昼餐会 前半
初夏。ヴィンセント6歳。
カガリ・ソウスケ視点
一目見て、可憐な少女のようだと思った。
すっと通った目鼻立ち。
茫洋とした菫色の瞳。
肩下まで伸びた黒紺の髪は艶やかで、さらりと揺れる前髪の下からは物憂げな表情が覗く。
幼くも整った顔を彩る感情は、これから臣下を迎えようとして浮かべるものじゃないことは確かで、でもそんなことが気にならないほどに儚げな容貌を際立たせていた。
正直言って、見惚れて我を忘れていた。振り返って思うに、それでも列を乱さずに済んだのは、前にいた五人も、つかの間とはいえ見惚れていたからじゃないかって思う。
とにかく、それくらい心を奪われた。
そんな主の前で膝を折り、各々挨拶を終えてお言葉を頂いた後、俺たちは予定通りに場所を移して、殿下とともに昼餐をいただくことになった。
「……わ。何これ?」
思わず、といった様子でこぼれた言葉。
「こちらの料理は私が用意しました」
(よし、まずは興味を引けた)
ヴィンセント殿下の、こぼれ落ちそうなくらいに丸くなった目を俺に向けさせ、胸を張って用意していた言葉を述べる。
――――出立前、若に呼ばれたのが始まりだった。
嫌な予感のする笑みを浮かべた若から、「なんや臣下の方からお近づきの印にぃ言うて昼飯の用意しよかーちゅう手紙が来てな?」と前置きもなく話を切り出されて。
初対面同士で話をするきっかけを用意してるだとか、王家へのアピールも兼ねてるだとか、そんな若の予測も交えながら見せられたのは、側近となる六人が、昼餐会のメニューを用意せよという通達書。
フルコースになぞらえ前菜、スープ、魚料理、肉料理、デザート、茶菓子が各家に割り振られていて、それも順にヒノ、ヘーゼルダイン、クレリー、アルルス、シアーノス、ラタルと既に決定済み。
理解を拒否していた頭にじわじわと文面が染み込むや否や、「もっと早く寄越して下さいよ!」と慌てた俺を、若は「こないな程度でひっくり返っとったら王都でやっていけへんで」と笑い飛ばしてすげなく送り出し、それでも料理人だけは手配してくれていた。
おかげで、王都へ向かう道中は暇を持て余すこともなく…………いやでも、青二才と指摘されて、不貞腐れるべきかそれとも若の優しさと感謝すべきかと複雑な気分で頭を悩ますことになったのはやっぱ………いや、やめよう。今は折角主君の興味を誘えたんだから、そんなことを思い出してふいにすべきじゃない。
「――――左から順に枝豆豆腐、揚げ出し餅、卵焼きです」
初夏から旬を迎える枝豆。
ヒノの主食たる米。
そして、とろりと濃厚な卵。
ああでもないこうでもないと、料理人どころか食い意地の張った奴らとも頭を突き合わせて考え抜いた果てに、俺が前菜として選んだのはその三つ。
いずれもシンプルな味だけど、奥が深くて飽きさせないものを選んでみた。
だって、単に美味いだけなら城の料理人が用意したものを食べればいい。王族に料理を振る舞う腕の持ち主は最高の料理人のはずだし、最高の食材だって王の元に集う。
それなのに、何故それぞれの家に用意させるのか? …………その答えこそ、若がさらっと口にしていたことだったと思い至った時の徒労感は尋常じゃなかった。
じゃなくて、話を戻すけど――――答えは、王家へのアピールだ。
単純な話だ。
故郷の料理を好きになってもらえたら、それを育んできた土地や人も好きになってもらえる可能性が高まる。
そうなれば、ヒノは王家に大事にされることにも繋がる。好きなものが無くなるようなことなんて、普通しないだろ?
