8
「はーい、撮りますねー」
ライトに照らされ、スタッフの声とともにフラッシュが焚かれた。
「花嫁さん、もうちょっと顎引いて頂けます?」
花嫁さんと呼ばれて、隣の笠原がたじろいた様子を見せる。
それでもスタッフの指示には従ったようで、笠原が顔を動かすとスタッフは頷いて再びカメラに目を戻した。
──実を言うと、フォトスタジオには数日前からちゃんと予約を取っていたのである。
何故って。
どうしても、笠原の白無垢姿が見たかったからだ。
「うん、綺麗綺麗。お2人共素敵ですよー!」
「花嫁さん笑ってー、とってもお綺麗です」
「花婿さんやっぱカッコいいわね〜おばちゃん惚れちゃうわぁ〜」
周りで見守っていたスタッフたちもキャッキャと口々に褒めちぎる。
まぁ、当然だ。
この俺達が騒がれない訳はない。
池上は月刊「プア」でもレギュラー出場しているので、撮影は慣れたものだ。
自信に満ちた表情でカメラを見つめていたが、ふと気になって隣の花嫁を見下ろした。
綿帽子の下から覗く、笠原の美しい顔立ち。
赤く煌めくシャドウを目元に乗せ、唇にははっきりと鮮やかな紅を差している。
真っ白な着物と、真っ白な肌。
その中で艶やかに主張する赤は、鮮烈な存在感を発揮していて、思わず目を惹きつけられる。
最早立ち姿だけでも美しい彼には、神秘的で何処か幻じみた雰囲気すら漂っていて、このまま和風な幻想映画に登場してもらいたいくらいだ。
石灯籠の灯りにぼんやり照らされた、玉砂利の敷かれた道に花嫁行列で出てきたら絶対一目惚れする。
……いや、映画と言わず実際に式挙げたらいいんじゃないか俺。
そこで池上の脳内の、雷ごとく言葉が閃いた。
そうだ、式を挙げてしまおう……!
彼のことは、何としてでも嫁にするつもりなのだから。
池上家に掛かれば容易いことである。
白無垢はこちらで豪奢なものを仕立てて、撮影隊も呼んで、鎮守の森に佇む立派な神社の境内を練り歩くのだ。
いっそのこと十二単にしたっていい。
俺天才だな、そうだそうしよう!
丸で天啓を受けたような様子でウンウンと一人頷いているが、きっと聞いた本人からは間髪入れずぶん殴られるだけの思いつきである。
「笠原」
スタッフが撮った写真を傍のパソコンで確認している間に、池上は彼に声を掛ける。
しかし、返事が無い。
「おい」
更に呼び掛けると、ふいと他所にそっぽ向かれてしまった。
あ、今の可愛い。
「ありがとうございましたー」
「花嫁さん、次の衣装もありますのでお部屋に戻りましょうね〜」
「……えっ!?」
やっと帰れるものだと思っていた笠原は、疲れ気味に驚きの表情を浮かべた。
まだまだ撮影は終わらない。




