prologue01 黒の館
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タイトルを変えました。epilogue→prologue
始まりと終わりを間違えるなんて恥ずかしすぎますね!
今日は月が隠れている。空も大地も暗闇が支配していた。
30歳前後を中心とした20人の男の集団が、広大な庭の前で密やかに行動していた。 背の低い草が、彼らが踏みしめる度にササッと音をたてる。
彼らの目的地は庭の最奥に聳える黒塗りの館だ。夜の闇に紛れるようにして建つ館は吸血鬼の根城だと噂され、伝承によれば、かつて男達の住む街を建てたのも、そして支配していたのもその吸血鬼であるらしかった。
庭へ入るには、鉄柵に掛けられた錠前を破壊しなければならない。一人がソードで切りつけるが、錠前はしっかりとその役目を果たしており、ソードの刃が削れていくだけだった。
仕方なく腰に提げた銃を取りだし、錠前を破壊した。
銃は貴重なものだ。
誰が開発したのか、出所も分からないがあまり生産が追いついていない。街の兵士すべてに行き渡るような数は、少なくともない。
発砲音と、金属同士が発生させる音が一体の獣を目覚めさせる。その目は最奥の扉の隙間から、遠くの侵入者を捉えていた。
そんなことは知らず、集団は庭へと侵入する。目的は、この庭の中心にある城に住むバケモノを殺すことだ。
敷地内に入った途端、空気が変わったのが分かった。
決して重苦しくなったわけではない。むしろクリーンになったような。そう、開放感だ。そう彼らは思っただろう。それはあながち間違いではない。確かに綺麗になったのだ。"見やすいように"だが。
獣は集団の装備を見て、敵対的であると判断する。そのちんけなソード達が、自分の敵足り得るかは別として。浸入したものは排除する、それは従者として当たり前のことだ。
「趣味の悪い像だ」
「静かに。少しでも音を立てるな」
弓を持った像、剣を持った像、盾を持った像。
7体にも及ぶ、厳つい装備を纏った者を型どった像が10m置きに点在していた。所々錆びているようだが、そのどれも館同様に黒色をしていた。
その隙間を縫って、佇むそれらに隠れながら、鉄扉へと近づいていく。
一人が鉄扉の直ぐ前まで来るとゆっくりと手を伸ばす。
開くはずはないと思いながらも力をこめると、扉が開き始めた。
鍵を掛けていないなんて無用心だぜ、なんて思っているのだろうがそんなもの必要ないだけだ。何故なら扉の先には私がいるからだ。
「ガアルルル……」
「なんか居るぞ!!?」
人間の鼓膜は弱いから徐々に音を上げてやる。壊れる所で止めるのがコツだ。
「グルアアアアアアアア!!!」
「ッぐあ!耳、がア!?」
突然の聴覚への攻撃にとっさに耳を塞ごうとするが、頭部を守るヘルムが邪魔をして塞ぐことができない。体を仰け反らせ、少しでも逃れようと試みるも、次第に弱々しく、遂に地面へどさりと倒れ付した。
人間全員を行動不能にしたあと、扉の奥から出てきたのは黒い毛並みの狼だ。その四肢は逞しく、人程度であれば容易に殺すことが出来るだろう。
人間を殺さないのには、彼らに用があるからだ。人間側から持ちかけてきた不干渉の協定を破り、ここに侵入した落とし前をどうつけさせようか。
黒い狼としては、今すぐに喉元をを噛み千切ってやりたいところだが、それを決めるのは主だ。
黒い狼は使い魔を呼んで主の所へ連れていくよう指示を飛ばす。戦闘特化のワーフルフは、誇り高き戦士だ。彼らを使い魔として使役する黒狼の実力は相当なものと考えられる。
月は厚い雲に覆われ、暗闇が支配する世界で、狼の姿が突如揺らぎ、老執事へと姿を変えた。
今夜は月が見えない。月は怖いやつだ。なので見えないのは嬉しいこと。そのまま消えたままでいてくれたら、良いのだが。
灰色の先にあるだろう月を睨み付け、考えてもしょうがないと鉄扉を閉めた。
再び庭に静寂が訪れる。
鉄扉の鍵は閉められないまま、黒い影が、そこに張り付いていた。