行きつく先は……
初めまして。
今回が小説初投稿になります、岸田維月と申します。
全てが初めてということもあり、至らぬ部分も多々あると思いますが、
よろしくお願いします。
それでは本編です。
未来って何だろう?
希望って何だろう?
ポジティブな妄想で使われるこの二つの言葉。
未来…希望…
そんな言葉、俺の辞書には載っていない。
希望も未来もない、そんな中で生きる者に、こんなものは必要ない……
スマホのアラームが鳴る1時間前の午前6時。
一人の少年は布団の中でそんなことを考えていた。
午前7時、アラームがけたたましく鳴り響く。
明るすぎるぐらいの朝日が窓から差し込む。
無人にもかかわらず誰かにたたき起こされるように、新谷聖也は体を起こした。
リビングから香る香ばしいパンの匂い。
順風満帆の男子高校生が迎えるような、
幸せにあふれた朝だ。
この少年が持っている、重大な決意以外は……
『次です。昨日午後4時過ぎ、海城大橋で女子高生の遺体が流れているとの通報があり、
警察が現場に駆け付けたところ、一人の女性の遺体が発見されました。
警察は、この女性が自殺を図ったものとみて、調べています』
(奇遇だな)
朝食の食パンを口に放り込みながら、聖也はそんなことを思う。
いつもと変わらない朝だが、こんなことを考えることになろうとは。
彼が抱えている重大な決意を知る者は、この空間には聖也本人以外誰もいない。
もちろん聖也が、今日を最後の朝だと確信していることも……
「行ってくる」
いつもと変わらない出発の言葉。
笑顔で見送ってくれる母。
この光景も今日が見納めか。
どれだけ幸せな光景を見ても、聖也の決意が変わることはなかった。
(俺の行く場所は、高校じゃない)
いつもは右に曲がる角を、今日はまっすぐ突き進む。
目の前には森林が広がり、二つの崖の間には流れの早い川が流れる。
彼が向っていたのは、普通の人間は足を運ばない場所。
高くそびえるダムだった。
(俺はここで、俺を終わらせるんだ。もうこんな人生を送るのは耐えられない。何がいつか幸せになれるだ。そんなもの来るわけないんだよ。そうだ、もうあの頃から、俺は終わっていたんだ……)
彼の決意は、次第に固いものとなっていく。
自転車を降り、ダムの通路を歩く。
歩きながら、過去の自分のことを思い出す。
どれだけ思い出を引っ張り出しても、泣きたい思い出しか出てくることはなかった。
もうここは俺の居場所じゃない。
その言葉が、彼の歩みを一層速く、そして強くしていった。
回想すること1分、ついに聖也は通路の中間部分にたどり着いた。
「さて、この世ともここでお別れか。かれこれ17年間、普通の人からは短い人生って笑われるんだろうな…… でもこれ以上あんな思いをすることを考えたら、今死んだほうがマシだよな」
おそらく人間が本当に追い込まれると、このような言葉が自然に出てくるのだろう。それほど聖也の心は病みきっていたのだ。
過去味わい続けた数々の辛い経験、もちろん自分から作ってしまった原因もあるが、それを差し引いてももう逃げ場がなくなっていた。
もう俺は迷わない。ここで自分を終わらせる。
そして、聖也は人生最後の決心をする……
「さよなら、この世」
そう言い残し、聖也は高い柵を飛び越えた。
どれくらい経っただろう。
目を閉じ、そして口を開かず、何も感じない感覚もあり、聖也は完全に死を受け入れていた。
(ようやく辛さから解放された。今は死んだという喪失感よりも、その喜びのほうが大きくなっている。俺も変わった人間だなぁ。
この楽な感覚…… そうか、とうとう俺も死んだんだな。何も感じない。痛さも、辛さも、何よりも、ずっと肩にのしかかっていた重たい過去も……)
聖也はこの感覚を「天国の感覚」と勝手に名付けていた。
(さて、まだ目を開けてなかったな。一体天国とやらはどんな世界なんだろうか。新しい発見も、現世でありもしなかった希望も、全てがここにはあるんだろう。早く見たい! 美しい天国の姿を……)
……と思っていたのもほんのつかの間だった。
「何こんなところで突っ立ってんだよ!」
怒鳴られて聖也は自分の希望よりも先に目を開けた。
そこに写っていたのは……
「え……どこ? ここ……」
「はぁ? お前頭大丈夫かよ? ここに突っ立って何言いだすかと思ったら『ここどこ?』って…… 夢でも見てたんじゃねぇのか?」
自分の意識に反して、野太い男性の声が耳に入り込んでくる。
まだ聖也は現状を理解できずにいた。
大体自分は死んだはずである。あの高いダムの通路から飛び降りて、確実に死んでいるはずである。なのに……
まず人が歩いている。それはもう数え切れないほど。
そして建物が並んでいる。これもまあ数多く。
そして極めつけは……
「なんか言えよ!」
「痛って! ……ってマジかよ!? 天国って痛み感じんの!?」
「いや、普通ビンタ食らえば痛いだろ。 しかもなんだ天国って? ここは天国でも何でもねぇよ」
「………………は? はァァァァァ!!!???」
天国に来た。ついに来た。
そこに待っていたのは、地図に載らない、図鑑にも載らない、
誰も知らない、異世界様だった。
お読みいただき、ありがとうございます。
この作品は、自分がふとひらめいたシナリオを形にしたものです。
まだ経験もなく、文才があるわけでもありませんが、投稿を続けていきたいと思っています。
不定期更新になると思いますので、ご了承のほどを。
それでは、次回に続きます。