表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なろう公式企画

ゆきはなつばめ

作者: 烏屋マイニ

この作品は、予約掲載設定操作の問題により、冬の童話祭2017の参加既定から外れてしまったN9271DQを再投稿したものです。N9271DQへ評価、ブックマーク、感想をいただいた皆様には、おわびと感謝を申し上げます。ありがとうございました。

 冬の終わりは南の島のツバメたちにとって、渡りの季節だった。普段であれば、この時期の雄ツバメは、せわしなく島の上を飛び回り、太陽の方角や空気のにおい、生え換わった羽毛の具合などを確かめることで一所懸命になる。それと言うのも、彼らは雌ツバメよりも一足早く北の島へと向かい、巣作りなど子育ての準備に取り掛からなければならないからだ。ところが、今年はどう言うわけか、いつもと様子が違った。そろそろ日差しは強くなり、空気はじりじりと熱を持ち始めるころだと言うのに、島にはまだ涼しい風が吹いている。世界に何やら、おかしな事が起こっているのは間違いなかったが、ほとんどのツバメたちは、ずっとこのままなら渡りをせずにすむと、のんきに喜んでいた。彼らにとって大切なのは、毎日の食べる虫と、巣と卵と雛なのだ。春になっても、この島が住みよいままなら、わざわざトウゾクカモメや、トビや、嵐に怯えながら、北の島へ渡る意味などない。この島でつがいを見つけ、巣を作り、卵を産んで雛を育てればよいのだから。

 もちろんクロも、終わらない冬を喜ぶ一羽だ。しかし彼の場合、渡りを恐れる気持ちは、他のどんなツバメたちよりも大きかった。それと言うのも彼は、ツバメにしては不恰好なほど翼が大きく、そのせいで空を飛ぶのが誰よりも下手くそだったからだ。こんな大きな翼では、素早く羽ばたくことができないし、ちょっとおかしな風を受けただけで、すぐにひっくり返ってしまう。もちろん、宙返りだって無理だ。なんと言っても彼は去年の秋に、北の島からこの島へ、一度渡りをしている。自分のぶきっちょな飛び方が、渡りに向いていないことは、嫌と言うほどわかっていた。

 飛ぶのが下手で困るのは、渡りの時だけではなかった。普通のツバメは空中で羽虫を捕らえて食べ、飛びながら水面をかすめて水を飲む。しかし、クロが同じことをしようとすれば、間違いなく大惨事になるだろうから、彼は誰も寄り付かない島の北の端に近い、高い崖の上を自分の餌場にしていた。そこならばスズメのように、土に隠れた虫を掘り返す、自分のみじめな姿を仲間たちに見られないですむので、落ち着いて食事をすることができた。もっとも、クロは飛ぶことそのものを嫌っていたわけではない。崖の上を餌場にしたのには、実は他にも理由があって、海に面したそこには、しばしば空へ吹き上げる風が起こり、苦手な羽ばたきをほとんどすることなく、クロを空の高いところまで連れて行ってくれるのだ。

 その日も崖を駆けのぼる素敵な風が吹いていたので、食事を終えたクロは誰もいない空を独り占めにしていた。そしてトビのように、高いところをくるくる回りながら砂浜を見下ろして、波打ち際に彼女を見つけたのだった。最初は小さな花が咲いているのかと思ったが、近くへ飛んでいって見ると、そうではないことに気付いた。それは、ピンク色のふわふわな髪をして、若草色のワンピースを着た、小さな女の子だった。人間のような姿をしているが、ツバメよりも小さな人間などいるはずもなかったから、彼女は間違いなく別の何かだ。女の子は、北の空をじっと見つめ、時々ほおとため息を落としていた。その姿がひどく寂しげで、放っておけなくなったクロは砂浜に降りて、彼女の側までひょこひょこ歩いて行き、声を掛けた。

「何を見てるの?」

 女の子はクロを見るなり、ワンピースと同じ若草色の瞳に一杯の涙を浮かべ、大声で泣きながら彼に抱きついた。クロは驚いたが、彼女があまりにもわんわん泣くので、そのままにしておいた。しばらく経って落ち着いた女の子は言った。「クララ、今まで何をしてたの。あなたがいなくなって、私はずいぶん心配したのよ?」

