2
明崎が漸く立ち止まった場所は、東大寺の参道傍の広大な芝生の前だった。
そこには丸で天の川のような光景が広がっていた。
何百、もしかしたら何千とあるかもしれない無数の灯籠が、なだらかな丘を一杯に埋め尽くしているのだ。
小さな灯りの1つ1つが、瞬く星々のよう。
笠原は思わず見惚れてしまって、しばらく言葉も無く立ち尽くしていた。
「……綺麗」
やっと口から零れた言葉に、隣で笑う気配があった。
「中歩く?」
笠原は頷いて、足を進める。
「わっ、鹿」
「真っ暗で全然気付かへんかった」
灯りに気を取られて、目の前まで来ていた鹿に危うくぶつかる所だった。
明崎は小さく笑って、通り過ぎざまに鹿の頭を撫でる。
やっとこさ目的の所へ行くと、そこは歩ける幅だけ道も空けられている。
足下の淡い灯火に照らされながら、2人は星の道を歩いた。
「何度も来ているのか?」
「2・3回くらいかなぁ。友達とか、槇さんとか」
「あ……そんなものなのか」
「そもそも奈良に来たんが中学の頃やもん」
槇の近くに居ないせいか、普通に話せている。
ここ3日、まともに目も合わせていなかったから、笠原としてはなんだか拍子抜けしていた。
けれど同時に、また逆戻りする瞬間が怖かった。
「連れてきて良かったわ〜。紫己なら絶対好きやろなぁって思った」
動揺する笠原をよそに、明崎はそう言って屈託無く笑った。
もしかして……心配しなくても、いいだろうか。
あれは、一時期の出来事に過ぎなかったのかもしれないと。
途中で星の道から逸れて、2人は春日大社の方へ歩いていった。
「春日さんの参道って、めっちゃ長いのに電灯無いねん。夜とかもう真っ暗」
「夜お参りしたいなら、どうするのだ?」
「懐中電灯必須。てか開いてないんちゃうかな、門。……もうホンマに怖いから」
「行くか?」
「行きません」
なら明日は?と続けて聞きたい気持ちにも駆られたが、明日の今頃には透季島に帰っている。
春日大社の参道前を通り過ぎ、時折自分たちを追い越すバスを見送りながら。
小高い丘を沿うようにして、歩いていく。
前にも後ろにも、同じような観光客が何組も歩いていて、話し声がさわさわと耳をくすぐった。
……明日、もう奈良には居ない。
全然実感が湧かなかった。
外出する前に大方荷造りは済ませたけれど、また明日も4人で夕食を食べて、明崎の部屋で眠っている気がするのだ。
日常と化していたそれから、遠ざかろうとしている。
そう思うと、寂しさが込み上げてきた。
「ここ曲がるで」
途中分かれ道があって、明崎に言われるままついていく。
側に小川が流れていて、灯りをゆらりと反射させている。
ここに来て、多くの人が集まっていることに気づいた。
この場所が次の会場なのだ。




