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第11話 吸血鬼の少女

『みなさん本日のメインイベント! 吸血鬼の少女の奴隷です!』


奴隷商人の司会者が自信満々の表情で声を上げる。


「「「おぉー!」」」


それに伴って周りの人たちの歓声が大きくなる。


『この子は今日の朝、西の小さな町から仕入れられた正真正銘の吸血鬼です!』


司会者が吸血鬼の少女の紹介を始める。

 

なんだって? 吸血鬼? たしかにこの世界には色んな人がいるけどまさか吸血鬼もいるなんてな


今まで犬や猫といった獣人の人たちは町で見たことがあったが吸血鬼の種族の人を見るのは初めてだ。

だが、多分ものすごく珍しい種族なのだろう、それは今この状況を見ればすぐに分かることだ。

他の奴隷の人とは明らかに客の反応が違う。 近くにこれからステージに運ばれるであろう奴隷の人たちの檻が置いてあったがそれを誰も見ようとはしない、客全員の目が今まさに競に掛けられている吸血鬼の少女に釘付けなのだ。

多分この中にはこの子だけ目当てで来た客のいるだろう、それほどまでに吸血鬼という種族はレアなのだ。


俺がそんなことを考えていると、いつの間にか司会者の男が競を始めていた。


『この商品はとても希少なため70金貨からはじめさせていただきます』

「71!」

「もっとだ、76!」


(76金貨って……)

ただでさえ異常なくらい高い値段なのに続々と声が上がってくる。

まぁそれだけ欲しいものなんだろうな……

商品が商品なだけに中々購入者が決まらない、その時間が進むたびに値段はどんどん重なり恐ろしいほど高額になっていく。


『今の最高は201金貨となっていますがこれ以上の方はいらっしゃらないですか』


201金貨と言えば元の世界で201万円にあたる高額だ、この値段なら軽自動車くらい楽々買えてしまうだろう。

値段がこれほどになると声を出す人も必然的に減ってくる、客の中には頭を抱えて悩み出す者もいるほどだ。

(201金貨って……そんな値段出すやついな……)

「はーい、僕は300出すよ」


えっ…… 300? 1金貨1万円だから……300万!? 白金貨にして……30枚!?

