4
「そう言うてくれて、安心したわ」
「錦野さん……ありがとうございます」
「何でや、私は何もしてへん」
錦野さんは指で笠原の頬を伝った涙を拭う。
それでハッとした笠原も慌てて自分で涙を拭った。
「アンタ、替え持っとるんか?」
「替えは、持ってます」
人工皮膚のことだ。
「さっきは上手いこと隠しとったけど、化粧やな」
「はい、コンシーラーで。今は持ってきてないんですが」
「どれ。やったろか」
「い、いえ!」
なんてことないように言った錦野さんの申し出に、笠原は恐縮してふるふると首を振った。
「また貼らなあかんねやろ?」
「いや、お手を煩わせるほどのことでは」
「なに、お婆が上手にやったるやないか。ほれ、出しぃ」
困った。
笠原は槇に視線を送るも、ずっと見守っていた槇はにこにこしている。
テレパシーもしてこない。
大人しく錦野さんの好意を受け取りなさい、ということなのだろう。
笠原が遠慮がちに頷けば、錦野さんは備え付けのの引き出しから、何やらちりめんの巾着を取り出した。
紐を解いて開けると、中には化粧道具が入っていた。
「まさかこれが使えるとはなぇ……」
錦野さんの娘さんが置いていったのだそうだ。
笠原は予め切って持っていた人工皮膚のシートを錦野さんに渡す。
「じぃっとしといてや」
錦野さんは人工皮膚をシートから剥がして、鱗の部分にゆっくり貼り合わせた。
空気が入らないように注意深く指でなぞり、それからクリームタイプのコンシーラーを使って、境目を丁寧にぼかしてくれる。
その優しい手つきの心地良さに、笠原はそっと心を委ねた。
──笠原の頬が綺麗にヒトの肌に戻ると、笠原と槇は錦野さんに挨拶をして、病室を出た。
錦野さんは「もうアンタは孫やねん。またいつでもおいで」とまで言ってくれて、笠原はまた泣きそうになってしまった。
「笠原君、どんどん家族が増えてきたね」
「……どんどん?」
「僕にとってもウチの子だもの」
こんなに幸せなことがあっていいのだろうか。
医院を出る前に竹川へ挨拶をしに行くと、笠原の晴れた表情を見て分かったらしい。
満面の笑みを浮かべてくれた。