「いずれもヒノでは民にも親しまれる料理ですが、食材や調理方法で一工夫してみました」
そう説明を締めくくって、用意した俺からフォークで口の中へ運ぶ。
本当は箸で食べるものだけど、あれは扱い慣れていないと難しい。そこまで求めるのは流石に難しいとわかってるし、そもそも今回は宮廷料理だから、ヒノとは食事の作法からして大きく違う。だから単に味を上品に仕上げただけじゃなく、わざわざ今日のために硬さや大きさまで調節した結果が、今こうして目の前に並ぶ、崩れにくい豆腐や、かぶりつく必要のない大きさの餅になってる。
用意した者として食べ方を示した俺に倣い、初めて目にした料理に戸惑いつつも、殿下もまたフォークを手に取った。
ぱくり。
(どうだ……?)
一番最初を飾る料理として強く印象に残れるか。
あるいは、後に続くだろう豪勢な料理の数々に記憶の彼方へ追いやられるか。
果たして――――?
「……ん」
(――よし!)
テーブルの向こうからかすかな吐息が漏れ聞こえた瞬間、俺は心の中で拳を握った。
「……ヒノには美味しいものが一杯あるんだね」
殿下の顔を彩る、花も綻ぶ笑み。
「はい! ヒノにはまだまだ美味しいものがありますから、仰っていただければいつでもご用意しますっ!」
「――――おっと、そこまでにしてもらおうじゃないか! 次は僕の番だよ!」
確かな手応えを感じて前のめりになりかけたところで、水を差す声が一つ。
(な――――)
気障な台詞が聞こえた方に顔を向けた俺の視界に、新たな料理を運び込むワゴンが映った。
ハッとしてテーブルの上を見回せば、全員の皿は既に空。
そして、急に会話に割って入られて目を瞬かせる殿下を除けば、誰とも目が合わない。
(……! ――――く、ぁああああっ、そういうことか!!)
料理自体の量が少ない。
――――だから、オードブルの用意をヒノに寄越したんだ。
最初に用意した料理を出すだけあって話を切り出す機会が得られやすいから、うまくやりさえすればその後も会話に絡みやすいポジションだ。
どうしてそんな美味しい席が回ってきたのかとは思っていた。それでも、話題の用意や話の合わせ方、状況のシュミレーションで頭の中が一杯で、ちっとも考えていなかった。
けど、食事にかかる時間が持ち時間になるなら、量自体はあまり多くないオードブルは不利になる。料理を供している間は殿下と言葉を交わせる代わりに、全員が食べ終えれば時間切れ。
そして――――俺を除いた全員が、示し合わせていたらしい。
絡繰りがわかって喉の奥から漏れそうな悪態を呑み下す俺の前にも、空の皿に代わり、湯気を立てるスープが置かれる。
場の雰囲気に妙なものを感じ取ってちらちらと俺を気にしていたヴィンセント殿下も、今はもう、目の前の皿から立ち上る香りに意識が吸い寄せられてしまっていた。
「……」
……認めるしかない。
俺の、敗北だ。
「殿下! こちらこそ僕が用意させたスープでございます! さあ、まずはお召し上がりを!」
精緻な金の装飾が施された器の中、乳白色の水面にシャンデリアの光が揺れる。
「……美味しいね」
迷う様子もなくスプーンを手に取り、流れるような所作で掬い上げた液体を音もなく飲み干した唇が小さく弧を描く。
でもそれは、よく言って何の気負いもない――――そして、悪し様に言ってしまえば拍子抜けと表現できそうな感想だ。
――――言い換えれば、感動や驚きが欠片もない言葉だ。
ヴィンセント殿下が口をつけた後に飲んで確かめてみたが、やっぱり普通に美味しい。
そう、普通だ。
王城でなくとも、貴族街のレストランにでも足を運べば食べられそうな、あるいは、多少食にうるさい金持ちや余裕のある貴族なら当たり前に食べていそうな味。
主となる王族に対して振る舞い、自らをアピールするには役者不足の料理のはず。
「そうでしょうとも。王家所縁の土地それぞれで最高のものを材料に作らせたコンソメ仕立てのクリームスープではありますが、惜しみなく手間をかけたとはいえ殿下が普段召し上がられる料理と思われるはず」
なのに、少年は自信を崩していない。
「だがしかし! 今回はとびっきりの材料を、この僕が! 手ずから仕留めたものを用意させていただきましたとも!」
「……仕留めたって、何を?」
顔だけはにこにこしつつも、妙に退屈そうにスープを突いていたアルルスが、「仕留めた」という言葉に少しだけ顔を上げた。
「フッ、聞いて驚くといい。――――魔猪さ!」
「え~!? すごーい!」
(こ、こいつ……え? あれ……?)
