集めても集めてもきっと足りない。
それでもきっと、まだ、大丈夫。
私の中の全部だって無くなっていい。
だから、どうか、お願い。
― 神様 ―
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昨晩の夢の続きは、ずいぶん寝覚めの悪いものだった。
真っ赤な海の中で、茫然と立ち尽くす小さい頃の私。
目はどこか虚を彷徨っていて、折れそうな細い足でふらつく頭の平衡をとっていた。
その姿がなんだかとても懐かしくって、少しその頃を思い出した。
今でこそ、もう何ともないと自分で思っているけど、昔は荒れた時期があったのだ。
それは弟が死んだとき。私だけ救えたのに、私だけじゃどうにもならなかった。
自分って何て無力でちっぽけなんだろうって思った。泣いて泣いてゲロ吐いて。また泣いた。
それでも何週間、何か月と塞ぎこんでると、今度は親が私の為に無理をして笑うようになった。
それが嫌で嫌で、悲しくて。仕方ないから私も無邪気に子供らしく振舞ってみせた。
あの時、矛盾してるみたいだけど、初めてほんの少し大人になった気がした。それでいて、やっぱりただの子供だった。そんなの親が分からないわけないのにね。
私ってバカで単純なんだなぁって。
今ではもう親も私も元気に過ごしている。そうする事が弟のためでもあるって。そう自分に言い聞かせながら、どこか棘を抱えたまま生きている。
なんでこんな事を思い出したんだんだろ?もう随分前のことなのに。
きっと夢の中の私が、その頃の私に見えたからじゃないかな。
この夢は、その頃の夢に少し似ていた気がする。
何はともあれ、最悪な気分って感じ。
ぼーっとする頭を振りながら体を起こす。薄めのまま朝の光を浴びる。今日は随分日が強い。
溜息をつきながら、軽く伸びをし、ゆっくり重たい瞼を開けた。
…………………は?
// あ、おはよー。よく眠れましたかぁ?
あ、はい。まだ夢なのね。今日のは長いわー、最長記録更新だわー。レムとノンレムの周期が丁度ジャストミートだったんだろうね。だからもう一回寝ていい?
言うが早く、私は布団に突っ伏した。いや、布団何て無い。夢の中だから仕方ないけど、遠くから見ると冷たい地面に頭をこすりつけてるようにみえるかもしれない。
その感触に受け入れがたい現実を突きつけられているように思えた。
「なにここ!?どこ??っていうかココ、現実?あんた誰!?どこにいるの!???意味がわからないんですけど!?あー、もう!帰るから帰して!!」
// まってー、帰らないでー。
// 順番に説明するとー。ここは砂漠みたいですねー
「見ればわかるわ!見渡す限り砂漠だよ!!」
私が目覚めたのは広大な砂漠の中だった。富士山の火口でみるような黒く灼かれた砂塵が舞っている。その中でも、私がいる場所は小さなオアシスとでもいうような、心ばかりの水場と固い地面がある場所だった。
「そんなことが聞きたいんじゃなくって、あー、もう『私、なんでこんなとこにいるの』。『帰して』この二つだけでいいから。この質問と要求にだけ答えて。この際、あんたは何でもいいし」
// えー、ひどーい。じゃあまずは私の自己紹介から☆
// まいろーどの血の盟約に「やめてぇぇぇ……」
どこにいるかも分からない相手に手を伸ばす。はたから見れば一人芝居をしているように見えるだろう。
死にたいくらい恥ずかしい。
// あはは、冗談はさておきぃ。
声色が変わった。
先ほどまでお茶らけていた奴の雰囲気が一転すると同時に体に寒気が走る。
// 先ほどもご挨拶いたしましたが、私は精霊。
// あなたの旅路の道標にて、道案内だと思っていただければ幸いです。
// 私を活かすも殺すもあなた次第。
// あなたが願うならば
// 暗闇を進む。その道の先を照らし、
// 路に倒れたあなたを支える事もできるでしょう。
// そして同じように他者を傷つけ、殺めることも。
得体のしれない機械のような女の声から、一転して知性をもつとわかるような、低く諭すような声に変わる。ただし威圧的ではなく、私を試しているような、そんな風にも聞こえる。
うんうん。よくある話だな。力は持つものによって変わるというものだ。MAR〇ELってそんな感じだよね。
っで、どういうこと?
