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3


下り坂を進んでいき──見えてきたのは、ライトと無数の灯籠に照らされて、大きな池に浮かぶ六角形のお堂だった。

かの有名な浮見堂である。

木の橋の欄干らんかんにも、お堂にも、形を縁取るようにずらりと灯籠が並べられている。

それが大きな池に映り、小舟が幾艘かが水面をゆったりと滑っていた。

とても幻想的な光景であった。

池の周りは写真を撮る人が大勢囲んでいる。


「ボート貸し出してんねんて」


隣で明崎が言う。

池に浮かぶ小舟のことを言っているようだった。


「乗る?」

「いいのか?」

「俺乗ってみたかってん」


行こ行こ、と明崎は手を半ば持ち上げて……けれどすぐに下ろした。

それに気づくことは無かった笠原は、一緒にボートの貸し出し所まで行った。


「いつもやったら結構並んでんねんけど、空いとるみたいで良かったわ〜」


確かに貸し出し所には既に3・4組ほど並んで待っている。

2人乗りが基本らしく……自分たち以外は、皆カップルだった。


「……ホントに良かったのか?」

「何が?」

「……カップルしかいないぞ」

「へぇ〜、紫己ってそういうのん気にするんやぁ〜」

「ア、アンタこそ気にしないのか」

「何だってええやん。いけるいける。誰も気にせぇへん」


待ち時間はさほど掛からなかった。

船着き場に寄せられた小舟に案内されて、乗り込む。

小舟がギシリと鳴って、不安定に少し揺れた。

オールが置いてある方へ明崎が座り、笠原は向かい側に座る。

小舟にも小さなぼんぼりが取り付けられていて、一層風情があった。


「よっしゃ、行くで〜」


明崎は早速オールを持ち、浮見堂に向かって漕ぎ出した。

ザバァ、と水を掻き分ける音が響く。

笠原も水に意識を向けて、小舟を動かせるか試した。

水で押して行けそうだ。

これなら別にオールを漕ぐ必要もなさそうだが。

それを明崎に伝えると、首を横に振られた。


「漕ぎたいからええねん」


そうか、と笠原は水から意識を外した。

しばらく無言の時間が続いた。

真っ暗な水面に、ほとりを並ぶ灯が映っている。

向こう岸や橋の上では、影がかった人々が行き交っていた。

囁きと足音が幾つも、けれど静かに聞こえるだけ。


「本当に、綺麗だな」


笠原の小さな呟きさえも、その中に吸い込まれて消えた気がした。


「せやんな」


明崎も言葉少なに返す。

……オールを持つ手が硬く握り込まれる。

水がそこかしこで揺らいで、小舟が広げた波紋を幾つもぶつかり合わせた。


「……なぁ、紫己」


明崎の声が聞こえた気がして、笠原は正面に向き直る。

するとやはり明崎はこちらを見ていて、口を開いた。


「紫己は……俺のこと、友達として好きやねんな?」

「──え?」


オールはいつのまにか止まり、舟は池に揺蕩うだけとなった。


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