周囲と同じように目を見開いて驚きと称賛を見せたアルルスだったが、その愛らしい容貌が忌々しそうに歪んだ一瞬を見てしまった気がして、俺は目を瞬かせた。
だって五歳だぞ……? そんなまさか、五歳で舌打ちでもしそうな顔なんてないだろ……? 俺なんて五歳の頃はそんなんじゃなかったぞ……?
「……?」
「殿下! どうです!? この私が! 仕留めてみせたんですよ! 凄いでしょう!?」
「えっ。――――う、うん……?」
いかにも愛らしい笑顔を浮かべたアルルス、その顔につかの間過ぎった表情に首を傾げている俺の斜め向かいで、ヘーゼルダインがだんだん必死になって殿下にアピールしているが…………どうにも残念なことに、肝心の相手には、その凄さが伝わってなかった。
……もしかすると、堕魔を知らないのかもしれない。
「すみません。魔猪ってなんですか?」
しかし「まさか知らないんですか?」なんて馬鹿正直に訊いて殿下に恥をかかせれば、場は台無し。
ついでにそんなこと言った奴は臣下失格。主人に恥を掻かせた召し使いが鞭を打たれるように、主君に恥を掻かせる臣下は冷遇されるのが目に見えてる。
それに、よくよく考えてみればここは王都。厳重に守られるべき王城で、森林や山深くに潜む堕魔に出くわす機会なんてあるはずない。
となれば、学ぶことの多いだろう王族が学ぶべき内容としては、後回しになるのも当然。俺たちみたいな地方領主とその親類縁者じゃないんだから。
「は? なんだ、殿下の学友に選ばれておいて知らない者がいるのか?」
勿論知っている。
猪の堕魔――――つまり、偶々魔力を扱えるようになっただけの動物。
この場合は、その動物が猪だったというだけだ。
まあ、恥を掻いたことになるのは、不本意だが仕方ない。
俺にとって問題があるとするなら、殿下が気づいて、恩を感じてくれるかどうかだ。
……が、追及が無くなってほっとした顔の殿下を見るに、それは期待できそうにない。
……まあ、じっくりつき合っていこう。
「……とまあ、要するに動物の分際で魔術の真似事をやっているだけのことさ。わかったかい?」
「はあ、そうなんですか。勉強になりました」
「それはそうと殿下! 僕がどう魔猪を仕留めるに至ったかをお話しておりませんでしたね!」
「え? ――あぁ、うん。聞かせてくれる……?」
「勿論ですとも!」
それはさておき。
俺を小馬鹿にしながら説明を繰り広げたヘーゼルダインの馬鹿は、勢いづいてそのまま魔猪相手の大立ち回りを話し始める。
長話を聞かされた殿下は、既に萎れかけた花のように浮かない顔色をしていらっしゃるが、それでも匂い立つように美しさが増して見えるのは、亡き御母堂に似た儚げな面差しだからだろうか。
「何か仕留めて殿下に献上するしかないと思い立った僕は、一路ブレットノア領に足を運んだ」
「え? もしかしてお祖父様に会ったの?」
「む? ああ、それは勿論、許可をいただくべく参りましたとも! 壮健な老紳士であり、身の引き締まるような覇気ある人物でしたな!」
「そ、そう? えへへ」
ヴィンセント殿下が明確に強い興味を示した瞬間、ここにいる全員が、殿下についての脳内メモに「殿下は祖父に対して好意的」と書き記したはずだ。
それと同時に、そっちから話を向ければよかったか……という後悔も俺の胸を過ったんだが、それには蓋をした。
「まあ、それはさておくとして今は僕が魔猪を仕留めた話に戻りましょう」
訂正、ブレッドノア子爵を褒めて殿下の好意を引き出しながら「そんなこと」とぶん投げて捨ててみせた阿呆は“俺たち”のくくりには入らないものとする。
「さて、この僕が狩るに相応しい獲物はいないかと悩む僕の耳に、ある日、一つの噂が届いた。――――大物が出た、ってね。
僕はピンときた! 僕が探していたのは間違いなくこいつだと! 主の思し召しだったね!
