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第23話 酒場のおじさんからのありがたすぎる情報②

 始めはその場にいる全員が男の言葉を信じず、嘘だと嘲笑ったが、現場に着いた途端人々の表情は一変した。

 

 その現場は先ほどまで皆が集まっていた中央の広場より少し移動したところにある民家に挟まれた小さな道だった。

 恐らく横に人が三人並べばそれで一杯になる程幅が狭い通路。

 その入り口から少し離れた場所に男の言う通り死体はあった。

 それは四十代前半とみられる男性の死体で、周りにはその男の死体の血がバケツをひっくり返した後の様に飛び散っていたのだ。

 

 その様子を見た町の人々は恐れおののき、誰一人としてその場から動こうとしなかった。

 しかし、そんな中ザロクは一人死体に近づき死体周りの状況を調べ始める。


 周りで固まる人々差し置き、ザロクは男の死体のポケットなどを探る。

 そして、襟を少しずらしたところでその手を止めた。


「ど、どうしましたか?」


 今まで固まっていた町長が死体の首元で手を止めているザロクに声を掛けた。

 するとザロクは一旦死体から距離を置き、顔をこちらに向けた。

 

「町長、それと町の皆さんここを見てください」


 そう言ってザロクが指を指したのは先ほどまで見つめていた男の首元だった。


 町の人々は互いの顔を合わせ、恐る恐る死体に近づき、首元を覗き込む。


「こ、これは……!?」


 覗き込んだ一人である町長が声を上げた。

 それに同調するように他の人々も、「嘘だろ……」「これって……」「え? みんなどういうこと?」と口々に出し、真っ青になった顔を上げた。


「みなさん、これは……吸血鬼に噛まれた跡です」


 男の死体の首元にあったのは四つの歯型の傷だった。

 


「やはりこの人を襲ったのは吸血鬼で間違いなかったようですね」


 ザロクは確証を得たように目を細める。

 

 先ほどまではザロク達を疑っていた町の人々も、実際に人が襲われたという事実を目の前に固まっていた。

 そんな町の人達を横目にザロクは更に死体周辺を調べる。

 そして少し何かを考えるような仕草をすると、ショックでその場に喉へ綿でもつめられたように立ちすくんでいる町長たちの方に目を移した。


「この方はこの町に住んでいた方ですか?」


 突然、質問をされた町長は一瞬ビクッと肩を震わせたが、すぐにザロクの方に体を向けその質問に答えた。

 

「この男は昔からこの町に住んでいた者です、確か昨日も友人と酒を飲むだとか言っておりましたなぁ」


 ザロクはそれを聞くと今度は狭い通路の外で、こちらの様子を窺っている野次馬の人たちの方に目をやった。

 そしてがやがやと騒いでいる人々に声を大にして呼びかけた。


「みなさんの中で、この倒れている方と昨日会った方、もしくは見かけた方は居ませんか!」


 人々は互いに顔を見合わせ、自分自身が潔白であることを周りの人々にアピールしている。

 その様子からこの場にいる人々のこの件には深くかかわりたくないという意思がひしひしと伝わってきた。

 

 それを見たザロクはこれ以上の情報は得られないと感じたのか、通路の外にいる人々から目を離そうとした。

 しかし次の瞬間、人混みの中一本の手が上がった。


 その腕の下に視線を下げると、手を上げていたのは被害者の男性と同じくらいの年齢の男性だった。

 男性は血の気の無い顔で俯きながら、小刻みに震える手を上げている。


 少しすると周りの人々もその男性が手を上げていることに気が付き始め一人、また一人と視線をそちらに向けた。

 そして何時しか、その場にいるほぼ全ての人間の視線がその男性一人に集まっていた。

 

 その様子を見たザロクはやれやれといった感じで男性に近づき。

 

「ここで話すのも大変でしょうし……少し場所を移しますか」


 それに男性は小さく頷く。

 

 ザロクはそれを確認すると、一度町長の元へ戻った。

 そして表情は優しく、けれど威厳を込めてこう言った。


「町長それでは……今回の一件、我々十字団にお任せいただくということでよろしいですか?」


 町長はしばらく固まっていたが、やがて意を決したような表情をすると。


「ッはい、ぜひともこの悲惨な事件を起こした邪悪な吸血鬼を討伐していただきたい!」


 そう言って町長は深くお辞儀をする。

 

 その後、ザロクは大勢の人々に背を向け、大勢の十字軍を連れながら歩き始めた。

 そして一軒の酒場を決め、貸切にするとその中で話を始めた。




「とまぁ、取り敢えず話を区切るか……まだ半分くらいだがな、ここから先は……」


 そこまで言ってジャックさんはコップに注いであった酒を一気に飲み干す。


 俺や白、そしてバン達は言葉を詰まらせていた。

 ここまでの話を聞いて、町の人々がシャルとシャルのお父さんを襲った理由がなんとなく分かってきたが、それにしたって……


「ひどい……」


 隣にいる白が小さく呟いた。

 

「ああ、そうだな……」


 ジャックさんはそう一言だけ言った。

 その表情は俺たちと同じように曇っていた。そしてそれを誤魔化すかのようにテーブルの上にある瓶を手に取り、口を付ける。

 

 話を聞いた感じ、その十字団ってやつらがとっても怪しそうだが……そもそも十字軍とは一体どんな組織なのだろうか? 話の中では吸血鬼を討伐することを生業にしている的な感じだったが……

 それに吸血鬼に襲われたっていう町の人の事件もなんだか怪しい気がするし……第一シャル達が人を襲うとは思えないしな……


 チラッとシャルの方を見ると、シャルはフードを深くまで被り、顔を下に向けている。もしかしたら、話を聞いたことで何か嫌なことを思い出してしまったのかもしれない。

 そう思った俺はシャルに少し外の空気を吸わせてあげようとそっと手を伸ばした。


「それじゃあ後半の話を始めるか……」


 あれ? 始まっちゃった?

 いきなり話が始まったので少しびっくりした俺は伸ばしていた手をスッと引っ込めてしまった。

 

 俺がシャルちゃんを休ませられなかったことを後悔していると、


「……その前にだ」


 話を進めようとしたジャックさんが突然そう言って、シャルの方に視線を向けた。


「そこのお嬢ちゃんには少し席を外してもらっていいか? こっからは少し残酷な話だからな……」


 どうやらジャックさんもシャルに気を使っていたようだ。 

 他の人から見ればシャルはただの女の子だし、あんまり聞かせたくないのかもな。


 しばらくの沈黙の後、グラスが勢いよく手を上げ、


「ならボクが一緒に行くよ~、ね~? シャルちゃん?」


 今回はグラスがシャルに付いてくれるみたいだ。

 グラスがいればシャルがこの場から離れて、何かあっても大丈夫だし安心だな。


 グラスの言葉にシャルは一瞬戸惑っていたがやがて小さく頷くとグラスと共にテーブルを離れ、店から出て行った。

 その際、グラスが白の耳元で囁くように「話は後で聞かせてね」と言っていたので、グラスには後で白から説明があるのだろう。


 グラスとシャルが店から出ていくのを確認するとジャックさんは一度咳払いをし、話を再開させた。


「それじゃあ話を進めるか……どちらかというとこっからが本番だな」


 こうして再びジャックさんは話を語り始めた。

 


 あの日、シャルの身に起こった悲劇の全貌を。


 


 

 

 

 

  





 



 


 


 

 


 

 



 

 

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