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メイディ-ブラッド  作者: 綾
第一章:前編『吸血鬼、再誕』
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05「十二の眼、赤い華」

 嘆願を忠告で返され思考がフリーズしたが、壁が吹き飛ぶという事態に瞬時に現実に戻る。

 カールが昔見たのと同じ魔物だと思う。しかし決定的に違っているのは、目の数が8つではなく12つになっていることだ。


「小さくなったような……?俺がでかくなっただけか?」

「カール君、君の感覚は間違ってないよ」


 40年前の緑狼〈グリーンウルフ〉は8つ目で体長が1.8メートルあった。それに対し今目の前の緑狼〈グリーンウルフ〉は12つ目で体長1.4メートルである。


 初めて緑狼を見たときは、2つ目で2.5メートルの巨体だった。それから3つ4つと目が増えていき、サイズも小さくなっていった。成長と言うには余りに突飛すぎる。突然変異か、メイディとしては何者かによって改良されているような精錬さが気になる所である。そもそも何故、不自然なまでに自然に草木に溶け込むことができるのか。その欺瞞能力の高さに興味を持ったメイディは緑狼を解剖したことがある。その結果、緑狼は葉緑体をその身に宿していることがわかった。欺瞞能力は、葉緑体を持つことによって、葉緑体を持つ植物の中に溶け込むことを可能にしているのである。

 そして厄介なのは欺瞞能力だけではない。

 狼はご存知のとおり肉食で、生物を食べることで活動エネルギーを取り入れている。では、葉緑体による光合成で得たエネルギーは何処で消費されるのか。


 緑狼の12の目が赤く光った。キイイと迸る閃光。一閃された場所が綺麗に切断されていく。


「な、やべえぞ!!?なんだあいつ!!」


 戦士達がレーザーの威力に後退り、散り散りに逃げていく。それを緑狼は逃がさない。目の動きに合わせてレーザーが戦士に追随していく。


「氷檻〈アイス-ケーフィッヒ〉」


「な!?マジックだと!」


 遂に追い付かれ、真っ二つにされそうなった戦士の前に冷気が走った。

 氷檻〈アイス-ケーフィッヒ〉は文字通り氷製の檻を出現させる魔法である。しかし檻というには隙間はなく、完全に半球に型どられた氷であった。薄さ1センチ、直径50センチの研磨された12個のそれらはまるで鏡のようであった。

 本来対象を閉じ込めるための檻は地面との接点を持たず、何故か浮遊しているのだ。向かってくるレーザーに対してそれぞれを上手く角度を合わせて反射させた。

 反転したレーザーは戦士を狙った緑狼の頭部を、見事に12本一点に貫き、一瞬で絶命させた。

 剣の技術といい、感情で大地を揺らす力技といい、見た目に反してその強大な力で捩じ伏せていくタイプかと思っていた戦士達は氷の緻密さと操作の精密さに驚きを隠せない。戦士としての素質も、魔法力も技能も十分に持ち合わせた幼子の中には、何かが棲んでいるのではないかと誰もが思った。

 メイディは、それで終わらせない。貫通したレーザーの到達点に氷檻を展開し、他の緑獣へ向けて反射させる。9体のうち、近くにいた2体は対応出来ずに頭部を破壊された絶命する。残りの7体はそれを避わすが、1体の回避先には突如老執事が現れた。老執事の様子が先ほどと変わっていた。右腕には黒い毛並み揃い、手の甲からは5本の30センチ程の爪が延びていた。爪は抵抗なく緑狼の首を切断した。


