ある日教会に迷い込んだ黒猫が魔法使い始めた
僕の名前はリシュ、冒険者が集まるダンジョン都市ルヴィダスにある教会に勤める見習い神官です。
見習い神官の朝は水汲みから始まります、井戸に向かい桶を使い水を汲み上げ・・・桶の中に居る猫と目が合う・・・
「ぎにゃあ」
猫は礼を言うように鳴き、ブルブルッとした後去っていった、僕を水浸しにして・・・おまけに猫の毛だらけだ、こんな姿見られたらマイヤー助祭に怒られる・・・
水汲みは後だ、風邪でも引いたら病気の回復魔法が使えない僕にとっては大問題となるからだ、裏口からこっそり入るが運悪く寝坊した他の見習い神官がマイヤー助祭に怒られているところだった、そこに僕が加えられたのは言うまでもない・・・
「はっくしゅん」
ほらやっぱり風邪ひいた、マイヤー助祭も悪かったと思ったのか今日は休んでいいと言ってくれた、熱でぼうっとするがしょうがない・・・
なんかあったかいな、「ぎにゃあ」昨日の猫か、今日は濡れてないだろうな?
まぁ暖かいから大丈夫だよな・・・
「ぶにゃあ」
翌朝すっかり良くなった僕は水汲みに行く、さすがに今日は猫が入っている事も無く仕事を終えた、司祭様が朝食を取られた後助祭様、その後に神官様が朝食を食べられる、僕たちは一番最後だ朝食を見習いの皆で食べているとあの猫が足元に居た。
「ぎにゃあ」
そう鳴くとスリスリしてくる、その猫は黒々としていて気が付かなかったが毛艶がかなり良い、司祭様が着られている絹と呼ばれる物より艶やかで手触りもとてもよかった、猫ちゃんこの福々しいお腹は何かな?もしかして今までいい物食べてたんじゃないだろうな?
お腹をモミモミしていると何とも情けない声で
「イヤーン」
と低い声で鳴いた、僕も両隣に居た見習いも笑ってしまった。
「ん、ん!ん!」
マイヤー助祭だ、なんでこんな時にこんなとこに来ているんだ・・・カッカッと靴を鳴らしながらこっちにやってくる。
「リシュ、いったい何をしているのですか食事は静かに食べる物です・・・猫ですかここへは病人も来るのですよ、不衛生ですからすぐに捨ててくるように」
「ぶにゃあ!」
猫がそう叫ぶと光に包まれていく・・・これ『清浄』?
「誰ですか!猫に『清浄』を掛けるなんて、そんな精神の無駄使いは許しません!」
マイヤーさんがヒステリックに叫ぶが当然誰も名乗り出ない、イライラが最高潮になりそうなとき猫はひょいと窓から出ていった・・・と言うか逃げたな。
ゴシゴシ・・・礼拝堂の床をブラシで磨く、あの後こってりマイヤーさんに叱られて礼拝堂の床磨きを言い渡された、石床に膝も付いてるからかなり痛い、かといって少しでも進めないとまた明日の朝からマイヤーさんのお説教から始まってしまう・・・
「ぎにゃあ」
猫か・・・帰ってきてたんだな、膝を一生懸命舐めてくれている、痛いと思ったら血まで出ている、困ったなこれじゃ床も磨けず血だらけにしてしまう・・・
グルグルと喉を鳴らしこちらを見る猫・・・まだ僕は治癒の魔法を使えないんだ、化膿すると困るな、なんて考えていたら「ぶにゃあ」と猫が鳴くと膝の痛みが引いていく・・・もしかしてこの猫が魔法使った?
満足そうな顔をした猫は歩き出し礼拝堂内をくるりと一回りしたかと思えばまた「ぶにゃあ」と鳴くと礼拝堂全体が輝き始めた・・・この光は・・・『清浄』?
