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王国の君  作者: てんまゆい
一章 揺り篭の君
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02 ヴィンセント

ヴィンセント3歳

「……様! ヴィンセント様! どちらにいらっしゃるのですか?」


 叫ぶ声があっちへいったり、こっちへきたり。

 目があって、しずかにくすくす笑う。


 ベッドの下。

 ちいさなすきまの向こう。

 手さぐりで見つけた出っぱりに、ぼくとミアとで体をかくしている。

 だから、マルチダもぼくたちを見つけられない。


「マナーの先生をお待たせしているのですよ?」

(なら帰ればいい)


 ナイフとフォークの使い方がだめだとか、ナプキンがきちんと着けられていないとか、先生はうるさい。

 ミアもマルチダもいないし、食べ物も冷たくてあまりおいしくないし。


「……ぅぅ……」


 ミアの方に意識が戻る。

 マルチダがお母さんで、ぼくより少し先に生まれたときいたけれど、とてもそうは思えない。

 身長だってぼくの方が高いし、いつも「おにぃ、おにぃ」って言って後ろをついてくるし、知らない人がいるとすぐ後ろにかくれるし、お空がゴロゴロなろうものなら布団をかぶってぷるぷるふるえてる。

 …………今もちょっとふるえてる? …………暗いからかな?

 にこって笑いかけたら、すこしふるえが小さくなった。

 ……出た方がいいかな。


「先生がお怒りになりますよ? いいのですか?」


 うるさい、しらないっ。

 お皿に当たってちょっと大きな音が出たくらいで目を剥いて怒った……あ……えっとぉ……あ、あくまばばあになんて、あいたくないもんっ。


「ふんっ」

(……あ、あれ)


 はなをならしたら、はながムズムズしてきた。


「ヴィンセント様!」「――くしっ」


 …………。


「……こちらに隠れておいででしたか。ヴィンセント様」


 しまった……。

 叫び声とかぶったからだいじょうぶかもと思ったのに……。

 ミアと目があう。首をかしげると、ふるふると首をふってみせる。ミアもだめだと思ってるらしい。

 コンコン。


(……う、うー……)


 あきらめて出っぱりから下りて、ベッドの下からそろそろと頭を出す。


「……ヴィンセント様」

「……――うぎゅぇっ」


 くびっ、くびつかまれた!? ああぁぁぁ、ずるずるって引っ張り出される……!


「ミアもいるのでしょう? 出てきなさい」


 そろそろと出てきたミアのかおが明るくなったのもいっしゅんのこと、ぼくと同じようにえりくびをつかまれてぶら下げられる。


「……かくれんぼは楽しまれましたか?」

「……は、はぁい」


 どうしてだろう?

 にこにこしてるのに、マルチダのかおがこわくて見られない。


「先生には夜に変更するよう伝えておきます。ヴィンセント様も、顔を合わせた時に謝罪なさって下さい」


 はあ、と小さくため息を一つついたあと、マルチダはぼくとミアをゆかにおろした。


「こんなに埃塗れになられて…………昼餉を召し上がられる前に湯浴みを致しませんと」


 ……こ、声もやさしいし、もしかして、もう怒ってない? だいじょうぶ?


「――――ですが、まずはお説教ですね」


 ミアと目をあわせた後で見上げたかおはやっぱりこわかった。




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