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「っ……!?」
驚きの余り、声も出なかった。
目を見開いて凍りついた笠原の肩を掴んで、槇は尚も錦野さんに問い掛けた。
「これを見て、どうですか?……気持ち悪いと思いますか?」
はっきりした声が笠原の頭の上を飛び越え、錦野さんへ放たれる。
呆然としていた笠原は、遅まきながら槇の言葉を理解した。
その瞬間、笠原の心を冷たい恐怖が襲った。
また、言われる……
槇のしたいことが分からなかった。
でも既に言葉は錦野さんに届いていて、その返答を聞くしか道は無い。
怖い。
もう聞きたくない。
気付かぬ内に手が小刻みに震えていた。
笠原はもう見ていられなくて、視線を伏せて床に逃がす。
……錦野さんはしばらく答えず、何かを考え込んでいる様子だった。
それでも笠原の耳に声が届く瞬間はやってきた。
けれどそれは、全く予想もしない言葉だった。
「あの時はびっくりしてもうて、声も出ぇへんかってな」
笠原が覚悟していたような、がなり声でもなければ、呪詛を吐くような声でもない。
寧ろ錦野さんの声は穏やかである。
「……少しも気持ち悪いとは思わへんだ。何や、よう見たら綺麗な色しとるやないか」
"笠原君"
槇の言葉が、心に滑り込んでくる。
"錦野さん、君のことを化け物だって少しも思ってないよ"
"え……"
じゃあ、あの時唇が動いたのは……?
「笠原さん」
錦野さんが、名前を呼んだ。
「こっち来てくれへんか」
"行っておいで"
槇にも肩をそっと押し出され、錦野さんの声に誘われて。
笠原は恐る恐るベッドに近寄った。
「ああ……」
錦野さんは手を伸ばした。
触れられて、笠原はびくりと身を震わせる。
けれど錦野さんは皺だらけの指で、鱗を優しく撫でた。
乾いたその手は、じんわりと温かくて──
「……本当に?」
信じられなくて、笠原は消え入りそうな声で訊ねる。
「本当に、気持ち悪くないんですか……?」
「そんな風に言われとったんか?」
錦野さんの問いには、答えも含まれていた。
錦野さんは、何も言っていなかった。
「化け物」とも、思っていなかった。
あの時の「化け物」という声は、笠原の恐怖心から生まれてしまった幻聴だったのだ。
……ただの、勘違いだったなんて。
呆気に取られた思いのまま、錦野さんの問いに答えられず黙り込む。
同時には上手く言葉を見つけることができなかった。
けれどその沈黙は、最早肯定も同然で、錦野さんも察してしまったらしい。
錦野さんは言葉を継ぐ。




