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扉を開けると、思った通り部屋は電気も点いていない。
明崎は廊下側の扉に背を預けて、体育座りで小さな子供みたいに丸まっていた。
扉を閉めると、槇は明崎の傍に屈んだ。
「……厳しいことを言ったようだけどね」
「………」
明崎は膝に顔を埋めたまま答えなかったが、無論さっきの話は全部聞いている。
「何も、今すぐなれって言ってる訳じゃないんだ。……これから君は、こんな風にショックを受けて動揺したり挫けたりすることが多いと思う。でもそれを、どう消化して受け止めるか。……その考え方を身につけるのが、今の君の課題」
返事がうんともすんとも返ってこない。
……仕方ない。
本人も酷く動揺した上で、そこを加減無く指摘されてしまったのだ。
気持ちの折り合いをつけるにも、感情も邪魔してどうにも持て余す時間はしばらく続くだろう。
”どうしても頑張らなきゃいけないからなぁ……そこは”
槇は手を伸ばして明崎の頭をくしゃりと撫でた。
そして明崎を残したまま部屋を出て、湯が沸騰した電気ケトルを手に取ろうとした時、テーブルで槇のスマホが着信を告げた。
──────
冷たい水に触れながら、ゆっくり時間を掛けて気持ちを落ち着かせた笠原は、洗面所から出てきてキッチンに戻った。
槇は笠原の姿を見ると、淹れてくれた温かい緑茶を渡してくれた。
「──竹川さんから、電話があったんだ」
一口飲んで、カップから口を離したところで槇が言った。
ドクンッ、と笠原の心臓が嫌な軋みに震えた。
「錦野さんが、君ともう一度話がしたいって言ってるらしいんだ。……必死な様子で頼んできたんだって」
必死な様子、で……?
何故?
笠原は分からず眉根を寄せた。
「どうする?行くなら僕も同席したい」
しばらく床に視線を落として考え込んだ笠原だったが、やがて恐怖を堪えるように、小さく頷いた。
「……行き、ます」
「無理はしないで。これは断ってもいい話だから」
「いえ……大丈夫です。行きます」
「……本当に?」
「……はい」
「分かった」
行こうか、と動く槇の傍らで笠原は明崎の部屋を見た。
部屋からは一向に何の物音も聞こえてこない。
「笠原君」
呼ばれて笠原は槇と一緒にキッチンを出た。




