2
「おはようございます」
戸口に立っていたのはスーツ姿の、やはり若い男だった。
整った顔立ちに爽やかな笑みを浮かべ一礼するや、「ささ、こちらへ」と執事(仮)は笠原を外へ出るように促した。
家の前には、黒塗りの車が停まっていた。
窓やドアのラインが銀縁で、傷一つない重厚な雰囲気の漂うそれは、見るからに高級車という感じで。
……そういえば、以前明崎が「あ、これ高いねんで!知ってる?社長さんとか乗ってるやつやで」と言っていたのは、この車種ではなかっただろうか。
気圧されている内に、執事(仮)によって後部座席のドアが開く。
──席のど真ん中には、仏頂面の池上が座っていた。
「……おはよう」
とりあえず、声を掛けてみる。
「……ん」
返ってきた返事はそれだけだった。
……一体何しに来たのだ。
笠原は少し身を乗り出して聞く。
「それで用、って……!?」
何故か、手首を掴まれた。
何が起きているのか分からぬ内に、あっという間に車内へ引きずりこまれ、気付くと笠原は座席に倒れ込んでいた。
バタンッ
えっ……!?
背後のドアが閉められた。
振り返り、急いで起き上がろうとする。
「待っ、何して、」
けれど池上がまだ笠原の手首を捕らえていて、思うように動けない。
振りほどこうともがいたが、その間にも運転席へ乗り込んだ執事(仮)がエンジンを起動させてしまった。
「あ……」
車が、動き出した。
ゆっくり流れ始めた窓の景色。
……何故?
笠原は呆然と、今の事態を眺めるしかなかった。
──────
話し声が聞こえる。
目を覚ました明崎の耳に入ったのは、笠原の声と、誰か知らない男の声。
引き戸の開く音が遠く響いた。
………?
むくりと起き上がった明崎は、寝ぼけ眼のまま部屋から出てくる。
居間のテーブルには、手紙が広げられたままだ。
それらを一瞥して、ふらふらと玄関へ向かう。
玄関の引き戸は開けっ放しだ……と思ったら、閉められた。
何で外出たんやろ。
後を追って、明崎も引き戸を開ける。
と。
家の前に、何だか高級そうな黒い車が停まっているではないか。
……ん?待って。
あれ池上会長んトコの車ちゃうん。
笠原はスーツの人に付き添われ、開けられた後部座席を覗き込んでいる。
「それで用って……」
と言った笠原のその身体が、突如として車内の池上に引きずりこまれた。
「えっ」
一気に明崎の眠気が覚めた。
うっそマジで!!?
しかし動こうとした時にはもう遅く、スーツの人は後部座席のドアを閉め、自分もさっさと運転席に乗って行ってしまった。
えーー…………
そのまま見送ることになってしまった。
その後、我に返り慌てて自室へ戻った明崎は、スマホを手に取った。
『プリーズテルミー 事情説明!』
メッセージを送って、すぐに須藤を起こしに行った。




