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昼頃になって、大型ショッピングモールへ着いた一行。
やはり執事は留守番をして、2人はエレベーター傍に設けられた案内パネルを見ていた。
「どれがいい?」
マップのパネルの隣には料理の写真がずらりと並んだ、飲食店専用の案内パネルがある。
一通り目を通した笠原は、池上を見上げた。
「アンタは?」
「お前が食べたい物でいい」
笠原のために連れてきたのだから、当然そうなる。
けれど、それでは困るのが笠原だ。
その辺りは他人に合わせる方なので、いざ自分に主権を委ねられると戸惑うのだ。
「いや、アンタが連れて来てくれたのだから」
「………」
「………」
池上が答えなくなった。
こうなれば頑として譲らないのは、今朝の車内で経験済みである。
池上が何を好きなのかも分からない。
そんな中で笠原はしばらく悩んだ。
じっくりパネルを眺めて、それから遠慮がちにとある店を指差した。
──────
「お待たせしました、豚の生姜焼き定食ですどうぞー」
池上の前に、黒い盆の定食セットが運ばれてきた。
普段洋食が多い池上にとっては、余り馴染みの無いメニューだ。
笠原が選んだ店は、和定食の店だった。
笠原の前には、既に焼きサンマ定食が置かれている。
「いただきます」
「……いただきます」
笠原はきちんと手を合わせた。
池上もそれに倣って言ってから、箸に手をつけた。
そういう所が、いい。
笠原は味噌汁を一口啜ってから、サンマに箸を入れる。
池上が食べながら眺めていると、彼の箸はみるみるサンマを半分に開き、上側の身を食べやすい大きさに解して口に運ぶ。
皿に小さな身の屑が出てこない。
その内、骨も上手に外すと、箸で器用に半分に折って皿の隅に寄せた。
「魚の食べ方が綺麗だな」
思わず口を突いて出た言葉だった。
笠原がきょとんと顔を上げた。
「食べ方……?」
「ああ」
魚の食べ方で、育ちが分かるものだと親に言われたことがある。
池上もそれを受けて、小さな頃から魚の食べ方には気を遣ったものだが、笠原のは見ていて気持ちが良いくらい綺麗だ。
笠原は自分の皿に目を戻すと、何か考え込む様子を見せる。
「……タエさんには、」
「タエさん?」
「あ、いや……俺を育ててくれた人なのだが」
つい言ってしまったようだった。
聞き返すと、笠原はハッとした様子で言い直した。
池上もそこまで聞いて、こっそり調べていたことを思い出す。
確か血の繋がっていない、遠い親戚だとか。
「食べながら解剖の勉強をなさい、と言われていた」
「解剖?」
笠原は頷いて、箸で魚の身をこれまた綺麗に割った。
「魚によって、綺麗に身を割れる場所が違うし、骨の多さも太さも違うだろう?小さい頃はその違いが面白くて、魚の名前と一緒に覚えていた」
「なるほど。本当に勉強が好きなんだな」
「勉強が好き、というか……生活の中で知るというのが、好きなのだと思う」
なんというか、答えの1つ1つが素朴だ。
これだけ人目を惹く容姿をしているのに、本当に少しも華やかな場に身を置いたことが無いのだろう。
池上とは丸で対照的な所で生きている。
「魚は、余り食べないか?」
笠原が聞いてきた。
池上が生姜焼き定食を選んだからだろう。
「魚は……そうだな、余り食わん」
「身体に良いものが多いから、なるべく食べた方が良いぞ」
「ふむ」
「頭も良くなる」
「そうなのか」
「と、タエさんが言っていた。俺も詳しくは知らなんだ」
笠原はそう言って、ちょっと微笑んだ。
なっ……!?
多分、初めて笑って貰った。
不意打ちを食らった池上は顔を真っ赤にして、バッと顔を逸らした。