「クララ?」クロは聞き返した。

「あら、よく見たら違うわね」女の子は首を傾げた。「あなたは男の子だし、喉の赤いところがクララより大きいわ」

「うん」クロはうなずいた。「僕はクロ。クララは、母さんの名前だよ」

「まあ」女の子は目を丸くした。「私は、ハナ。あなたのお母さんとは友だちなの。ねえ、覚えてる。私たち、前に会ったことがあるのよ?」

「僕は初めて会ったように思うけど?」

「ああ、そう言えば」ハナはくすくすと笑った。「あの時のあなたは、まだ卵からかえったばかりで、目も明いてなかったものね」

「それじゃあ、僕が覚えてるわけがないよ」

「そうね」ハナはうなずいた。「でも私は、クララがあなたに、クロと名付けるところを見ていたの。立派なツバメに育ったのね。よかった」

 クロは首を傾げた。「それって去年の春は、君も北の島にいたってことだよね?」

「そうよ」

「どうやって海を渡ったの。君には翼がないのに?」

「毎年、クララが背中に乗せて、北の島まで連れて行ってくれるの。そうして秋になったら、また彼女に乗って、この島まで戻ってくる」ハナは、ふと顔を曇らせた。「でも、去年はそうじゃなかった。いつもは秋に彼女の巣へ行けば、私のことを待っててくれるのに、その時に限って巣は空っぽだったの。私はしばらく待ったけど、彼女は現れなくて、私はこの島へ帰るのに、一番遅くに渡りを決めた、他のツバメの背中を借りるしかなかった。ひょっとすると、クララは何かの事情があって、先に帰ったのかとも思ったわ。でも、彼女はこの島にもいなかった。私は、彼女が戻ってくるのを、ずっとここで待っていた。北の島から戻ってくるツバメは、必ずこの砂浜の上を通るから。でも、彼女は現れなくて、代わりに今日、あなたと出会ったってわけ」そしてハナは、真剣な顔でクロにたずねた。「ねえ、クロ。あなたは、クララがどこへ行ったか知らない?」

 クロは首を振った。「僕が母さんを見たのは、僕が巣立ちをした日が最後だよ。僕たちツバメは、そのあと巣立ったツバメ同士で集まって、渡りの準備をするから、母さんがどうしたのかはわからないんだ」

 ハナは考え込んだ。しばらく経って、彼女は言った。「お願いがあるの、クロ。私を乗せて、北の島へ行ってくれないかしら」

「無理だよ」クロはぎょっとして言った。「僕はツバメの中で一番飛ぶのが下手くそなんだ。自分が飛ぶので精一杯なのに、誰かを乗せて飛ぶなんて考えられない」

「でも、あなたはお母さんと同じか、それ以上に大きくて立派な翼をしているわ」

 クロは、自分の翼を開いて眺めた。実を言えば、彼は母親が飛んでいる姿を、ほとんど見たことがなかった。だから、自分の翼が母親譲りだと知ったのは、これが初めてだった。

「お願い、クロ。私、クララを探したいの。彼女が南の島にいないって事は、まだ北の島のどこかにいるってことでしょ?」

「でも――」クロは、喉まで出掛かった言葉を飲み込んだ。たぶん彼女は、とっくに死んでしまっているだろう。クロたちが、北の島を発つときでさえ、朝夕はひどく冷え込み、食べられる虫もほとんどいなくなっていた。彼女が、それよりも厳しい季節を乗り越えることは、ほとんど無理に違いない。

 クロが返事をためらっていると、ハナは言った。「それに、クララのことがなくても、私は北の島へ行かなきゃならないの。さもないと、みんながすごく困ることになるわ」

「どう言うこと?」クロは首を傾げた。

「私は春の女王なの」ハナは胸を張って答えた。「私が北の島にある季節の塔へ行かないと、世界にはいつまでも春が来ない。つまり、あなたたちは、永遠に渡りが出来ないってことになるわ。そんなことになったら大変でしょ?」

 クロはきょとんとハナを見つめ、それから言った。「みんなは春が来なければ、危険な渡りをしないで済むって、すごく喜んでるよ」

 ハナは、ぽかんと口を開けた。

「僕たちは、好きで渡りをしているわけじゃないんだ。もし僕が、君を北の島へ連れて行って世界を春にしたら、きっと僕はみんなから恨まれるよ」

「私、みんなに嫌われてたってこと?」ハナはしょんぼりとうなだれ、それから砂浜にぺたりと座り込み、しくしく泣き出した。

「ハナ、どうしたの?」クロはぎょっとしてたずねた。

「北の島ではみんな、春がくると喜んでくれてたのに、ここでは迷惑に思われてたのね。それじゃあ、どうしてクララは私を乗せて、飛んでくれてたのかしら?」

「そんなの、母さんに聞かないとわからないよ」

 するとハナは、はっと顔を上げ立ち上がった。

「そうね。その通りだわ」ハナはぽつりとつぶやいてから、涙と鼻水を手の甲で拭って、落ちていた流木のそばに駆け寄り、それに手を掛けると、うんうんうなりながら波打ち際へ引っ張って行った。

