彼女の手は
「……おう、来たんか」
医院に入ると、すぐさま出迎えた竹川が気遣わしげに笠原を見た。
笠原の頬にはコンシーラーも塗らず、間に合わせで人工皮膚が貼ってある。
「ばあさんなら、病室で待っとる。……しかし、なぁ」
「僕も同席します。……先生、大丈夫です」
「……頼むで」
槇の言葉に頷いた竹川は、最後に笠原の頭をぽんぽんと撫でて診療室へ戻っていった。
「……行こっか」
槇に連れられ、2階に上がっていく。
廊下を歩いて錦野さんの病室の前に来ると──笠原の足は竦んでしまった。
「大丈夫?」
笠原の様子に気づいた槇から声が掛かる。
大丈夫、と言わなくては。
でもこの先を見るのは──
頷いて足を一歩踏み出すのに、しばらく時間が掛かった。
それでも、今にも逃げそうになる心を叱咤して、開かれた引き戸の向こうへ進んだ。
槇は笠原の後に続いた。
「こんにちは」
槇が挨拶する先には、驚いた表情の錦野さんが居た。
笠原は錦野さんの姿を一目見るなり、堪らなくなって俯く。
まともに言葉も継げなかった。
錦野さんは会釈をして、口を開いた。
「……その子の、ご家族ですか?」
「ああ、いえ。この子の家族ではありませんが、似たようなものです。笠原君が、いつもお世話になっていたみたいで」
槇も錦野さんも、注意深く言葉を選んで相手の心を計ろうとしている。
「お電話を頂いたのは、この子の……顔のことですね?」
そんなフレーズを聞いただけでも、丸で死刑宣告を受けたように心臓がどくりと嫌な感触を伴って脈打った。
どうして錦野さんは、笠原をもう一度ここへ呼んだのだろう。
何を、確かめたいのだろうか。
そこまで考えた笠原の耳に、もう1人の自分が囁きを吹き込んだ。
……確かめるも何も、「やはりお前は化け物だ」と断罪する以外無いのではないか?
最もな答えだった。
現に今まで、その答え通りのことが何度も起きている。
分かっていたはずなのに。
何て甘い期待したのだろう……
笠原は今すぐに消えたくなった。
「錦野さん」
槇の声が耳を打つ。
その時には、槇の手が既に笠原の背後から伸びていた。
笠原が反応して動くよりも前に、彼の手は人工皮膚を剥がしていて。
──電気の白い光の下に、翠銀色の鱗が曝された。




