揺れる気持ち
明崎を見た瞬間、抑えていた気持ちに歯止めが利かなくなって、笠原は思わず縋り付いてしまっていた。
……明崎なら、受け止めてくれる。
無意識に思っていたことだ。
それが気づくと槇に手を掴まれ、キッチンに連れてこられていた。
何故明崎から引き離されたのか分からなくて、槇を見上げる。
すると槇が、丸で笠原の心を聞いたようなタイミングで「うん、ごめんね……」と呟いた。
驚いて目を丸くする笠原だったが、更にびっくりするような事が起きた。
”僕の声、聞こえるかな?”
音として、聞こえたわけじゃなかった。
現に槇の唇は少しも動いていない。
何というか、心に直接響く不思議な感覚に見舞われて、笠原は思わず目を瞬かせた。
”これが、僕の能力なんだ。君の考えてることも、少しだけど聞こえる。……気にするだろうと思って、黙ってた”
話した槇は心配げに表情を曇らせ、今度はしっかり声に出した。
「ゆっくりでいいから、何があったのか話してくれる?」
くぐもった雨の音を聞きながら。
椅子に座らされた笠原は、ぽつぽつと医院での出来事を話した。
錦野さんに見られたこと。
「化け物」と言われてしまったこと。
人工皮膚を本来は水で濡らしてはいけなかったこと。
同じように椅子に座った槇は、一度も口を挟むことなく静かに聞いてくれた。
その落ち着いた姿を見て話す内に、耳の奥で木霊していた声が少しずつ遠のいていく。
けれど心の底には、言い表す事のできない不安感と緊張がごよごよとわだかまった。
「……そっかぁ」
槇は笠原が話し終えて漸く口を開いた。
「……辛かったね」
手が伸びて、頭を撫でられる。
明崎の手よりも大きくて、温かかった。
笠原は喉がきゅうっと締め付けられるのを感じた。
「我慢しなくていいよ。泣きたい時は泣かなきゃ」
既に泣きそうな顔をしていたのだろう。
それとも心を読んだのか。
槇の言葉にまた、笠原は涙を零した。
……明崎に出会ってから、こうして泣くことが多くなった。
今の状況にも既視感がある。
以前まで、独りで泣いても辛かったから必死で堪えてたけれど、今は受け止めてくれる人が居る。
それに怖々しつつ、甘えるようになってからは随分と楽だ。
「にしても、勿体無いなぁ」
笠原の頭から左頬へするりと降りた槇の手は、涙を拭うように頬を包み込む。
「団之介から聞いてたけど、綺麗だね」
言われて笠原ははたと気づいた。
キッチンに来てから、笠原は鱗を晒したままだったのだ。
この家に来てからも鱗は見せないようにしてきた。
咄嗟に手を上げたが、頬には既に槇の手があるので隠せない。
しかし槇は少しも臆した様子も無く鱗に触れているので、笠原はそろそろと手を下ろした。