「何をしてるの?」

 ハナは手を休めず答えた。「これに乗って、北の島へ行くの」

「なんだって?」クロはぎょっとした。

「私、今までずっと、クララにひどいことをしてきたに違いないわ。彼女が本当は渡りなんてしたくないって思ってたのなら、私は彼女に会って謝らなきゃ」

「だからって、流木で海を渡るなんて無茶だよ」

「その無茶を、私はずっと彼女にさせてきたの。そして、あなたにまで同じことを頼もうとした。ごめんね、クロ。私は自分の力で渡りをするわ」

 波打ち際にたどり着いたハナは、流木の先っぽを海へ押し出し、颯爽さっそうとそれにまたがって北の水平線をにらみ付けた。しかし流木はちゃぷちゃぷと波に洗われるばかりで、一向に前へ進まない。ハナは首を傾げて流木を降り、そのお尻を押し始めた。しかし、間もなく大きな波が来て、流木と彼女をざぶりとさらい、ハナは半ば溺れかけながら、水しぶきを上げて砂浜へ泳いで戻った。ハナは砂浜で四つん這いになり、どうにか息を整えて立ち上がると、海水の滴をぽたぽた落としながら、きょろきょろ辺りを見回して流木を探した。流木はハナを置き去りにし、一本きりで悠然ゆうぜんと海の向こうへ旅立っていくところだった。ハナはぶんぶん頭を振って滴を振り飛ばし、唇を真一文字に引き結んでから別な流木を引っ張り始めた。クロは、もう見ていられなくなって、ハナの後ろに立つと、彼女の襟首をくわえてから翼をはためかせ、よろよろと空へ舞い上がった。

「ちょっと、クロ。放して」ハナは腹を立てて言った。クロは頭を振って彼女を空中に放り投げ、背中で受け止めた。

「クロ?」

 不思議そうに首を傾げるハナに、クロは言った。「本当は、こんなことしたくないけど、君の無茶を見過ごすなんてできないよ。でも、僕は母さんほど上手には飛べないし、それこそ二人して、旅の途中で死んでしまうかも知れない。そうなっても、恨みっこなしだからね?」

「ええ、もちろん」ハナはうなずき、クロの背中にぎゅっとしがみついた。「でも、私は大丈夫だと思う。きっと、なにもかもうまく行くわ」


 もちろん、ハナの考えは間違っていて、クロはちっとも大丈夫ではなかった。日暮れまで飛び続けた彼は、去年の渡りで見つけた小さな島に降りるなり、地べたへばったりと倒れ込んだ。長らく羽ばたき続けたおかげで胸はきりきり痛み、翼は石にでもなったかのように重かった。ハナは疲れ果てたクロを見て、少し離れた場所にある水溜りから、ずぶぬれになりながら、木の葉を丸めたコップに水を汲み運んできた。クロはその水を飲んで、ようやく一息つくことができた。次にハナはせっせと穴を掘り、自分より大きなミミズやコガネムシの幼虫を捕まえて、クロの前へ持って行った。クロはごちそうをついばみ、ハナは地面に座って、その様子をにこにこ笑顔で見守った。

「君は食べないの?」クロはたずねた。

「虫は苦手なの」ハナは首を振った。「私が噛みつくと暴れるし、すごく苦いから」

「一度は食べてみたんだね」クロはくすりと笑った。

 ハナはうなずいた。「クララに、美味しいからってすすめられたの。でも、二度とごめんだわ」ハナは言って立ち上がり、虫探しで泥まみれになった自分の身体を見回した。「ちょっと水浴びしてくる」

「僕は先に寝てるよ」クロはひとつあくびをして、翼の中にくちばしを突っ込んだ。しかし、彼はすぐ目を覚ますことになった。素っ裸で、がたがた震えるハナに起こされたのだ。

「一体、どうしたの?」クロは片方の翼を開いてたずねた。ハナは、そこへ飛び込むなり答えた。「水浴びのついでに服も洗ったんだけど、日がすっかり落ちたら急に冷えてきたの」

 クロは、ハナの身体を翼で包み込んでから、首を傾げて言った。「そう言えば、ちょっと冷えるね」

「ちょっとじゃないわ」ハナは翼の下から顔を覗かせて言うと、ぶるっと震えてすぐに引っ込んだ。「明日までに洗濯物、乾くかしら」

「飛んでる間に乾くよ」クロは言って、大きなあくびをした。「もう寝よう。おやすみ、ハナ」

「ええ、そうね。おやすみ」


 朝になって目を覚ましたクロは、しょんぼりと水平線を眺めていた。クロの背中によじのぼったハナは、そんな彼を見て首を傾げた。「ずいぶん元気がないのね?」

「そりゃあ、そうだよ」クロはむすっとして言った。「僕は、飛ぶのが苦手なんだ。きっと今日も、昨日みたいにへとへとになるに違いないもの」

 するとハナは、ふと考えてから言った。「クララは昨日のあなたと違って、一日に数えるほどしか羽ばたかなかったの」

「羽ばたかないで、どうやって飛ぶの?」

「クララは、海の上には強い風と弱い風があって、その間を行ったり来たりするだけで、どこまでも飛んで行けるんだって言ってたわ。やり方も教えてもらったけど、試してみる?」

