束の間の静けさ
翌日は晴れて、いい天気であった。
1日眠って、その後はだらだら過ごした伊里塚はとりあえず動けるだけの元気を取り戻していて、槇と一緒に外へ出てきた。
明崎と笠原は、宙と一緒に公園へ出掛けていて、今は居ない。
「危なかったね。明日、荒れるみたいだって」
「らしいな。とっとと逃げるとするわ」
伊里塚はバイクスーツを着ていて、帰る支度も万全に整っている。
このまま大阪まで行ったら、またフェリーに乗って神奈川まで帰るつもりである。
「……気をつけてね」
「おう」
親友の心配げな視線を感じつつ、何てことないように頷いてヘルメットを被った。
「……悪かったな」
「全然」
伊里塚の言葉に、槇はそっと首を横に振る。
……何処までも良いヤツ。
伊里塚はバイクに跨ると、エンジンを起動させてアパートを後にした。
伊里塚を乗せたバイクが見る見る遠ざかっていく。
それが遠くの角を曲がって見えなくなるまで、槇は見送った。
──────
「えっ!?伊里塚君行っちゃったん!?」
「もう今頃、フェリー乗りかけてるかもね」
「うそーん」
宙と笠原を連れて帰って来れば、何と伊里塚は居なくなっていた。
2時間前に帰ってしまったという。
当人からは何も聞いていなかったし、明崎達が出掛ける前には布団から出てすらいなかった。
まぁ来る時も槇にだけ言って突然やって来たから、こんなもんかとも思うが……
でもバイバイぐらい、言いたかったな……
「あんまゆっくりしてる感じせぇへんかったけど、そんな仕事忙しいの?」
「そういえば帰った後も仕事がどうとか、言ってたかなぁ……」
「え〜……オトナ大変」
「団之介達も大人になったら、こうなるんだよ」
「うわーっ、めっちゃ嫌やソレーッ」
何かもう、スッゴい嫌なことを聞いてしまった。
「まぁそう言ってたら高3は受験だし、大学生も学部によってはやっぱ忙しいし」
「う」
「ゆっくり出来るのは今の内かもね〜」
もっとヤなこと聞いてもうたーーっ!!
心底嫌そうな明崎の顔を見た槇は、可笑しそうに笑いながらキッチンに行ってしまった。
「……えー、ちょっともう〜。大人になりたくない」
「その身長を宙に分けたらいい」
「それは困る」
非常にくだらない会話をしながら、明崎達はリビングに行った。
点きっぱなしのテレビでは、天気予報が流れている。
『明日のお天気です。日本海側で低気圧が発達しており、その為北側の、特に京都府から奈良県に掛けては強い雨が予想されます。お出かけの際は傘をお忘れなく──』




