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ただならぬ気配を感じ取ったらしい。
槇がキッチンから飛び出してきた。
聞かずとも一目で状況を察した様子の槇は、放心状態の明崎から笠原を引き剥がした。
「笠原君、こっちおいで」
槇は片手で明崎を自室へ行くように促して、笠原をキッチンへ連れて行ってしまった。
ああ……どうしよう。
明崎は、しばらく動くことが出来なかった。
槇が介入したことで、心は既に解放されていたが……余りにもショックだった。
やっとの思いで、のろのろと自室へ戻った明崎は、ドアを閉めた。
……そのままドア伝いに、ずるずると背中を滑らせて座り込む。
たった今、自分の心を襲ったもの。
あの中に、笠原はずっと居たというのだろうか。
自分に会う前から。
ずっと、何年も。
──当然だった。
笠原は、明崎なんかよりずっとずっと辛い目に遭って、今まで生きていたのだ。
それを頭では分かっていた、はずなのに。
本当に、何も分かっていなかったのだ。
そう思うと、今までの自分に対して吐き気にも似た嫌悪感が沸き上がった。
思わず口を押さえる。
今まで分かったような口利いて、気安く励ましたりしとったけど……
俺、何も分かってへんかったんや。
紫己のこと、何一つ分かってなかった。
明崎の心には、未だじくじくした痛みが残っていた。
さっきよりは幾分かマシになっている。
だが笠原は……まだあの中に取り残されているはず。
けれど、もう。
明崎は、自分が笠原を慰めたり励ますような真似をしてはいけないような気がした。
だって。
自分はさして苦労もなく生きてきた人間だ。
笠原の苦しみや悲しみをほんの少し覗いただけで、この有様。
耐えられなくて、すぐに押し潰された。
そんな奴が笠原を支えるだの、頼れだの……ほとほと身の程知らずもいいところだった。
……あかん。
こんなんじゃ……俺には、
俺なんかじゃ、君を受け止められへん──




