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6

昼頃になって、大型ショッピングモールへ着いた一行。

やはり執事は留守番をして、2人はエレベーター傍に設けられた案内パネルを見ていた。


「どれがいい?」


マップのパネルの隣には料理の写真がずらりと並んだ、飲食店専用の案内パネルがある。

一通り目を通した笠原は、池上を見上げた。


「アンタは?」

「お前が食べたい物でいい」


笠原のために連れてきたのだから、当然そうなる。

けれど、それでは困るのが笠原だ。

その辺りは他人に合わせる方なので、いざ自分に主権を委ねられると戸惑うのだ。


「いや、アンタが連れて来てくれたのだから」

「………」

「………」


池上が答えなくなった。

こうなれば頑として譲らないのは、今朝の車内で経験済みである。

池上が何を好きなのかも分からない。

そんな中で笠原はしばらく悩んだ。

じっくりパネルを眺めて、それから遠慮がちにとある店を指差した。



──────



「お待たせしました、豚の生姜焼き定食ですどうぞー」


池上の前に、黒い盆の定食セットが運ばれてきた。

普段洋食が多い池上にとっては、余り馴染みの無いメニューだ。

笠原が選んだ店は、和定食の店だった。

笠原の前には、既に焼きサンマ定食が置かれている。


「いただきます」

「……いただきます」


笠原はきちんと手を合わせた。

池上もそれに倣って言ってから、箸に手をつけた。

そういう所が、いい。

笠原は味噌汁を一口啜ってから、サンマに箸を入れる。

池上が食べながら眺めていると、彼の箸はみるみるサンマを半分に開き、上側の身を食べやすい大きさに解して口に運ぶ。

皿に小さな身の屑が出てこない。

その内、骨も上手に外すと、箸で器用に半分に折って皿の隅に寄せた。


「魚の食べ方が綺麗だな」


思わず口を突いて出た言葉だった。

笠原がきょとんと顔を上げた。


「食べ方……?」

「ああ」


魚の食べ方で、育ちが分かるものだと親に言われたことがある。

池上もそれを受けて、小さな頃から魚の食べ方には気を遣ったものだが、笠原のは見ていて気持ちが良いくらい綺麗だ。

笠原は自分の皿に目を戻すと、何か考え込む様子を見せる。


「……タエさんには、」

「タエさん?」

「あ、いや……俺を育ててくれた人なのだが」


つい言ってしまったようだった。

聞き返すと、笠原はハッとした様子で言い直した。

池上もそこまで聞いて、こっそり調べていたことを思い出す。

確か血の繋がっていない、遠い親戚だとか。


「食べながら解剖の勉強をなさい、と言われていた」

「解剖?」


笠原は頷いて、箸で魚の身をこれまた綺麗に割った。


「魚によって、綺麗に身を割れる場所が違うし、骨の多さも太さも違うだろう?小さい頃はその違いが面白くて、魚の名前と一緒に覚えていた」

「なるほど。本当に勉強が好きなんだな」

「勉強が好き、というか……生活の中で知るというのが、好きなのだと思う」


なんというか、答えの1つ1つが素朴だ。

これだけ人目を惹く容姿をしているのに、本当に少しも華やかな場に身を置いたことが無いのだろう。

池上とは丸で対照的な所で生きている。


「魚は、余り食べないか?」


笠原が聞いてきた。

池上が生姜焼き定食を選んだからだろう。


「魚は……そうだな、余り食わん」

「身体に良いものが多いから、なるべく食べた方が良いぞ」

「ふむ」

「頭も良くなる」

「そうなのか」

「と、タエさんが言っていた。俺も詳しくは知らなんだ」


笠原はそう言って、ちょっと微笑んだ。

なっ……!?

多分、初めて笑って貰った。

不意打ちを食らった池上は顔を真っ赤にして、バッと顔を逸らした。

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