第10話 商店街での買い物
―翌日―
まだ太陽も出ていない早朝、俺は右手に走る激痛で飛び起きた。
右手の痛みを少しでも抑えるため、全力で右手を押さえベットの上をジタバタと暴れる。
別に中二病に突然目覚めたわけじゃない、本当に痛かったのだ。
俺は小さいころブランコから落ちて骨折したことがあったんだが、それと比にならないほどの痛みだった。
しばらくして少し痛みがおさまったのを確認した俺はゆっくりと視線を右手に落とす。
……明らかに右手がおかしい、なんだか色が少し青くなってる気がする。
「絶対昨日やりすぎただろ……」
俺はそう静かに呟く。
白の回復があったとはいえ1日50発はさすがに体に響いたようだ
(それもこれもあのチビドラゴンのせいなんだが……)
(まぁとにかく寝るか)
そう思い立ちもう一度ベットに横になったが、それ以降眠れることは無かった。
朝日が昇ると俺はさっさと着替えを済ませ喫茶店である一階に下りる。
下に下りると白はいつものように俺たちの朝食を作ってくれていた。
「おはよ~タスクくん体調は……大丈夫じゃなさそうだね」
白が俺のことを気遣うように言ってくれる。
俺が右手を抑えながら下りてきたのを見て察してくれたようだ。
(変な奴だと思われなくてよかったよ)
「今日は買い出しに行く予定があるからちょっと練習はできないかな~でも、買い出しには付き合ってもらうよ」
結局休めないじゃん……でも一応俺もここの店員だし手伝わないとだめか……
「グラスはまだ寝てるし、あと一時間くらいしたらでようか? 一応言っておくけど結構荷物あると思うから覚悟してね」
そういえば俺、力仕事担当だったな……今日も忙しくなりそうだ。
「ほらタスクくん早く~」
楽しそうな白の声が辺りに響く。
俺たちは今絶賛買い物中なんだが、案の定俺は大量の荷物を持たされ今にも押しつぶされそうだ。
そんな大変な思いをしている俺をおいて白とグラスは子供のようにはしゃいでいる。
「ちょっとはグラスも持ってくれよ、白はともかくなんでお前は持たないんだ?」
まぁ本音言うと白にも持ってほしいんだが……そこは女の子だから多少はね?
「いや~僕は癒し担当だからそういう力仕事は似合わないかな~? 」
なにが癒し担当だよ、ドラゴンなら荷物くらい余裕だろ!
そんな会話を聞いていた白が俺のことを心配してくれたのだろう
「じゃあ少しだけ休もうか、え~と30分くらいしたらここのベンチ集合で」
と提案してくれた。
こうして個別の行動になったんだが、俺は荷物をいっぱいもってるからあまり遠くへはいけそうにないな……
適当に時間をつぶすためしばらく商店街を歩いだが、あまりいい品がなかったので戻れる範囲内でもう少し遠くへ行くことにした。
しばらく進んでいると偶然、広場のようなところにたくさんの人が集まってなにかをしているところを見つけた。
「あれ? なんだあの人だまり?」
その人だまりのところへ行くと商人らしき男とそのお客らしきの人達の声が聞こえてきた。
「さぁ値段は10金貨からだ誰かいないか」
「俺は13だすぞ!」
「こっちは15だ!」
どうやら競のような方法でものを売っているようだ。
(それにしてもこんなに盛り上がるなんて)
その男の周りには見えるだけでも40人くらいの人だまりができている。
普通の競だとしてもこんなに人が集まるだろうか?
「一体なにを売ってるんだ? 魚とかか?」
というかそもそも金貨15ってどのくらいなんだ? こっちの世界の相場とやらが全く分からないんだが?
『この世界のお金の価値について説明いたしましょうか?』
俺が一人で困っているとそれを見かねた? のかは分からないが、俺のスキルである ガイド が気をきかせてくれた。
「はい! お願いします」
数分後……
なるほどなるほどわかったぞ!
どうやらこの世界のお金は銅貨、銀貨、金貨、白金貨の4種類があり値段は100円、1000円、1万円、10万円くらいらしい。
その他にも少し例外があり、千円以下の買い物の場合は銅貨の下の鉄貨(1つにつき10円くらい?)を使うらしい。
だとしたらさっき競に出されてた商品15万円だぞ、高すぎだろ!?
どうしても競にだされている商品が気になったので俺は人ごみをかき分けて奥へ進んだ。
次の瞬間俺はその場に立ち尽くした、競に出されていたのは魚でも物でもない『人』だったのだ
その『人』たちは皆、ぼろ布のような服を着て、皆生きる気力も感じられないような目をしていた
商人が乗っている小さなステージの上に檻があり、その中に『商品』は入っていた。
「この世界は奴隷制度があるのか?」
一瞬、間違いかとも思ったがこんな大広場でやっているんだから法律的にも大丈夫らしい……。
その証拠に周りの人々は『商品』が出るたびに盛り上がっていた。しかし、周りの盛り上がりとは裏腹に檻のなかにいる人はとても暗い表情をしていた。
俺が情報を読み込めず、その場に立ちすくんでいると
「タスクくん? 大丈夫」 といきなり声をかけられた
おどろいて振り返るとそこには白が心配そうな顔で立っていた。
「うわっ、なんだ白かよ」
「僕で悪かったね」
白が怒ったような口調で言い返してきた。
「悪い、悪いそれよりあれはなんだ?」
そういって俺は檻の方を指差す。
「あれはみたとおり奴隷だよ一度買い取られたら一生働かされる、全く本当にひどいよね」
白も奴隷のことは好きではないらしい、それを聞いて俺は少しホッとしたが、やはり奴隷制度はあるようだ。
そうかやっぱりこの世界では奴隷が許されているのか……なんだかいやな気分だな
「僕もあまりここは好きじゃないんだよ、ほら早く帰……」
いきなり白が檻の方向をじっと見つめ始めた。
「おい、どうしたんだよ?」
「ちょっとあれみて」
白の指の先の檻のなかには1人の金髪の少女がいた。
見た感じ年は10歳くらいだろう、本当に小さい娘だった。
「あの子も奴隷なのか……あんなに小さいのに……」
俺がそう呟くと、白の表情が一層険しくなる。
「ちがう……あの子なにかおかしい」
えっ……おかしいって確かに暗い表情はしてるけど、それ以外は他の人とはなにも変わってないぞ?
俺が白になにがおかしいか聞こうとした瞬間、突然その子が入った檻がステージの上に運ばれた。