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第21話 酒場

 店のドアを開くと、それと同時に心地よい鈴の音が店内に……響かなかった。

 

 確かに鈴は鳴っていたのだが……それもすぐに店内にいる酔っぱらいの人たちの笑い声にかき消されて何処かにいってしまったのだ。

 

 まだ昼間だというのに酒場にはニ、三十人の男女が集まり、それはもう楽しそうにお酒を飲み交わしている。

 

 一人で静かに飲んでいる者もいれば、何か物騒な格好をした人が集まってわいわい騒いでいたりと、とにかく色んな人達がいた。

 

 しかし、人が多すぎる為か、誰一人と俺たちが店に入ったことに気付く人はいなく、各々の酒盛りを楽しんでいた。

 

 俺はぽつんとドアにぶら下がり、寂しそうにしている鈴を見つめる。

 もはやこの鈴はいらないのではとも思ったのだが……よく見ると唯一、店の奥のカウンターでコップを拭いていた人がチラリとこちらを向いてお辞儀をしていた。


 どうやらこのうるさい空間でも鈴の役割はあったようだ。


 

 店内には噎せ返るような酒の匂いが漂っていた。

 

 俺は思わず鼻を手で覆い、口で呼吸をする。

 まだ若干アルコール臭はしてくるが、鼻で呼吸していた時よりは楽になったので我慢しよう。


「ねぇ、本当にここであってるのかな~?」


 白も酒の匂いには弱いのか少し鼻声だ。


「ああ、あの人はこういうところの方が好きなんだよ」


 バンは平気そうな顔で答える。

 それはバンだけに限ったことではなく、後ろの二人も同じで全然大丈夫みたいだ。

 

(えぇ、こんな酒臭くて、うるさいところが好きって……)

 俺なんてほんの少しいたくらいで、なんだか頭が痛くなってくるぐらいだぞ……


 そんなことを一人で考えていると、ふと俺の頭にシャルの事が思い浮かんだ。

 シャルは俺と白よりも年下なので、もしかしたらこの空気の中で気分を悪くしているのかもしれない。

 そう思った俺は急いで後ろにいたシャルに話しかける。


「シャルちゃん大丈夫? 具合とか悪くなってない?」

「……うん」


 どうやら意外と大丈夫らしい。

 顔色も悪くないし……案外お酒に強かったりするのかな?


 そんなやり取りをしながらも、俺たちは店の奥に足を進めた。

 

 

 なんだか四方八方からの視線を感じる。

 よく周りを見回してみると、さっきまで酒を飲んでいた人達がチラチラとこちらを見ていた。

 心なしか先ほどよりも騒がしくなくなり、客の人達の小声での会話が聞こえてくるほど静かになっている。


「なぁお前、あいつら見たことあるか?」

「いや、無いけど……旅人にしては荷物が少ないような……」

「あの黒服の二人とその間の男、なんだかやばそうじゃないか? あと一人は大したこと無さそうだが……」

「それよりもよ! あの白髪の子可愛くね!」

「は!? お前ああいう子がタイプなのかよ!?」


 などなど……俺たちに聞こえていることに気付いているのか、いないのか、それは定かではないが……

 若干一名俺に対して喧嘩を売ってた奴がいたな……まぁ許すけど……

 なんか隣で白が微笑みと怒りの中間の顔をしているが……って顔怖ッ!

 

 そんなこんなで怒ったり、悲しんだりしながら俺たちはさらに足を進めた。



 周りからの視線を受けながらも店の奥にあるカウンターにたどり着いた俺たちは、綺麗に揃えられた椅子に座る。

 すると直ぐに目の前にコップが置かれ、水が注がれた。

 さっきお辞儀をしてくれた人だ。


 その人は五、六十代くらいの年齢だろうか、白い髭を伸ばし、メガネ、蝶ネクタイと、俺の想像通りの酒場のマスターといった風貌をした人だった。


「あ、ありがとうございます」


 俺がお礼を言うとマスターはニッコリと笑いながら、白達のコップにも水を注いだ。

 

 全員のコップに水が注がれたの見計らうと、バンは突然立ち上がりマスターの目の前へと何枚かの銀貨を置いた。

 

 チャリン……と銀貨同士が当たり金属音が響く。

 

 驚いたような顔でバンを見つめるマスターに、バンはにやりと笑い頷く。

 マスターは銀貨を見つめると再度バンの方を向いて


「ご用件は?」


 と一言尋ねた。

 それを見るとバンは一度咳払いをして、真面目な顔になった。

 そしてマスターの耳元まで顔を近づけ、周りにも聞こえない様な小声で尋ねた。


「この町に住んでる吸血鬼についての情報が欲しい」


 それを聞いたマスターは小さく頷くと、先ほどバンが置いた銀貨を受け取り、店の奥へと入っていった。


「え? 何今の?」


 なんか当然のような流れでマスターの人と話してたけど……なにしたの?


