迷路化
2話目です。
転移後、ようやく聖也が動き始めます。
それでは本編です。
「そんなに驚くことか…まあ適当にどこかに行きゃ何かしらつかめるさ。せいぜいがんばれよ」
本意なのかは分からないが、この世界に来て初めて出会った人は割といい人だったのかもしれない。
だが聖也に、そんなことを考えている余裕など微塵もなかった。
そもそも自分は死んでいるはずである。
その自分が今当たり前のように人としゃべっていた。
この事実だけでも混乱は加速していく。
(とりあえずどこか施設を……あぁでもどこに行きゃいいんだ)
当然聖也に此処の世界の諸情報などありはしない。
世界というか、街というか、とにかくヨーロッパ風の街並みが広がっていることだけは分かる。
でもどういう経緯でここに来たのかということははっきりしていない。
(止まってても仕方ないか……)
聖也は当てもなくとりあえず歩き出した。
冷静な状況なら、ここで人に何か情報を聞き出すぐらいのことができてもおかしくない。
だが、今の聖也は混乱状態である。
とにかく何か目立つ建物を見つけることしか頭にない。
まっすぐ歩き、時に角を曲がり、どこに向かっているかも分からないまま時間だけが過ぎていく。
そして
「…………どこだよ此処」
大方の予想通り、聖也は道に迷っていた。
いや、正式に言えば「行き場を失った」という方が正しいか。
本日2度目の「ここどこ」である。
いや、もっと言えばほんの2時間程度で2回だから一日換算すると…
(ヤバいぞ、一日24回もここどこ発言してるとか変人じゃんか。)
迷いすぎた分、こんなしょうもないことを考え付くぐらいには、聖也も余裕を取り戻しつつあった。
(大体なんなんだよこの街、都会っぽい街並みなのに役場みたいなとこねぇのか)
少々歩き疲れた聖也は一旦路地の石段に腰を下ろす。
そして精神的に余裕が戻ってきたところで、今までの状況を整理することにした。
(まず、なんで俺がここにいるか……だよな。自分から身を投げたはずなのになぜか生きていて、当たり前のように体も動く。そんで、この世界に入ってからも普通に喋れて痛みも感じる……か。)
一通りこれまでの事象を挙げて考える聖也。
そしてこのようなことが現実存在していたのかを考える。
(これまで死んだ後こんな異世界っぽいところに来るっていうのって、あくまでアニメとかの話としか思ってなかったんだけど………… いや、そんな訳ない。そんなアニメみたいなこと現実で起こるはずない)
今一瞬、そういうことが起こってたら「俺主人公じゃね!?」という妄想が立ってしまった自分に少し呆れる聖也。
だが、異世界転移なるものが本当に存在するとしたら……
聖也は次にこの世界の諸事情を考える。
(まず、俺の話し言葉が相手に理解されてるってことは、公用語は日本語ってことになんのか…… なんかこう変な言語とかも今のところ見てねぇしな。後は服装、あっ、そういえば俺制服のままだったのか。でも他の人も俗にいう洋服って感じの服装ばっかだし、そんなに問題ないか。ん? 待てよ、制服ってことは、現世と同じ状態ってことだよな? ということは…… スマホ!!!)
思わぬところから非常に重要なことを思い出す。
慌ててポケットに手を突っ込みスマホを取り出す。
(頼む! 動けよ!? これ動かなかったら俺キツいよ!?)
震える指でボタンを押す。その結果は……
(動くけど繋がらねぇぇぇぇぇ!!!!!)
第一どこの街かも分からないところだから覚悟はしていたが、今時ネットに繋がらないスマホとはどうなのか。
スマホの存在意義の半分以上がここで失われた気がする。
しかも絶賛迷走中の聖也にとってはそれも含めたダブルパンチであった。
(ヤバい……まじヤバい……俺この世界でやっていけんの?)
もうこの世界で生きていくということをある程度受け入れ気味であった聖也。
この二つの事実は聖也のお先を真っ暗にするには十分すぎた。
何か真剣に考えることがばかばかしくなる。
(もういいや…… それよりちょっと疲れた……)
長時間歩き、色々なことを考え続け、そろそろ疲れも溜まってきていた。
しびれを切らした聖也は、石段の上で横になり、眠り始めた。
目が覚めると、夕暮れ時であった。
聖也はゆっくりと身体を起こす。
夢も見られないほどの爆睡であった。
スマホの時計を見ると4時30分。
(そうか、自殺を決行してからもうそんなに時間が経ったのか…… 俺、何でこんなことしてんだろ?)
少し自暴自棄になりかけている聖也。
この世界に来てから散々だ。
まったくいいことがない。
大体来たくもなかったのに……
だが、もうあまりネガティブになっていてもしょうがない。
何か面白いことを考えることにしよう。
(そもそももうこれって異世界転移ってことで確定だよな。こんなにはっきりしてる夢もそうそうないし、何より感覚がはっきりしすぎてる。ということは…… そうだ! もう俺はアニメの主人公になってるんだ! ここからははしたない真似はできないな…… それはそれでプレッシャーだけど、受け入れなくちゃな。俺はそんな重大な役回りに選ばれたんだから。俺も生きてて17年、いや、17歳で終わってるからそうは言わないのか…… そんなことどうでもいい! いよいよ俺も日の目を浴びる時が来たのか……! この先どんな風にかっこいいヒーローになるんだろう? あぁ、なんか楽しみになってきたぞ!)
もはや何を考えているのか分からない。
それはそんな妄想を働かせている聖也が一番強く感じていた。
だがもう失うものなんかない。
妄想はさらに加速する。
(主人公ってことは、なんかすんごい能力とか持ってて、なおかつイケメンで運動神経抜群で…… 現実世界の俺よりも完全にスペック高ぇんだろうな……! それに、いつかかわいいヒロインが突然現れて、毎日のように陰で『リア充爆発しろ』って言ってた現実世界の俺の真逆になるんだろうな……! ほら、こういう物陰で一人たたずんでる俺を誰かが見つけて、それから……)
「何一人でにやけてんのアンタ……」
「って、ホントに来たァァァァァ!!??」
とはいったものの、突然現れたこの女性が何者なのか、聖也は分かる訳もなかった。
お読みいただきありがとうございます。
やっとメインキャラ一人目が登場です。
不定期更新ですが、頑張って書いていきたいと思っています。
それでは以下次回。