「そうだね」クロはうなずいた。「楽に渡りをできる方法なら、なんでもやってみるよ」

 島から飛び立ったクロは、すぐにハナの言った意味がわかった。海の上の風は、海面に近いほど弱くなり、離れるほど強くなるのだ。クロは背中にいるハナに教えてもらいながら、まず強い風の吹く高い場所まで昇り、そこから風下へ向かって斜めに海面へ降りて行った。強い追い風と落っこちる力でスピードがぐんぐん上がり、クロの大きな翼は空気を掴んで、彼の身体を押し上げようした。

「そこで風上を向いて」ハナが叫んだ。

 クロは海面の近くでぐいと身体を捻り、頭を風上に向けた。向かい風は、さらに浮き上がる力を生んで、クロは強い風が吹く高い場所までなんなく押し戻された。

「あとは、これを繰り返すだけよ。今度は自分でやってみて」

 クロはうなずき、覚えたばかりの新しい飛び方でぐんぐん北へ進んだ。それは本当に楽ちんで、今まで翼をばたつかせていたことが、馬鹿らしく思えるほどだった。「なんで母さんは、こんな飛び方を知ってたんだろう?」

「ミズナギドリの飛び方を見て勉強したんですって」そしてハナは、小さくうめいた。「うう、目が回る」

 急降下と急上昇の繰り返しだから、彼女が目を回すのも当然だった。クロは一際ひときわ高く飛び上がると、今度は浅い角度でゆっくり空を滑った。するとハナは、ほっとため息をついて言った。「ありがとう、クロ。これなら少し休めそうだわ」

「どういたしまして。その代わりって言ったらなんだけど、他の飛び方を知ってたら、もっと教えてくれるかな?」

「ええ、もちろん」ハナはにっこり笑って請け合った。


 それから何日かは順調だった。空も海も穏やかだったし、ツバメをごちそうと見る恐ろしい敵も現れなかったからだ。クロも新しい飛び方をたくさん覚え、もう何日でも飛び続けられる気分になっていた。ところが先へ進むにつれ、次第に冷たい北風が吹き付けるようになり、灰色の重たい雲が暖かな陽射しをさえぎった。そればかりか雲は、クロが見たこともない冷たく白い粒を吐きだし始めた。

「雪だわ」ハナは顔をしかめて言った。

「雪?」クロは首を傾げた。

 ハナはうなずいた。「白くてふわふわだけど、とても小さな氷がたくさん集まってできているの。普通は冬になると空から降ってくるわ」

「これって、やっぱり君が塔にいないせいなの?」クロはたずねた。

「そうかも知れないけど」ハナは顔にくっついた雪粒を、払いのけてから首を振った。「こんな南で雪が降るなんて、ちょっと変よ。ひょっとすると、ユキはまだ塔を出てないのかも知れない」

「誰?」

「冬の女王よ。私たち季節の女王は、月が三つ巡る間だけ塔にいる約束なの。女王が塔を出れば、世界の季節はそこで固まって動かなくなるのだけど、居座り続ければどんどん強くなってしまうから。それが冬の女王なら、世界中が冷えて氷漬けになるわ」

 クロはぎょっとした。「南の島も?」

「もちろん」

「春の女王が居座ったら、どうなるの?」

「生き物がどんどん生まれて増えて、しまいには食べ物がなくなって、みんな飢え死にするでしょうね」

 クロは、ごくりとつばを飲み込んだ。「そうなると、他の女王の場合も、ろくなことにならないんだろうね」

 ハナはうなずいた。「とにかく、季節は決められたとおり巡らないといけないの。急いで塔へ行って、ユキと話をしなきゃ」

「がんばってみるけど、まずは北へ向かう風を探さないと。このままじゃ、南へ吹き戻されちゃうよ」

「そうね」ハナはうなずいた。「とにかく、やってみましょう」

 二人は風を探りながら、四苦八苦して北を目指した。そうして、ようやくたどり着いた北の島は、すっかり雪に覆い尽くされており、生きて動いているものの姿は一つも見られなかった。クロは、南の島もいずれこうなるのかと思い、ぞっとして体中の羽毛を逆立てた。

「寒い」ハナが白い息をたなびかせ、かちかち歯を鳴らしながら言った。クロは心配になって、きょろきょろ辺りを見回し、避難場所を探した。目に付いたのは、雪の間からわずかに緑色の葉をのぞかせる、カシの森だった。クロは素早く降りて、森の中へ飛び込んだ。びっしり立ち並ぶ木々の枝葉で守られたそこは、北風も雪も入り込めず、しかも黒っぽい腐葉土はふかふかで温かかった。その上でクロは、ハナの身体を翼にくるみ温めた。