「いや……ただの情報収集だが……」


 情報収集って……確か情報屋の人がいるから、その人に聞くんじゃなかったのか?

 今だって普通にマスターにお金を渡してたし……


「いやいや、別にここのマスターに情報を貰うってわけじゃないぞ」


 見てればわかるさ、バンはそう一言だけ言った。

 

 一体どういうことなのだろうか?

 よくわかんないけど見てれば分かるって言うし、大人しくしているか……


 

 そんな会話をしてから三分程すると、再びマスターが店の奥から出てきた。

 そのまま俺たちの方に来る……と思ったのだが、マスターは俺の予想を裏切り、俺たちの横を通り過ぎると、テーブル席の方へと歩いて行った。


 そしてマスターは一つのテーブルの前に立ち止まる。

 そのテーブルには一人の男の人が座っていた。

 年齢は四十代後半……くらいだろうか、片手には氷だけが残ったグラスと……新聞だろうか? 何か文字の書いてある紙を握っていた。

 

 他の客が大勢で飲んでいるからなのか、一人で座るその男の人は、この騒がしい空間で唯一浮いているようだった。


 マスターはそのテーブルの前に立つと小声で何かを男の人に伝えた。

 それに男の人は小さく頷く。

 

 やがてマスターがその席から離れると、男の人も立ち上がり、俺たちの居るカウンター席へと近付いてきた。

 そのまま男の人はバン達の席の隣へ座るとこちら側に顔を向けた。


「よぉバンだっけか? 久しぶりだな、あんなガキだった奴がこんなになるなんてなぁ……」

「よしてくださいよ、こうして会うのは……五年ぶりくらいですかね……」


 そんな会話をしながら二人は固い握手をする。

 この感じを見るに二人は俺が思っていたよりも前からの付き合いで仲もいいらしい。


「それでそっちの人たちは? 別にお前んとこの者でもないんだろ?」


 バンとの握手を終えると、男の人はこちらを向き首を傾げる。

 

「ああ、こいつらは今回の件に関係する奴らでな」


 バンは俺たちに「ほら……」と促す。


「あ、タスクと言います」

「はいはーい! ボクはグラスで、こっちがあるじの~」

「白です。 よろしくお願いしま~す!」


「……シャル」


 なんか主よりも先に挨拶するドラゴンと白に少し遅れて、シャルも小声ながら挨拶をする。


 男の人は自己紹介を終えた俺たちをまじまじと見つめ、ちょうどグラスを見たところで視線を止めた。


「ドラゴンが主って……とんでもねぇ奴らだな……」


 どうやらグラスがドラゴンってことに気付いたらしい、どちらかというと苦笑いに似た表情をしている。

 やっぱりドラゴンって珍しいのかな……でも、グラスの場合はノリが軽いというか、ドラゴンっぽさが無いというか……とにかくあんまり接してても特別感が無いんだよなぁ……


「おっと悪い、まだ俺が名乗ってなかったな……バンから聞いているとは思うが俺は情報屋をやってるジャックって者だ、よろしく頼むぜ」


 そう言ってジャックさんは俺の方に手を差し出す。

 それに俺は「あ、どうも~」と答え、握手を交わした。


「それで今回の件だが……」


 ジャックさんは一度ゴホンと咳払いをする。


「この町に住んでたっていう吸血鬼についてだったか……」


 そこまで言うとジャックさんは懐から煙草を一本取り出し、火を点けた。

 そして、俺たちの方に顔をぐっと近づけると周りには絶対に聞こえないような小さな声で話を始めた。


「先に言っておくが俺は今回の件については何も関わっていない、これだけは知っていてくれ」


 突然どうしたのだろうか?

 いきなり小声で話し始めたし、今回の件に関わっていない?

 一体何の理由があるのだろう?

 

 その場にいる全員が頭上に疑問符を浮かべる。

 そんな俺たちの「なんで?」と言わんばかりの雰囲気を察したのか、ジャックさんは少し顔を離し、煙草の煙を空を仰ぎ見るように吐き出す。

 白い煙は僅かな間だけ大きく広がり、店の天井に届くと、すぐに見えなくなった。

 

「まぁ色々と思うところはあるだろうが、取り敢えずは俺の話を聞いてくれ」


 話を聞けば分かる、そういうことらしい。

 

 俺たちが静かに頷くとジャックさんはゆっくりと語りだした。

 あまりにも理不尽で、悲しい物語を。


 



 

 

 



 

 






 


 




 

  





 





 





 

 









 

『プロローグ』の主人公(タスク君)の設定を少し付け足しました。

細かい修正ではありますが、一度確認していただくとうれしいです。

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