光が収まると床どころか椅子や壁いつも掃除できない所までピカピカになっていた、「ぎにゃあ」そう鳴いたかと思えば胸に飛び込んできた、大慌てで抱えるが・・・やっぱ普通の猫より重いな。
ちょっとは痩せろよ~と言うと耳がぷいっとそっぽ向いた、聞く気は無さそうだ。
今日は寝れないかと心配したが猫のおかげでぐっすり眠れそうだ・・・猫って温いな、そう思いながら僕たちはベッドに入った。
「リシュ!リシュは居ますか?」
マイヤー助祭が朝から金切り声を上げている・・・
「水汲みなら終わりましたが」
「あなた、礼拝堂の掃除を言い渡したでしょう、なに勝手に終わらせているのですか!」
「礼拝堂の掃除なら・・・」
「いいからいらっしゃい!」
礼拝堂の床に泥靴の足跡がたくさんついている・・・
昨日猫がきれいにしてくれたのに・・・
その時ふと違和感を感じた、まだ礼拝の時間も始まっていないのになぜ足跡が付いているのか、しかも足跡が何故一種類しかないのか・・・
しかし見習いが助祭に逆らうなんて許されないことだ・・・
諦め床を再度磨き始める。
「ぎにゃあ」
猫・・・今は来ないでくれ、マイヤー助祭が見てるんだ・・・
ゴシゴシゴシ・・・
別の所に行ってくれたのかなと思うとすぐそばの椅子で丸まっていた、だから見つかるとまずいんだって・・・
猫は僕とマイヤー助祭を見て「ぶにゃあ」と一鳴きすると床の泥が集まっていき、ボールになって・・・
マイヤー助祭に向かって猛烈な勢いで飛んでいった・・・
「ギャーーーーーーーーーーーーー」
神に仕える身でこんな事思ってはいけないんだろうが、ざまぁみろと思ってしまった。
マイヤー助祭は泥だらけのまま部屋の戻っていった。
廊下とか掃除するの見習いなんですが・・・
「ふぅ・・・」思わずため息が出てしまった。
「ぶにゃあ」泥がまた集まって・・・外に出ていった?
「ぎいゃあああああああああああ」
マイヤー助祭の声だな・・・もしかして部屋に放り込んだのかな?
あはっ、猫お前面白いな、撫でてやるとゴロゴロと気持ちよさそうに喉を鳴らす、猫を抱いたままだったが神様にお祈りをした。
(マイヤー助祭がひどい目にあったと言うのにざまぁみろなんて思ってごめんなさい、あとこの猫は神様の使いなんでしょうか?おデブだと思ってごめんなさい)
・・・
『構わんよ』
顔を上げると傍に司祭様が立っていた、驚いて立とうとするが司祭様が声をかけてくださった。
「リシュくんだったね、マイヤーには私からきつく叱っておこう、あとその猫は君が飼うのかね?フフフ、なかなか可愛いじゃないか」
「御存知だったのですか?」
「マイヤーは感情が先走ることが多いからね、私の所にもよく苦情が入るのだよ」
猫が魔法を使うのを知っているのか聞いたつもりだったんだがマイヤー助祭の嫌がらせの事だと勘違いしたようだった。
「あの・・・司祭様この猫を飼ってもよろしいでしょうか?」
「『清浄』を毎日かけるよう心がけてくれれば構いませんよ、その代わりと言ってはなんですが・・・たまになでなでさせてくださいね」
と司祭様はウインクして食堂に向かっていった。
「よかったな、飼って良いってさ」
「ぎにゃあ」
「そうなると名前が必要だな、いつまでも猫って呼んでる訳には行かないし」
「それじゃあ『クロ』『タマ』ん~返事しないな『ポチ』『コロ』『デブ』名前ってなかなか難しいな・・・ん~・・・・・・ぎにゃあって鳴くから『ギニー』・・・ダメか・・・『ギー』「ぎにゃあ」おお、それじゃお前は今日から『ギー』だ」
その時、頭の中で声がした。
"よろしくな"
ええ!もしかしてギーが喋った?
"喋ってると言うより伝えてるって感じだな、これからよろしくな"
うん、こちらこそよろしく。
こうして見習い神官リシュと黒猫(?)ギーのちょっと変わった生活が始まる。
このまま神官となるのか、
ダンジョン都市ルヴィダスで冒険者となるのか、
それともギーとスローライフでも目指すのか、
あとギーはダイエットできるのか・・・
それはまだ誰も知らない物語です・・・
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