「ありがとう、クロ」ハナは一息ついて言った。「私にも羽毛があったらよかったのに」

 ハナの言葉で、クロはひらめいた。彼はお腹の羽毛を一本引き抜くと、それをハナのワンピースの胸元へくちばしで押し込んだ。

「ちょっと、クロ。やめて、くすぐったい」

 笑い転げるハナを無視して、クロは彼女の服の下へどんどん羽毛を詰め込んだ。そうしてハナが、笑いすぎてぐったりした頃には、彼女のワンピースはたくさんの羽毛でもこもこになっていた。

「あったかい」ハナはぽつりとつぶやいた。

「よかった」クロは満足してうなずいた。

「でも、こんなに毛を引っこ抜いたら、あなたが寒くならない?」

「そんなにたくさんは抜いてないよ。それに、また生えてくるものだし、大丈夫」そう言ってから、クロは腐葉土を掘り返し、コガネムシの幼虫を見つけてはついばんだ。ハナもドングリを拾って腹ごしらえし、それが終わると二人は再び、冷たい風と雪が舞う空へ戻った。しばらく飛ぶと、雪に霞む細長くて黒っぽい影が見えてきた。ハナはそれを指さし、「季節の塔よ」と言った。クロはうなずき、塔へ向かって懸命に羽ばたいた。

 塔が近付いてくると、冷たい風に乗って女の子の泣き声が聞こえてきた。クロは空耳かと思ったが、ハナは「ユキの声だわ」と言った。

「どうして泣いてるんだろう」クロは首を傾げた。

「わからない」ハナは首を振った。「てっぺんに私たちが住む部屋があるの。そこまで昇れる?」

「やってみるよ」

 クロは塔の周りをくるくる飛んで、間もなく塔にぶつかった風が、てっぺんへ向けて駆け昇る場所を見つけた。彼は大きな翼を目一杯広げ、吹き上げる風を掴んだ。クロとハナはぐんぐん昇り、とうとうてっぺんへたどり着いた。そこには窓が開いていて、小さな女の子が窓辺に突っ伏して泣いていた。彼女は腰にまで届くさらさらの白い髪をして、真っ白な丈の長いワンピースを着た人間のように見えた。しかし、彼女はハナと同じくとても小さかったから、やはり人間ではなさそうだった。クロは窓辺に降り立ち、女の子にたずねた。

「どうして泣いてるの?」

 女の子は顔を上げ、真っ赤な瞳のある目を大きく見開き、言った。「クララ?」

「違うわ、ユキ」ハナは、クロの背中から窓辺に飛び降りて言った。「彼はクロよ」

「ハナ?」ユキはぎょっとして、よろめきながら窓辺を離れると、クロたちに背中を見せて走りだし、部屋の反対側にあるクローゼットに駆け込んで、バタンと扉を閉めた。

 クロとハナは目を見合わせると、窓辺から飛び降り、ユキが閉じこもったクローゼットの前まで歩いて行った。ハナは、クローゼットの扉をノックしてたずねた。「一体、どうしたって言うの、ユキ?」

「ごめんなさい」と、クローゼットの中からユキは言った。

「ねえ、ユキ。なにがなんだかわからないわ」ハナは腰に手を当て、口をへの字に曲げた。ずいぶん経って、クローゼットの中から再び声がした。「ごめんなさい、ハナ。私、あなたの友だちを殺してしまったの」

 ハナは、ぽかんと口を開けた。クロも、ぎょっとしたまま凍り付いた。クローゼットの中からは、しくしく泣く声が聞こえてきた。ハナは厳しい声で言った。「ユキ、ちゃんと話して」

 しくしく泣く声だけが、しばらく続いた。クロとハナが待っていると、ユキはしゃくりあげながら、ようやく話し始めた。

「去年、いつも私を乗せて運んでくれていた、友だちのハクチョウが死んでしまったの。私が悲しんで泣いているとクララがやって来て、彼女は私を慰めてくれた。私は優しいクララを大好きになって、彼女とずっと一緒にいたいって思った。でも、クララはあなたを乗せて、南の島へ帰らなきゃ行けないって言うの。だから私、彼女に嘘をついた。ハナは大事な用があって、冬の始まりまで帰れないから、それまでもうしばらく一緒にいましょうって」ユキはぐずぐずと鼻をすすってから話を続けた。「そうして秋が終わって、私が塔へ入ると、世界はあっと言う間に冬になった。私はクララに、暖かい塔の中で、待つように言ったんだけど、彼女は塔の入口に掛けた、自分の巣で待つと言って聞かなかった。そして次の日に見に行くと、彼女はすっかり冷たくなっていた」

 ハナは歯を食いしばり、若草色の瞳に大きな涙をためて、話を聞いていた。そうして、ユキが話し終わると手首で涙を拭き、クローゼットの扉を開け放った。涙で顔をぐしゃぐしゃに濡らしたユキがいた。ハナは彼女を見るなり、大声で怒鳴った。「あなたは、なんてことをしたの!」

