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下り坂を進んでいき──見えてきたのは、ライトと無数の灯籠に照らされて、大きな池に浮かぶ六角形のお堂だった。
かの有名な浮見堂である。
木の橋の欄干にも、お堂にも、形を縁取るようにずらりと灯籠が並べられている。
それが大きな池に映り、小舟が幾艘かが水面をゆったりと滑っていた。
とても幻想的な光景であった。
池の周りは写真を撮る人が大勢囲んでいる。
「ボート貸し出してんねんて」
隣で明崎が言う。
池に浮かぶ小舟のことを言っているようだった。
「乗る?」
「いいのか?」
「俺乗ってみたかってん」
行こ行こ、と明崎は手を半ば持ち上げて……けれどすぐに下ろした。
それに気づくことは無かった笠原は、一緒にボートの貸し出し所まで行った。
「いつもやったら結構並んでんねんけど、空いとるみたいで良かったわ〜」
確かに貸し出し所には既に3・4組ほど並んで待っている。
2人乗りが基本らしく……自分たち以外は、皆カップルだった。
「……ホントに良かったのか?」
「何が?」
「……カップルしかいないぞ」
「へぇ〜、紫己ってそういうのん気にするんやぁ〜」
「ア、アンタこそ気にしないのか」
「何だってええやん。いけるいける。誰も気にせぇへん」
待ち時間はさほど掛からなかった。
船着き場に寄せられた小舟に案内されて、乗り込む。
小舟がギシリと鳴って、不安定に少し揺れた。
オールが置いてある方へ明崎が座り、笠原は向かい側に座る。
小舟にも小さなぼんぼりが取り付けられていて、一層風情があった。
「よっしゃ、行くで〜」
明崎は早速オールを持ち、浮見堂に向かって漕ぎ出した。
ザバァ、と水を掻き分ける音が響く。
笠原も水に意識を向けて、小舟を動かせるか試した。
水で押して行けそうだ。
これなら別にオールを漕ぐ必要もなさそうだが。
それを明崎に伝えると、首を横に振られた。
「漕ぎたいからええねん」
そうか、と笠原は水から意識を外した。
しばらく無言の時間が続いた。
真っ暗な水面に、ほとりを並ぶ灯が映っている。
向こう岸や橋の上では、影がかった人々が行き交っていた。
囁きと足音が幾つも、けれど静かに聞こえるだけ。
「本当に、綺麗だな」
笠原の小さな呟きさえも、その中に吸い込まれて消えた気がした。
「せやんな」
明崎も言葉少なに返す。
……オールを持つ手が硬く握り込まれる。
水がそこかしこで揺らいで、小舟が広げた波紋を幾つもぶつかり合わせた。
「……なぁ、紫己」
明崎の声が聞こえた気がして、笠原は正面に向き直る。
するとやはり明崎はこちらを見ていて、口を開いた。
「紫己は……俺のこと、友達として好きやねんな?」
「──え?」
オールはいつのまにか止まり、舟は池に揺蕩うだけとなった。