// 私は『血』を司る精霊。血の盟約にしたが「それはもういいから!」
// ごほんっ。簡単にいうと『血』にまつわる力をあなたが使えるようになるということです。
// そして願うならば共に成長し、世界を救ってほしいのです!!
ぱんぱかぱーんと効果音が鳴り響く。
どうもこっちの方が奴の本性なんじゃなかろうか
私の感想、一言。
うげー、気持ち悪いんじゃ―。無理なんじゃー
// えっ!!ひどくないですか!?
いや、私無理なんだよ。昔のトラウマってやつで。魚の血を見るのも嫌い。肉も結構コンガリ焼く派。
だから、いきなり『血』っていわれてもなぁ。吸血鬼?いやいや。よくわからん汚いかもしれない奴の血吸って美味しいーとか無理だよ?
世界を救う?もっと無理。うーん、これは深刻な人選ミス。ダメージが少ない内に追い返したほうが人事の評価も上がるんじゃないかね?どうかね??
// どうかね??って言われましてもー、えー、どうかね?
「それを私が言ってるの!!早く帰せってこと!言わせないでよ恥ずかしい!!」
// あららー、じゃあ質問に戻って、そのまま要求にも返答しちゃいましょー。
// **ちゃんは、向こうで死んで、こっちに転生したからここにいるのです。
// そして事実上死んだので、向こうに帰ることはできませぇーん。
どんどん。ぱふぱふー
わぁい。嘘やろ。死んだとか。
なんぜ?あれか、熱中症か??
// それと私は**ちゃんの中にいるので、いつでも話かけることが出来ます!!
うわ、何それ。何気にそれが一番ショックでかい。
// ひどくね?
いや、正当な評価でしょ。
こんなのとこれからずっと一緒なのか。呪いのようだ。私何か悪いことしたか?
// うーん。まぁいきなり全部理解するのもぉ難しいって事がわかったのでー。
// これから実際に体験してもらいましょー。
// そしたら私のことも見直しちゃうよー。わたしってば最高よー
怪しい歓楽街の声掛けみたいな声出しおってからに。
東京の女学生はその程度じゃひっかからないぞ。
で、体験って何?嫌な予感するんだけど……
// はいー。**ちゃん気づいてないみたいですけどー。ここって砂漠のオアシスみたいでー。
// 可愛い動物さんたちの水飲み場みたいー。
// それに、そんなところにエサが一匹無防備に突っ立ってるのー。
ん?エサ??はて、なんのこと?あたりには何にも……
…………いやいや。
………………いやいやいやいや
………………………いやいやいやいやいやいやいるいるいるいる何かいっぱいいる!!エサって私か!?
狼みたいな獣が目を光らせて私を見ている。顔が三つある。三つ子……じゃない。本当に三つ。
首から先が三本に枝分かれしている、三つ首の狼。そんなのが、ひーふーみーよー五匹。
頭換算で十五匹。
現実離れしすぎて、気持ちが悪くなる。口の中に胃酸の味が広がって、それをなんとか飲み下す。
「精霊先輩。お願いします。やっちゃってください。」
// えーむりですぅ
「え、うそでしょ?さっき最高だの何だの!!……え、マジなの?死ぬの?」
// 私自身は何もできないのでしてー
え、じゃあこれ私がどうにかするの?無理でしょ??
そうこうしている間にも、じりじりじりじりと多分ケロべロスって名前の獣は私ににじり寄る。単純に特攻してこないのは慎重に私を値踏みしているからだろう。
なんとか逃げ……。どこに?砂漠?絶対追いつかれる。オアシスの中?ジリ貧でしょ。
木の上?犬は木登り得意っていうしなぁ…。あっでも三つ首ならどうだろ?
あ、痛っ。
背中から車にはねられたような衝撃。そしてそのまま組み伏せられ、両腕と首にそれぞれ牙が突き刺さる。
あー、なるほどー。首が三つってそういうことーべんりねー
意識が朦朧とする中、そんな事を考えていた。
// あららー、いい感じですねー。
// まぁこんなもんで十分ですー!**ちゃん貧血気味なのでしてー
// でもでもー、これだけあればー。ハッピーなぱっぱらぱーになれる
// 血がいっぱいいいぱぴあぴあいいあぱいうれしいはじめよぅ
なんか異世界(恋愛)ってなってる。しないぞ、恋愛。