灯りの中で
滞在20日目──
蝉の鳴き声が止む気配の無い、宵の頃。
笠原は明崎に連れられて、バスに乗っていた。
あれから表面上、2人は何も無いかのように振舞っていたけれど。
見えない壁は間違い無く2人の間を隔てている。
解決の糸口も、見つかっていない。
「……あの、」
「ん?」
「”とびきり凄いヤツ”って」
誘われたのは今朝のことだった。
それまでずっと距離を置いて、余り会話もしていなかったものだから、笠原は戸惑いながらも誘いに乗った。
何処へ何をしに行くかも教えて貰っていない。
ただ唯一の手掛かりは、彼曰く”とびきり凄いヤツ”ということだけで。
「まぁ〜、行ったら分かる」
バスでも明崎はそう言って、なかなか教えてくれなかった。
その横顔を時折、街の硬質な灯りが照らす。
もうすっかり夜だ。
乗った当初、乗客もまばらだったバスだが、JRの駅前を出発する頃には人で溢れそうな程混み出した。
いつもなら駅で沢山人が降りていくのに、今日は逆だ。
それに浴衣姿の人々が沢山居る。
「何か行事があるのか?」
「行ってからのお楽しみ〜」
やはり明崎は答えようとしてくれない。
そうこうしている内に、バスは近鉄の駅を通り過ぎ、緩やかな坂を上がっていく。
駅を少し越えたら、また鹿が見れる。
そんなことを思い出した笠原が窓から景色を見ようとする。
と──
「あ……」
笠原の座っている席は、ちょうど県庁が見える方面だった。
県庁の広場を使って、芝生の上には円筒状の小さな紙の灯篭が幾つも置かれている。
胴の内側から、仄かな橙色の光が透ける。
揺れながら灯っていて、蝋燭が入っているのだと分かった。
バスの中でも、わぁ……と微かなざわめきが起こる。
「降りるで」
バスが停まった。
明崎は笠原の手を引っ張って、人混みを掻き分けるようにして進む。
降りてから早速県庁の方を見遣った笠原に、明崎が漸く今日の本題を教えてくれた。
「燈花会っていうねん」
「とうかえ?」
「毎年夏のこの時期にするイベント。めっちゃ綺麗やねんで」
もっと凄いから行こ、と明崎は県庁から更に東の、東大寺の方面へ歩いていく。
カラン、コロンと軽快に鳴らしてすれ違う下駄の音を聞きながら。
笠原もその後についていった。
前を歩く人々に続くようにしばらく行くと、向かい側に国立博物館が見えて来た。
ここは昼間に一度来ていて、端正な洋風の建物とその周りを囲むように出来た人工池が記憶に残っている。
それが今はガラリと表情を変え、道や池を縁取るように沢山の灯籠が並んで、ぼんやりと辺りを優しく灯していた。
道路を挟んで向かい側から見ていると、等間隔に植えられた松の並木の間から白い洋館が時折覗く様が何とも趣きがあっていい。
明崎は「また通るから」と言って、ここも通り過ぎていった。




