04 魔力測定
ヴィンセント4歳
案内されて到着した部屋の扉を開けると、低い唸り声のようなものが耳に飛び込んできた。
「これはこれは、ようこそいらっしゃいました!」
足を止めた僕を気にした様子もなく一礼すると、「こちらへお掛け下され」とローブの老人が手招きする。
(……う……)
怪しげな雰囲気を帯びた老人を前に思わず固まった足を持ち上げ、一歩ずつ椅子に近づく。
「宮廷魔導師長のモグラン・ハッフィルコットと申します。それでは早速ではありますが、失礼しますぞ」
クッションにお尻を乗せた直後。カチャッと音がして足が少し重くなる。
仰々しく一礼して見せた老人から視線を動かすと、いつの間にか寄っていた男性二人が足首に、次いで今手首に輪っかを着けていた。
(なに……これ)
金色の輪っかが灯りを反射してきらりと光る。つけられた紐みたいなものが床を這い、小さく唸る何かに繋がっているみたいだった。
「あちらの魔道具へ殿下の魔力を送るためです故、ご不快ではありましょうがご辛抱下され」
「――っ! ……う、う――わ、わかった」
不安に思わず上げた視界一杯に、笑みの形に歪められた顔が覗き込んできて肩が跳ねる。
「お前たち! 始めよ!」
びっくりしたままの僕を置いて、周囲の大人たちが動く。
老人が指差した“まどーぐ”が唸り声を大きくする。
(……それだけ?)
服を作るおじさんが採寸に来る時は「測定させていただきます」と言って体の色んな所に紐を当てたり回したりする。
だから、魔力測定もぐるぐる巻きにされるのかもってちょっとだけ不安だったけど……違う、のかな?
「……え?」「あれ?」「いや、そんな……」「……多くないか?」「だよな」「やっぱりそうか?」
控えていた大人たちが顔を顰め、少しも経たないうちに口々に囁き始めた。
(え、え、えぇ……? なに……?)
「……馬鹿な……………………これは、そんな、並の王族を……軽く凌ぐ……いや、あり得ん…………あり得ん、子爵ごときの血でこのような……」
周りからちらちらと向けられる視線に居心地の悪さを感じて見上げると、怖い顔をした“まどーしちょー”と目が合った。
見開かれた眼がギョロリと動く――――
「――――中止せよ! 中止じゃ! 測定は中止!!」
「――ひぅっ……」
いきなり顔を上げて叫ぶ“まどーしちょー”の声の大きさに、僕は思わず耳を抑えた。
「……か。 殿下。申し訳ございませぬ」
突然目の前に平伏した老人のくぐもった声に、耳に当てていた手を恐る恐る離す。
「…………どうしたの?」
「恐れ多くも説明させていただきますれば……どうにも、測定器が故障しているようでございます」
こしょう……故障?
「……壊れたの?」
「……確認してみないことには正確なことは申せませぬが、その可能性が高いとワシは考えております」
(えっと……………………じゃ、じゃあ……?)
思ってもみなかった事態に直面して途方に暮れている僕に気づいたのか、
「……愚かにも申し上げさせていただけるのであれば、この老骨めに修繕の機会を与えていただきたく。後日改めて殿下の魔力量を測定させていただけましょうか」
「う、うん。わかった」
「ありがたき幸せにございます。それでは殿下、改めてお呼びいたしますので、本日はお帰り下され。さあ、さあどうぞ。――――殿下のお帰りじゃ! お前たちもお見送りせんか!」
そう述べた後、立ち上がって裾を払ったお爺さんが促すままに僕は部屋を出た。