「申し訳ありません。数が多く、対処出来ませんでした」

「仕方ないわよ。あなた防御専門だもの。で、数はいくらだったの?」

「全部で32。22体は既に処分しました。それと今の4体で、残りはそこに見える6体です」


 兵士達には敵がどこにいるのか見えていなかった。壁が破壊された時には見えていたのだが、いつの間にか欺瞞によって見失っていた。


「集まって」


 展開されている24の氷檻が、1体の緑檻を取り囲む。舌足らずを、長年の経験によって克服したかのような撥音で言葉を紡ぐ。


「開いて」


 壁を破壊されたお陰で循環する空気から水分を補給することによって、檻はその体積を拡げていった。


「捕まえて、結べ」


 氷檻が取り囲んだ緑狼目掛けて一気に加速。互いをつなぎ止め一つの球体となってその中に緑狼を閉じ込めてしまった。


「一体確保。あとは殺す。一応、戦士どもへの攻撃は頼むわ」

「畏まりました」


 60のレーザーが殺到するが、当たれば致命的のそれは氷檻によって防ぐだけでなく攻撃へと転換する。緑狼の弱点はその耐久性にある。恐らく暗殺を目的に改良されたのだろう。隠密性を得るために小型化し、行動の柔軟性を持たせるために防御を捨てた。大抵の対象はレーザーで全て片がつくが、それ以外の点では戦闘において全体的にマイナス気味のステータスだ。そう考えられるのはメイディだからであり、人間にとってみれば狼としての俊敏さも顎も脅威足り得るのだが。


 反射、反射、反射。

 60のレーザーに対して更に顕現させて60になった氷檻によってレーザーの檻を作成して5体とも閉じ込めてしまった。それは氷と光の芸術と謳って申し分無いくらい美しいものだった。しかし美しいものと言えど、物は等しく劣化する。鏡と化した氷檻の角度が一度変われば、それは残虐の嵐となり、5つの赤い花を咲かせた。


「で、さっきの話だけれど……良いかしら?」

「我が主よ。彼らには少し荷が重すぎたのでは」


 狼の肉塊と、レーザーによる肉の焼けた独特な臭いが鼻をつく。壁がないおかげで、まだマシだった。

 明らかに異形な生物であるため、堪えることが出来ているが、これが人であれば確実に嘔吐していただろう。濃厚な死の匂いが充満していた。

 この狼モドキがどれくらい強いのか、熊のバケモノとどちらが強いのか判別がつく前に全てが終わったという事実に、自分たちが怯えていた合間に終わっているという現状に、戦士達は皆理解が追い付いていなかった。追い付こうともしなかった。時が少し経って、これはこういうものなんだと受け入れ始めたとき、痺れを切らしたメイディが続きを始めた。


「熊のバケモノだかなんだか知らないけど、こっちにメリットはあるの?」

「メリットは、こちらから破ってしまって……というところですが」


 カールは懐から書簡を取り出す。薄い金属製のケースから取り出したのは4つ折の洋紙だ。そこでは、カールからメイディの話を聞き急いで用意された一筆が、救難の依頼状として効力が発揮されることが述べられその報酬として次の一点が提示されていた。


 グレンダ街との不干渉締結を解除する。


 不干渉が締結された原因はメイディの父、テンペストにある。街に大型の魔物が出現した際に、処分するために放った魔法が魔物の防御力を完全にオーバーしてしまい、その衝撃によって街の十分の一が消滅した。付近の住民は避難していたため幸いにも怪我人も出なかったが、これを機にブラッド家の出入りが禁止されたわけである。それがおよそ200年前の話である。


 メイディとして出入り禁止というのは面白くない話である。黒の館には娯楽と言えば本やボードゲームくらいだ。他にやることと言えば剣術を研いたり、魔法の訓練をしたり。正直飽きて面白くない。平野錬次をコックとして雇ってから飯が格段に美味しくなったので、それが唯一の楽しみと言っても良いくらい。


 故にメリットはあった。新しければ、なんでもいい。新鮮さが欲しい、黒の館という世界に1世紀近く居るのだ。もう、飛び出しても良いだろう。


「正直、もっと便宜が図られてもいい気がするけど、まあいい」

「それでは……!」

「バケモノを、ぶち殺してやるよ」


 夜空の下の真っ赤な華をバックに、口を三日月に歪める。新しい世界に、花を添えに行こう。真っ赤な真っ赤な、血の華を。


魔法出てきました。

ファンタジーです。一応、ファンタジーと、もう一個大枠としてジャンルを定めてます。次回明らかになるかも……?


明日もお休みです。明後日に投稿予定です。

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