 ユキは首をすくめ、それから両手で顔を覆い、わっと泣き出した。起こったハナは、親友を殺した冬の女王を引っ叩こうと、大きく手を振り上げた。ところが、ぱちんと言う音は鳴らず、ハナの手は大きく空振りした。クロがハナの襟首をくわえ、彼女をひょいと持ち上げたからだ。

「ちょっと、クロ。放して」ぶら下がったまま、ハナはじたばた暴れた。クロはハナを空中へ放り投げ、背中で受け止めた。ハナがきょとんとしていると、クロはその場にぺたりと座り込んで言った。「ちょっと待ってあげようよ」

 ハナは泣きじゃくるユキを睨み付け、それからため息を落とし、クロの背中を滑り降りると彼の隣りに座って大人しく待った。しばらく経ってユキは泣くのをやめ、赤い瞳でクロ見つめて言った。「あなたは誰なの。どうして、クララにそっくりなの?」

「僕はクララの息子なんだ」

 クロが言うと、ユキは目を丸くしてから顔をくしゃくしゃにして、また泣き出した。クロは彼女が泣き止むまで、辛抱強く待った。

「ごめんなさい」ようやく泣き止んで、ユキは謝った。

「うん」クロは、こくりとうなずいた。

「あなたのお母さんを殺してごめんなさい」ユキは、もう一度謝った。

「うん」クロは毛繕いをしながら言った。

 ユキは不思議そうにクロを見て言った。「怒らないの?」

「母さんが死んでたのは悲しいけど」クロは首を傾げた。「でも、それって君のせいじゃないよね?」

 ユキとハナは、そろってぽかんと口を開け、クロを見つめた。

「だって母さんは、暖かい塔の中で、ハナを待つことも出来たんだよ。そうしなかったのは、きっと母さんが、ちょっとでも早くハナに会いたくて、約束の場所を離れたくないと思ったからなんだ」クロはハナに目を向けた。「ねえ、ハナ。これで、わかったよね。母さんは君との渡りを、すごく心待ちにしてたんだ。そうじゃなかったら、死ぬほど寒い中、君を待とうなんて思わなかったはずだもの」

 ハナは目を丸くして、こくりとうなずいた。

 次いでクロは、ユキに目を向けた。「ねえ、ユキ。君が嘘をついたあと、母さんは君と何をしてたの?」

「秋が終わるまで、私を背中に乗せて、この島のあちこちを飛び回ってたわ。彼女と一緒に飛ぶのは、本当に楽しかった」ユキは、その時のことを思い出したのか、ふと笑みを浮かべた。

「たぶん、それは母さんも同じだったと思う。そうじゃなかったら、君のことなんてほっといて、巣に戻っていつものように、ハナを待ってたはずだもの」

 ユキは目を丸くして、こくりとうなずいた。

「だから、僕は思うんだ。母さんは誰かや何かに殺されたんじゃなく、命がけで目一杯、好きなことをしたんだって」

 ハナとユキは目を丸くしたまま、二人して顔を見合わせた。

「母さんは、どこにいるの?」クロはたずねた。

「まだ、巣の中で眠ってるわ」ユキは言って、しょんぼりとうなだれた。「埋めてあげたかったのだけど、私じゃ彼女を巣から降ろせなくて」

「それじゃあ、みんなでやってみよう。ツバメが一羽と、女王様が二人掛かりでやれば、きっとうまくいくと思う」

「そうね」ハナはうなずき、ユキに手を差し出した。「一緒に、クララを埋めてあげましょう」

 ユキはうなずき、その手を取った。二人が仲直りをしたのを見て、クロは窓辺に向かい、言った。「さあ乗って。下まで行こう」

 二人の女王を乗せたクロは窓辺を飛び立ち、らせんを描きながら降りて行った。そうして雪に覆われた地面に降り立つと、彼女たちを降ろし塔の入口を探した。塔の入口はとても大きく、どうやら普通の人間のために作られたもののようだった。入口の上には二本の石の柱で支えられた庇が伸びていて、クララの巣はその下に掛けられていた。クロは飛び上がって、お椀のような形の巣の縁にとまり、中を覗き込んだ。そこには目を閉じて眠る彼の母親がいた。ただ穏やかに眠っているように見えるが、頬の羽毛をくちばしでつついて毛繕いをしても、彼女が目覚めることは無かった。クロは少し考えてから、クララの身体を頭で押して巣から落とした。かちこちに凍り付いたクララは、庇の下に吹き込んだ雪だまりの中に落っこちた。二人の女王は、親友のツバメを雪の中から引っ張りだし、その身体に手を当てて別れを惜しんだ後、近くに穴を掘り始めた。クロも巣を降り、彼女たちを手伝った。地面はかちかちに凍っていて、なかなか思い通りには掘れなかったが、彼らは難しい仕事をどうにかやり遂げて、そこにクララを埋めた。泥と雪にまみれた二人と一羽は、盛り上がった土の前で、しばらくお祈りをした。

