池上会長が頑張ってみた
真っ黒屋敷に帰還してから1週間。
思ったより、日常に戻るのは早かった。
笠原はいつものように、朝は6時に目を覚ました。
きちんと布団を畳み、身支度を整え、洗濯機を回す。
その間に、朝食を作った。
──久々に真っ黒屋敷に帰った時は、既に須藤が帰って来ていて、「おう、久しぶり」と居間で寝転がりながらテレビを見ていた。
「焼けた?」
「そりゃあお前、遊び盛りの弟が2人居んだぞ」
カリリ、とソーダ味のアイスキャンディーを齧っていた須藤は、確かに以前と比べて肌が浅黒く焼けていた。
とはいえ、この後外出する予定が入らない限り、しばらくはクーラー漬けの日々を満喫したいのだという。
そんな須藤も……それから明崎も、今はまだ眠っている。
霧ケ原も3、4日後に帰ってくるらしい。
ジューッ……とフライパンで、ハムエッグを3人分焼く。
隣のコンロでは玉ねぎスープがふつふつと煮立とうとしていた。
笠原はその隙に、冷蔵庫からサラダ用のレタスを取り出した。
最初ほぼ空に近かった冷蔵庫も、翌日から笠原が買い足しているので充実している。
あの2人のことだから、10時過ぎにならないと起きてこないだろう。
朝食は一人で済ませた。
掃除機は騒がしいので、明崎達が起きてから掛けるつもりである。
だから洗濯物を干してしまえば……後は大してやることがない。
……手紙を書こうか。
外で眩しい陽射しを受けながら、笠原は思い立った。
洗濯籠を持って帰り、早速自分の部屋から手紙セットを一式、居間に持ってくる。
便箋を広げて、筆ペンのキャップを外す。
久し振りに、タエさんへ手紙を書こう。
錦野さんにも。
沢山書きたいことがあった。
……けれど文にしたためようとしたその時、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
こんな早い時間に、宅急便だろうか。
「はい」
返事をして立ち上がる。
時刻は9時過ぎ。
何も予定は聞いていないが、深くは考えずに玄関の引き戸の前に立った。
「どちら様ですか?」
「朝早く失礼致します。笠原様は御在宅でいらっしゃいますでしょうか?」
若い男の声だった。
え。
笠原は驚いて固まった。
まさかそんな丁寧な言葉が返ってきて、しかも自分に用があるとは思わなかった。
「笠原は、俺ですが……」
一体誰だろう。
失礼ながら、相手のことは全く覚えがない。
「池上様が貴方様にお会いされたいとのことでして……どうぞ、こちらを開けては頂けませんか?」
池上……池上?
その名前で知り合いといえば……池上会長ぐらいである。
確か池上は、何処ぞの御曹司だと聞いている。
ということは、この物腰柔らかな口調の人は池上家の執事とか、そんな感じなのだろうか。
……普通にあり得ると思えるから凄い。
笠原はひとまず執事(仮)の言葉に従い、引き戸を開けた。