そして探し回った。山の中を、あくる日もあくる日も。それでも見つからなくて、山向こうに姿を消したんじゃないかって狩人たちも諦める奴らが出てくる始末。それでも僕は諦めず探し続けた!
――――――そんな時、遂に! 奴に出くわした! 魔猪だ! 茂みの中から姿を見せた奴は、見上げるくらいに大きかった! 僕の倍はあったろう! そんな奴が狙いを定めて突っ込んできたんだ! いきなり轟音が耳に飛び込んできて、最初は何事かと思ったよ! ぶつかった木は折れてるし、近くを通り過ぎるだけで地面が揺れる! 雇われたくせに臆病風に吹かれて逃げ出す者もいた! 泣き言を漏らした者は僕以外全員! しょうがない! 僕は、そんな腰抜けたちを叱咤してやったのさ! ――――大の男が腑抜けてんじゃないってね! どうだい、大したもんだろう?
そして僕たちは武器を手に戦った! 追い回して追い回して、三日三晩戦い続け、そしてようやく待ちに待った瞬間が訪れた! 不眠不休を強いられた奴が、不意にふらついたんだ! 僕は見逃さなかった! すかさず奴の足に一撃! 奴は眠気が吹き飛んだみたいに目を見開いて叫び声を上げると、僕目がけて突進してきた! それをひらりと避ける僕! 痛みと怒りに荒れ狂う奴をあしらいながら攻撃を続け、そして! ようやく! 僕の放った【水の槍】が、奴の目を射抜き、脳髄を刺し貫いた!! どうっと地響きを立てて倒れる魔猪! また起き上がって暴れ回るんじゃないかと、恐れをなして遠巻きに眺めるばかりの周囲を置いて、奴に足をかけて僕は言ってやったのさ! ――――民の安寧は僕の手で守られた! ってね!」
「…………あっ、うん、す、すごいね……」
殿下の拍手につられるように俺たちも手を叩く。
本当なら確かに凄い。俺とそう変わらないヘーゼルダインが、魔術を使ったとはいえ堕魔を倒して見せたというんだ。伯爵家の出とはいえ、堕魔の操る魔性によっては騎士でも手こずるはずのものを大した傷も負わずに倒してみせたというなら図抜けた力量の持ち主と言える。
でも、どうにも劇的過ぎて、胡散臭い。語り口がというだけじゃなく、立ち振舞いも、なんというか、達人の纏う雰囲気が欠けている。実家でも堕魔を討伐した経験のある者はいるが、彼らに感じる独特の佇まいというものがないのだ。
だから俺は、おそらく脚色混じりの話だろうと思ってる。あるいは、実際にそれができた人物の立ち位置に、自分を当てはめて話しているとか。……妙にしっくりくるな。
ともあれ。
話の真偽はどうあれ、こいつはこいつで凄いとは思う。
王子によいしょさせるなんて、ああ、素直に感心する。
「……頭は父上に持っていかれたし、魔石も子爵殿に差し上げたが、その肉はこのスープに、そして毛皮は加工して持参してある」
ヘーゼルダインが気障ったらしく指を鳴らすと、大きなマントが運び込まれて、思わず顔が引き攣った。
「これを今ここで殿下に献上させていただきたい」
ヘーゼルダインが、胸に手を当て膝をついてみせる。
実に鮮やかに献上品の紹介まで持っていかれて、普通なら歯噛みするところだ。
――――が、俺たちとそう変わらない身体では、大人のようにはいかない。しかもヘーゼルダインの妙に抜けた雰囲気も合わさって、不思議と滑稽に見えてくる。