 最初にユキが顔を上げ、ハナをしげしげと眺めながら言った。「あたな、どうしてそんなにもこもこなの?」

 ハナは若草色のワンピースの襟元に手を突っ込んで、羽毛を一本取り出した。「私が寒がらないように、クロが自分の羽毛を分けてくれたの」

「いいなあ」ユキは羨ましそうに言った。

「あなた、冬の女王なのよ。寒いのは平気なんでしょ?」

「そうでもないわ。今は、あったかいお風呂が欲しいもの」

 ハナは泥だらけの自分を見て、ため息をついた。「一緒に入ってもいい?」

「もちろん」

 二人はくすくす笑い合った。

「それじゃあ、女王様たち。上まで送ってあげるよ」クロは二人に背中を見せて言った。彼はハナとユキが乗り込むのを待ってから、地面を蹴って飛び上がり、塔を駆け昇る風に乗った。すぐに窓が見えてきて、クロは部屋の中に降り立ち、二人の女王を床に降ろした。

「お風呂の前に、やらなきゃいけないことがあるわ」ハナが言った。

 ユキはうなずき、爪先で軽く床を蹴った。すると、そこにぽかりと穴が空き、下からレバーの生えた台座がせり出してきた。レバーの根元には十字の溝があり、それぞれの端にピンクの花と、黄色い太陽と、赤いカエデと、白い雪の結晶の絵が描かれていた。レバーは雪の結晶に傾いていて、ハナはそれを掴むなり「えい」と言って、ピンクの花の方へ押し倒した。しかし、何も起こらず、クロは首を傾げて二人の女王を見つめた。

「これでもう、世界は春よ」ハナは胸を張って言った。

 クロはぽかんと口を開け、ハナを見つめてから言った。「こんなことで?」

「そうよ」ユキは言って、くすくす笑った。「びっくりした?」

「さあ、お風呂の準備をしましょう」ハナは言って、部屋の出口へ向かった。

「手伝うわ」ユキは小走りで、ハナの後を追い掛けた。

 クロは、二人の女王の背中を見送り、それから部屋の真ん中の台座を見て、なんとも拍子抜けした気分になった。しかし、彼は窓の外を見て、さっきまで遠くが霞むほど降りしきっていた雪が、ぴたりとやんでいることに気付いた。そうして見守るうちに、空を覆っていた分厚い灰色の雲にすき間ができて、金色の光が垂れ幕のようにするりと降りてきた。クロは、まだまだ冷たい空気を嗅ぎながら、たぶんハナの言ったことは本当なのだろうと思い始めた。


 うっすらと霞んだ空を飛びながら、クロは若草と花に覆われた地面を眺めていた。そこにはたくさんの生き物がいて、誰もが新しい季節を楽しんでいる様子だった。

「時々、不公平じゃないかって思うの」クロの背中の上でユキはつぶやいた。

「何が?」クロはたずねた。

「みんなハナの季節を喜んで、私の季節を嫌っている」

「みんな?」

「ええ」ユキはうなずいた。「みんなよ。私も、クララを殺した自分の季節が嫌いなの」

 二人はしばらく、黙って飛び続けた。そして、クロはふとたずねた。「どうしてハナが来る前に、塔から逃げ出さなかったの。彼女に責められるって、わかってたのに?」

 ユキは、ちょっとだけ考えてから答えた。「クララの側を離れたくなかったの。それに、私が逃げ出したりしたら、ハナは彼女が死んだ本当の理由を知らなくて、自分のせいだと思うかもしれないもの。そんなの間違ってるわ」

