21 脱獄
「――――出口はあそこ。ここには誰も来ない。でも、条件を満たさないと出られない」
「――――出口から出たら、次は逃げ出さないと。条件なんてない、でも誰かに見つかったら捕まる」
それだけ言い残して、男は姿を消して。
「――やっと行ったか」
「え。――――ジェイ!?」
牢の奥、薄明かりも届かない背後から聞こえた声にぎょっと振り返れば、気を失う前に一緒にいた少年が顔をしかめていた。
「よかった……」
「よくねえ」
「え?」
姿が見えなくて心配していた。
けれども無事な姿を見られて安心して零れた言葉を、当の本人が切って捨てた。
「どう考えてもお前が目的だろ。魔力でわかったって言ってた」
「えっ」
「魔術が使えるなんて聞いちゃいない。ただの貴族のガキじゃないだろお前」
「あう!?」
「とんでもない奴に捕まっちまっただろ、くそ! どうすんだよ! 終わりじゃねえか! ああああ、くっそ……! やっぱり厄ダネじゃねえか……!!」
ズバズバ言われて言い返せもしない僕を睨みつけた後、ジェイは苛立たし気に頭を掻き毟った。
「……でも、どうにか逃げるしかないよ」
「はあ? 無理だろ。牢屋にぶち込まれて、どうやって逃げるんだよ。鍵開けの腕でもあるのかよ」
「それは、ないけど……」
できもしないことを、と睨みつけられて、言い返せないことは認めるしかない。
それでも僕は思うのだ。
……出られる方法があるから、誘拐犯は脱出条件を言葉にしたんじゃないだろうかって。
思い返してみれば、逃げることを期待しているような口ぶりですらあった。
「……やっぱり」
諦めの濃い表情で膝を抱えたジェイを置いて、そっと魔力を広げる。
牢に備えられた鍵穴。
机の上で揺らめく蝋燭。
U字の歪な水差しの底。
部屋に満ちる魔力よりも大きな感触が魔力を通じて帰ってきた。
「……たぶん、出られる」
「は? おい、これ以上何を……」
のろのろと顔を上げたジェイが止めようとするかのように手を伸ばす。
それを視界の端に認めながら、鍵穴に向けて魔力を捻じ込んだ。
――――ゴトッ、と重い音がした。
傍らで小さく息を呑む音。
緊迫感を裂いたのは、金属が擦れる甲高い音だった。
自重で開いた扉を呆けた顔で見つめる少年に、そっと手を差し伸べる。
「帰ろう。皆が待ってる」
――――無事に、皆の元に帰るんだ。