そんなぶっ飛んだ値段を提示したのは俺の隣にいた白だった。

その瞬間周りの人々の声は消え、誰一人として声をあげなかった。


『い、一応確認ですが300金貨以上の方いらっしゃいますか? 』


司会者の男が震えながらも他の客に確認を取る。

しかし、当然誰もこれ以上の値段を出すものはいない。


『それではこの少女は300金貨での落札となります、そこの髪の白いお客様はこの後わたくし共のところへ来てください』

「さあタスクくん行こう」

「ああ、わかった」


その時の俺はあまりの出来事にまだ状況をいまいち掴めていなかったが、とりあえず真剣な表情でステージ裏に向かう白について行ったのだった。



ステージ裏に行くとまず最初にさっき司会をやっていた男が支払いを要求してきた。


『それではお客様お支払を……』

「じゃあこれで」


そういって白はこの世界の最高価値のお金である白金貨を30枚商人に手渡した、それも普通の買い物の会計の様に。


なんで白がこんな大金もってんだよ……


これには商人も驚いたようで、受けとるときに手が震えていた。


「さっそく檻のカギと手錠のカギを頂戴」

「あ……はい、ただいま」


そういって商人はポケットから鍵を取り出し、白に手渡した。


「ありがとう」


鍵を受け取ると白は何の迷うそぶりも見せず檻のカギを開けた。


「お客様その子は子供といっても吸血鬼ですよ! 危険です!」


商人が忠告するが白は手を止めようとはしない。

そしてそのまま檻のドアに手をかける、ドアはギィィと鈍い音を立ててゆっくりと開いた。

隣では商人が「ヒィィ!」と声を上げながら今にも逃げ出しそうになっている。

白はというと檻のドアを開けるとなんの躊躇もなく檻の中へ入っていってしまった

少女は白が檻に入った瞬間、目を見開き恐ろしい目で白を睨み付けた。その瞳は綺麗な紫色だったが、

その瞳の奥には明らかに尋常ではない殺意が籠っている。


「白! さすがにヤバいんじゃないのか?」

「へーき、へーき大丈夫だよ」


そういって白は檻の奥で震えている少女へやさしい表情で右手をさし出す。

次の瞬間、檻の端でおびえていた少女がすばやく白の右手にかみついた、それはあまりにも早く俺も一瞬何が起こったのか全く分からなかった。

白は一瞬、顔をしかめたが『超再生』で傷はすぐに塞がった。しかし、かみついた後何故か少女はその場に倒れこんでしまった。


「おい白……今なんかしたのか? 」


俺は白に向かって純粋な疑問をぶつける。


「いや、なにもしてないよ。もともとこの子が弱ってただけ」


弱ってたって……いくらなんでもただかみついたくらいじゃあ倒れないだろ……


「倒れた理由がどこかに……」


白はそういっていきなり少女の服を脱がせ始めた、どちらかというと脱がせるっていうよりはビリビリ破り始めた。


「ちょッ……白なにやってんだよ!」


あまりにいきなりだったので目を閉じるのが間に合わなかった。一瞬少女の裸が見えたような気がしたがすぐに目をしっかりと閉じる。


「やっぱりか……」


ん? やっぱりって?

今の俺は目を開けていないので一体何があったのかさっぱりわからない。


「タスクくんこれ見て」


見てって見ちゃダメだろ……俺なんかが見たら警察とか呼ばれるんじゃ……


「いいから早く!」


はいはい……

白の気迫に負け、恐る恐る目を開けると少女の背中が見えた。

しかし、俺が想像していた綺麗な肌ではなく……その背中には何十というおびただしい傷があった。


「なんだ……この傷……?」


傷の中にはまるで鞭で打たれたような傷や、やけど跡のようなものもあった。

背中だし故意に傷つけたような傷でもなかったので、誰かに傷つけられたと考えるのが妥当だろう。


「ちょっとまってね」


白は少女の背中に手を当て魔力をこめる、すると少女の傷はみるみるうちになくなっていく。


「いったんはこれでいいかな?」


白の回復魔法で少女の傷は治ったようだが少女が起きる気配はない。

どうやらこの子が倒れた理由は傷だけでなく、その他のことでも疲れ切っていたのだろう

白曰く後数時間ほど眠っていれば意識は戻るとのこと。


でも一体この傷はなんなんだろう? いくら奴隷って言ったって大切な商品であるこの子をこんなになるまで傷つけないと思うんだが……


「それで商人さん、この傷についてなにか知ってる?」


白は鋭い目つきで商人に質問する。

白ににらまれた商人は一瞬ビクッと震えたがすぐに落ち着きをとり戻したのか少し怯えたような声で説明をし始めた。


「いえ……この奴隷は今日の朝一番でここに運ばれてきたもので、こちらに来てから今まで一度も檻を開けていません」


まぁ商人が売るための物をわざと傷つけるわけないしな……


「それじゃあやっぱり《西の小さな町》ってところでやられたのかな?」


それしか考えられないだろうな……でもなぜだろう?


「なぁ白、吸血鬼ってそんなに嫌われる存在なのか?」


たしかにRPGとかでは敵として出てきたけどこの子も普通に温厚そうだしな。


「いや、一部の地域では多少は嫌われてるけど、元々は高貴な一族だしここまでされるほど恨まれることなんてそうそうないと思うけど……」


本当になんでだろうな、こんなに小さい女の子が人の恨みを買うわけないし……

そう思いながら俺はすぐ横で気を失っている女の子に視線を移す。


「それじゃあいったん帰ろうか、この子もちゃんとしたところで休ませないと」


そうだな、今日のところはこれで帰るとするか


「タスクくんじゃあこの子も店まで運んでいってね」

「……」


今度は俺の方が倒れるかもしれない。


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