 クロはうなずいた。「でも、それは本当に勇気がいることだよ」

「そうね」ユキはため息をついた。「確かに私は、一生分の勇気を使い果たしたわ」

「ねえ」と、クロは言った。「みんなじゃないよ」

 ユキは首を傾げた。

「君はさっき、みんなが冬を嫌ってるって言ったけど、少なくとも南の島のツバメは、冬が大好きだよ」

「まあ」ユキは目を丸くした。「どうして?」

「だって僕たちは、本当はきつい渡りが大嫌いで、できることなら春なんかこなけりゃいいのにって思ってるんだ。それを知って、ハナはちょっと泣いてた」

「まあ」ユキはくすくす笑った。

「でも、僕はハナが好きだよ。もちろん、君もね」

「私も、あなたが大好きよ」ユキはクロの首をぎゅっと抱きしめて言った。

 それから二人は、大きな湖の上までやって来た。彼らは湖の岸沿いを飛び、白くて大きな鳥が一羽きりでいるのを見つけ、その近くに降り立った。

「あら、ツバメさん。なにかご用?」と、雌のハクチョウは言った。

「こんにちは、ハクチョウのお嬢さん。まだ、北へは渡らないの?」

「ええ」ハクチョウはうなずいた。「今は、ちょっと人を待ってるの」

「それなら出発するときに、彼女もついでに連れて行ってくれるかな?」

「彼女?」ハクチョウは首を傾げた。

 ユキはクロの背中から滑り降り、おずおずと前に出た。

「まあ」ハクチョウは、ユキを見て目を丸くした。「ひょっとして、あなたがユキ?」

 ユキはきょとんとして、思いがけず彼女の名を呼んだハクチョウを見つめた。「私を知っているの?」

「ええ」ハクチョウはうなずいた。「お父さんからあなたの事を教えてもらったの。本当に小さくて真っ白できれいなのね」

「あなたも、とてもきれいよ」ユキは笑顔で言った。

「ありがとう」ハクチョウは嬉しそうに言った。「私、あなたを待ってたのよ」

「どうして?」ユキは首を傾げた。

「ここへ来る前に、お父さんに頼まれたの。としを取った自分の渡りは、これで最後になるだろうから、お前が代わりにユキを、氷の島へ連れて帰ってくれって。ここで待ってれば会えると聞いてたけど、なかなか来てくれないから、ちょっと心配したわ」

 ユキは目を丸くし、両手で自分の口を被った。

「ねえ、よかったら、渡りの途中でお父さんの話を聞かせてくれる?」と、ハクチョウは言った。

「もちろん」ユキはうなずいた。赤い瞳には、涙が一粒光っていた。

「そう言うことなら、早く背中に乗って。さっそく出発しましょう?」

 ユキはハクチョウの背中によじ登り、振り返ってクロを見た。「ありがとう、クロ。あなたに会えて、本当によかった」

 クロはうなずいた。「僕もだよ」

 ハクチョウはクロに小さく会釈をすると、湖の真ん中あたりまで泳いで行って、それから大きな翼を広げた。彼女は羽ばたきながら水面を駆け、ぐんぐんスピードを上げてふわりと浮きあがり、ユキを乗せて北の空へ去って行った。

 クロは彼女たちを見送ってから、湖岸の地面を掘り返してミミズを何匹か捕まえると、くちばしにぶら下げて飛び立った。空っぽの背中を少し寂しく思いながら、クロは季節の塔の入口の前までやって来た。餌を催促する雛の鳴き声が聞こえ、彼は母親が掛けた巣の縁に立って、大きく開いた雛の口にミミズを詰め込んだ。間もなく、たくさんお羽虫をくわえた雌のツバメも飛んできて、雛たちにそれを与えた。彼女はクロを見て首を傾げた。「冬の女王様は、ちゃんと帰れたの?」

「うん」クロはうなずいた。「彼女の友だちだったハクチョウの、娘さんが待っててくれたんだ」

「よかった」雌ツバメはにっこり笑った。彼女は巣の中を覗き込んで言った。「春の女王様は、お別れしなくてよかったの?」

 すると、大口を開けてぴーぴー騒ぐ雛たちの間から、ハナが顔を出した。「どうせ、またすぐに会えるもの。お別れなんて言う必要はないでしょう?」

「それじゃあ、どうして泣いてるの?」雌ツバメは首を傾げてたずねた。

 ハナは手首で涙と鼻水を拭ってから、クロを見て口を尖らせた。「あなたの奥さんは、ちょっと意地悪だと思わない?」

「そんなことはないよ」クロは言って、つがいのツバメの頬を軽くついばみ、彼女の羽毛を繕った。「それより、ハナ。気付いてた?」

「何が?」ハナはきょとんと聞き返した。

「君の横にいる雛は、すごく翼が大きいんだ」

 クロが言うと、ハナは目を丸くして雛を見つめた。彼女はしばらくそうしてから、若草色の瞳を輝かせてクロ見た。「いつか、この子も私を乗せて飛んでくれるかしら?」

「きっと、そうなるよ」クロは請け合った。

「でも、そのためには、もっとたくさん虫を集めて来なきゃいけないわ。ほら、サボってないで働きましょう」雌ツバメは言って、巣からぱっと飛び立った。

「子育てって、大変なんだね。ゆっくりする暇もないや」クロはぼやいた。

「そうね」ハナは、クロの胸をぽんと叩いて言った。「でも、あなたなら大丈夫。きっと、なにもかもうまく行くわ」

 クロは何も答えなかったが、本当にそうなればいいなと思った。彼は、ハナの頭をついばみ、彼女の髪の毛を繕ってから、雛たちの餌を探しに飛び立った。その行く先にはたくさんのツバメたちが飛び交い、彼と同じように雛たちのための羽虫を集めていた。世界はもう、すっかり春だった。

ツバメは滑空する鳥なので、実はそんなに羽ばたいたりしません。また、ミズナギドリの渡りを、現実のツバメが知らないとは限りません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