俺たちの表情が硬いのは、果たして、うまくやられた嫉妬を隠すものか、笑いを堪えるものか。
「ふふふ、ありがとう。大切に使うよ」
殿下も同じようで、くすくすと笑い声を漏らしながら受け取った。
可笑しさに笑ってはいても、確かに朗らかな笑みだった。
「それくらいにして食事に戻られてはいかがですかねぇ?」
「は? ――――なっ、君たちは! 僕の話をきちんと聞いていたのかい!?」
「いえいえ、猪が大変美味しかったので、少し夢中になっていただけですよぉ」
「フ、フン! ならまあしょうがないな!」
それでもやったと思えないのが、ヘーゼルダインがヘーゼルダインたる所以かもしれない。
スープも普通に美味だし、猪の肉も柔らかく煮込まれていて食べやすかった。殿下に比べれば上品さには欠けるかもしれないが、それでも俺たちは他人の持ち時間を潰すべく可能な限り急いで完食してある。真面目に話を聞いていた殿下の皿の中身も少ないとなれば、用意した己が残すなんてことにもなり兼ねない。恥さらしもいいところだ。
次に控えるクレリーに指摘され、急いで食べ切ったヘーゼルダインの前からも空の皿が下げられた。
そして次に見えたのは、きつね色の衣を纏った魚の切り身。
「北の海で水揚げされたスズキをムニエルにしたものでございます」
口に入れた瞬間芳醇なバターの香りが広がり、次いでカリッと焼かれた衣を噛み締めるとふわりと崩れて身が旨味を溢れさせる。魚の臭みなんて欠片もなく、さっと確認してみても、どれもひけを取らない大きさの切り身ばかり。
……そういえば、豊富な海の幸を供する海に面した領地だったな。
羨ましさが込み上げるのを抑え切れなかった。
「ご満足いただけたようなら何よりですよぉ」
皿の上でそつなくナイフを操りながら、感想を口にしようと急いだ様子のヴィンセント殿下を間延びした声が押し止める。
「……んく。クレリーは、何も言わないの?」
「おやぁ、ご所望とあらばなんなりと、と申し上げたいところではあるのですがぁ、限られた時間を使うのでしたら、殿下がお好みになられる話題を……と考えると、切り出せずにおりましてねぇ」
今までの俺たちの行動を振り返れば当然の疑問で、にもかかわらず沈黙を保って微笑んでいるばかりのクレリーにどうしてそうしないかと話を振ってみるのも頷ける行動だった。
決して良いとは言えないが、悪くない聞き方だ。被らない話題を提供できる。話題の引き出しさえ用意できているなら、殿下の関心事も知ることができるし、一石二鳥かもしれない。
「……じゃあ、クレリーの領地はどんなところ?」
「そうですねぇ……北は海に、残り三方は山に囲まれている冷涼な土地ですよ。王都の一帯とは土が違いますからぁ小麦は取れませんが、代わりに酪農は広く行われていますし、海産物も多く獲れる場所ですねぇ」
その後もクレリーの治める土地についての話が続くだけで、特に何事もなく全員が食べ終えてしまう。
殿下に将来仕える側近として選ばれながら、積極的に自分を売り込みもしないクレリーの態度に違和感を感じてはいても、まさか場を乱してまで問うわけにもいかない。
クレリーの顔に浮かんだ、張りつけたような笑み。少しでも何かが透けて見えやしないかと、目を凝らして見ているしかなかった。




