プロローグですよー
その日、世界をほんの少し大きな歪が襲った。
そして、それは決して珍しいことではなく、むしろ宇宙誕生から数えてもよくある事だった。
世界は即座に損傷を受けた箇所の修復を開始する。ミラーリングされた無数のバックアップを使い、機械的に転写する。
その際生じる幾つかのエラーは確率論の海の中に廃棄され、時間の経過と共に自然の流れに還る。
幾度となく繰り返されてきたことだ。だからこそ、取るに足らない些事。
世界は、そう判断した。
歪の陰には決まって線から線に影響を及ぼす何かが存在する。
曰く『勇者と魔王の戦い』
曰く『次元爆弾の炸裂』
曰く『神の誕生』
それらがある一つの世界で発生した場合、大きすぎる力のために隣接する世界では玉突き事故のように異変が生じる。それが特異点と呼ばれる歪の正体。
では、それらの歪が生じた場合に何が起きるか。結論から言えば何も起きない。
厳密には何も起きなかったことになる、というところだろう。
線とは言ったが、世界は決して無機的ではなく、確固たる意思が存在する。
先ほどの転写はあくまで自己修復機能であるが、彼らは彼らで歪というものを嫌っている。嫌うからこそシステムとしての修復が存在する。そして嫌うからこそ『歪』に傷つけられた世界を嫌う。
世界は世界同士で喰らいあうのだ。弱く傷ついた世界は強く健全な世界に喰われる。
修復が間に合わなければ、此度損傷した世界も別の世界に喰われるだろう。そして起こった事象の全ては緩やかに消化され『物語』や『空想』、『夢』として残る。
世界中に存在するありとあらゆる事象は、彼らを乗り物として、何処かへ運ばれていく。その行先は誰にも分らない。
遺伝子に運ばれた生物が、いずれ何者になるかなど誰にも分らないように。
しかし、どうにも様子がおかしい。通常ならば既に淘汰が始まってもよいものなのに、どの世界も傷ついた彼の様子を窺ったまま、決して喰らいつこうとしない。傷を見ている?
彼の傷は奇怪な事に捻じれ、絡まっていた。
何をどうしたらこうなるのか。単純に修復プログラムが狂っていたのか、或いは歪の力が思いのほか大きかったのか。
これでは喰らったほうの世界の胃まで捩れて捻じれるだろう。そしてそれは更にその世界を喰らった場合にも起こりうる。そうなればいずれ世界は傷ついた一つを残して全滅することになる。
それは望んだことではない。だが、この世界をこのまま放置しておくことは出来ない。
そして世界は一つの結論に到達した。
― この『世界』を救おう ―
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// ぱんかぱかぱーん!!おめでとーございまーす!
// あなたは1092番目の天使に選ばれました。
頭の中でテッテレーだのプップーだの賑やかな、それでいてやや癪に障る効果音が鳴り響く。
私が天使なのは私が一番よくわかってる。良い子・可愛い・美しいの三拍子。身長はもう少ししたら伸びるはずさ。そしたらモデルになるのだ。
// 美しいというより愛嬌のある感じですけどねー。んー自己評価高め?
// それと予定では身長は今がピークですよー。
聞き捨てならない単語がいくつか並んだが、無視だ無視。
私の弱気が夢に出てしまったに違いない。
// 無視しないで下さぁ~い
その声と共にそれが私の頭をポカポカと叩く。
え、いたっ!いたたっ!!何コレ!!わたし病気!?夢の中なのに尋常じゃないくらい痛いんですけど。
痛みに寝ていた体を起こすと、「お前が天使だろ」というような恰好をした女が目の前に立っていた。
そして眼前にはまっさらな何もない空間が広がっている。
ここはどこ?私はだれ?状態。いや、わたしはわたしか。あんたが誰だ。
// えっへん。私こそがあなたの精霊。これからあなたの戦いを支えるパートナーなのです!
へ、へぇ~。今日の夢は随分ファンタジー趣向が強いなぁ。昨日読んだラノベの影響かしらん?
思わず引きつった笑みを浮かべてしまった。中学生の頃、夜な夜な黒魔術を研究していたからでは無い。それはもう神社で供養してもらったのだ。
// わかりみ~。あるよね!そういうこと!
天使、もとい精霊との名乗ったチンチクリンがニヤニヤ微笑ましそうにこちらをみている。
正直張っ倒したい。しかし現状そうもいかない。先ほどから体を起こせただけで、上手く動けない。
あなた何?夢なら私は早く寝たい。夢じゃなくても遅くまで起きてるのは成長に悪いから早く寝たいの。
// あれれーさっきの話聞いてましたぁ?まぁいいですけど・・・
当然スルー。確率論的にもデータ的にも20歳くらいまでは身長は伸びるのだ。残り三年も残っていればなおさらだ。私の目標は最低170。
//あと、にじゅ「うるさい」
精霊()の無駄話を遮り、先を進める。この煩いのを何とかしなければとにかくにも明日が来ない気がする。
それはなんとなく予感に近いものがあった。
もういい、あなたの話聞くから早くしてよ。
// わー、ようやく**ちゃんが話聞いてくれ気になったー。
// ちょっとびっくりするかもだけど、ゆっくり説明するねー
首肯すると、精霊は満面の笑みを浮かべた。なんというか子供っぽい無邪気さだった。
// えーっと、それでは!まず**ちゃんには一度死んでもらいますぅ!
はい?
// うーん、もともと精霊が希薄な世界の人がうんぬんかんぬん……
え?ちょ、ちょっと夢だよね?夢の話だよね?なんだか剣呑すぎて不安になってきたんですけど!!
あと、ゆっくり説明するっていうならちゃんと説明してよ!
// だいじょーぶ!!痛くはしませんから!!ちょっとチクッとするだけですよー
献血??献血なの??バカなの???いや!そこじゃないから!!
// 起きたら直ぐに異世界なので、不安もあると思いますが私も陰ながら応援してますので~
// 心配しないでください~
私がもう一言二言クレームをつけようとしたところ、それは首筋のチクッという感覚と共に却下された。
あ、本当にチクってするんだという感想は、心地よいまどろみの中に消えていく。
痛いよりもむしろ気持ちいい感じ。体内の血液の温かさを感じるような。
// あ、言い忘れましたぁ
ぼんやりとした頭に精霊の声が響く。
// 私の特性は『血』らしいですぅ
// 血の盟約に従い、あなたに召喚されましたぁ!まいろーど☆?
イラッ☆
いろいろ読んでたら面白そうなので書いてみようかと。ゆるゆると平和にいきます。