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神秘的に照らし出された浮御堂を通り過ぎて、橋を越え、その先の幅の広い階段を上がった。
岸に沿うように伸び上がった階段からは池が見下ろせる。
けれど今は見る気になれず、人の波に押されるようにして、歩いた。
俯いて一段一段過過ぎていく階段を見ている内に、気づけば池も見えなくなって、桜と梅の木が辺りに幾本も植えられた場所へやって来た。
広い芝生が広がっているし、道も3つに別れている。
芝生にはぽつぽつと、あの灯籠が置かれていた。
少し先には、竹で鞠のように編まれた灯籠のオブジェが幾つも見える。
人々は個々に散っていき、明崎たちが歩く道は、人がまばらになった。
ここも会場の1つであったが、2人は黙々とその中を突っ切っていった。
誰かの楽しそうな笑い声が、遠く聞こえる。
周囲の人は誰もが笑顔で。
美しい灯籠の世界を次々に渡り歩く。
そんな中で自分たちは、灯りに見向きもせず、ただ歩いている。
優しいぬくもりを伴った光が、辺り一帯に満ちているのに。
2人の纏う空気は冷たくて、無数の小さなトゲを内包しているようだった。
歩く度に痛くなった。
時間が経つごとに、傷は抉られて広がった。
やがて春日大社の一の鳥居に続く参道に差し掛かり、ずらりと犇めく煌びやかな屋台通りを抜ける。
興福寺の傍の道まで来る頃には、再び静けさが戻っていた。
更にしばらく歩いて、猿沢池の畔まで来たところで……ついに笠原は足を止めた。
明崎は3、4歩先に進んでから、気づいて振り返った。
笠原はじっと明崎を見つめた。
「……もう俺とは、友達としていたくないのか?」
「……そういうこと、ちゃうよ」
小さな2つの声は、夜闇に紛れた。
傍を幾つもの囁きと足音が通り過ぎる。
誰も2人には気を留めない。
「このままがええねん」
「このまま……?」
「今までと何も変わらんってこと」
明崎は困ったように笑った。
「ごめん、変な言い方してもうたな。深い意味は無かってん」
そんな訳がない、という声が笠原の中で響く。
それじゃあ、何故あんなことを言い出したのか。
急に黙り込んだあの時間はなんだったのか。
あの悲しそうな笑顔はなんだったのか──
「………」
それでも笠原は、言い出すことができなかった。
明崎にこれ以上遠ざけられるかもしれないと思ったら、怖かった。
「……そう、か」
声は掠れていた。
明崎が歩み寄る。
「何か美味しいモン買って帰ろ。全然出店とか、寄ってへんかったな」
もういっかい回り直そう、とは言わない。
それで良かった。
言われても、とてもじゃないがそんな気分になれない。
再び隣に連なって、ゆっくり足を進める。
明崎の隣を歩きながら、笠原は明崎の存在が離れているように感じた。
そんな言い知れぬ不安に揺れる、笠原の心そのものを表したように。
真っ黒い夜空を映した池の水面は、小さくさざめいて、幾重にも折り重なった波紋をぶつかり合わせた。




