面会
書類がテーブルの上に置かれる。
「俄かには信じがたいものだな……」
椅子に座った男性が重苦しく息を吐いた。
「嘘や間違いなどではありませぬぞ」
「わかっている」
噛みつくように反応した老人の言葉に、壮年の男性は頷いて返す。
「……全く以て分不相応な魔力量だ」
「そうでしょうそうでしょうとも!」
独り言のように呟いた言葉を耳聡く聞きつけてしまったのか、老人は目を剥いて立ち上がり叫び始めた。
「卑しい子爵ごときの血を引きながら烏滸がましい程の魔力量! 己が身を弁え見合った魔力量を持って生まれればよいものを! あの男も男なら孫も孫! 一体どれほどワシらを怒り狂わせるつもりかッ! 忌々しいことこの上ない!!」
「――――声が大きいぞ魔導師長。見張らせているとはいえ、聞き耳を立てる者にわざわざ聞かせてやる道理はない」
「チッ……それもそうですな」
興奮に水を差されて不快げに顔を歪めたものの、今いる場所が王宮の一室だということを思い出したのか、魔導師長と呼ばれた老人は渋々怒りを収めソファーに身を預け直した。
「それで、この事実を知る者は?」
「勿論、小細工には万全を期し、閣下に恩ある者どもを選びましたとも。しかしながら、説得には少々骨を折ったのも事実でしてな……」
「案ずるな。用意させておく」
「ひぇっひぇっひぇ! ご配慮を頂き感謝の念に堪えませぬ」
「しっかり手懐けておけ」
「わかっておりますとも」
慇懃に下げられた頭を睨み、魔導師長と視線を合わせて口を開く。
「一三八二だったか。小細工は構わないが、魔力の総量もわからぬうちからやるのは博打もいいところだ。このようなことは二度と容認できん」
「……心得てございます」
厳しい口調と内容に釘を刺されていると感じたのか、今度は神妙に頭を下げる。
「では他に用がなければ下がれ」
「……それでは失礼いたしますぞ」
不機嫌さを隠し切れない様子で席を立ち去ってゆく老人の背中が扉の向こうに消えるまで見送った後、男は深々とため息を吐く。
「……時が来れば、あのような老害を使う必要もなくなる。それまでの辛抱か」
鋭利な刃物を思わせる細面を、酷薄な色が過ぎった。