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王国の君  作者: てんまゆい
一章 揺り篭の君
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裁定

「判決を下そう」


 ……妙に長く待たされた。


 腑に落ちないところはあれど、王直々の沙汰となれば、男は黙して頭を垂れ続ける。


「知らぬこととはいえ、私の財貨に手を出した者の血族として、その罪は贖わなければならん。そうだな、トーマス」

「は」

「故に、子爵家の面々に倣って、貴様も梟首刑とする」


 ……やはりか。


 死を賜って、しかしトーマスの心中に去来したのは、その思いだった。

 一族郎党に至るまでが、連座で死を言い渡される。

 予想と違わない結末に、しかし、感じていたのは、死の恐怖ではなく、安堵。

 婿入りした男爵家にまで及んだはずの取り潰しを回避し得たというのなら、それだけで望外の成果。


「――――と言うつもりであったが、よかったな、トーマス。梟首はなしだ」

「…………」


 …………は?


 覚悟していた終わりは、しかし陛下の笑いを含んだ声で覆された。


「どうした? 死を免れたと言ったのだが、嬉しくはないか」

「――――い、いえ。滅相もございません……ありがたき幸せにございます」


 ……しかし、何故?


 骨にまで染みついた礼儀作法は、半ば意思を離れて身体を動かし平伏させる。

 しかしトーマスの思考は、疑問で塗り潰されていた。


「自主的な騎士爵の返還。

 協力的な姿勢。

 年金の返還。

 賠償金の支払い。

 男爵家が無実であったこと。

 …………挙げればそのようなところか」

「それは……」


 ……いったい、いくら男爵家に支払わせてしまったのか。

 そうまでして救う価値などない己に、トーマスは伏せた顔を歪めた。


「さて、改めて貴様の罰を言い渡す。

 貴族籍からの除名、市民権の剥奪、笞刑二〇回を与え、治癒の後、国外追放とする」

「……陛下のご温情に、深く感謝いたします」


 ……奴隷落ちとはいえ、殺す気は本当にないらしい。


 死を免れた実感に小さく息を吐きながら、しかしそれ以上の疑問が胸の内に湧き起こる。


 ……仮にも騎士だった者を、国外追放とは。


 されど、罪人が問うことなどできようはずもない。

 それに、一度は覚悟を決めていたとはいえ、死を免れた今となっては、新たな欲も湧く。愛しい者達に、もう一目でもいいからと望み始めた男に、王の機嫌を損ねる酔狂さなど有りはしない。


 刑罰の執行者に強いられるまま、王が退出なさった後の部屋を、トーマスもまた引きずり出されるように退いた。

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