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「両親は、ずっと前に亡くしました。俺を育ててくれた人は、俺に沢山のことを教えてくれて……きっと一番の理解者です。俺自身、とても大切に思ってます」
「………」
「錦野さん……初めてお会いした時、寂しそうな顔をしていたように見えました。俺を育ててくれたあの人に、そんな顔をされたらと思わず想像してしまいました。それと、俺自身何だか気になってしまって」
自分と同じで、もしかしたら孤独な人かもしれない。
実はあの時そう思った。
何となく同じものを読み取ってしまった。
表情から、色の無い病室から、纏った空気から。
だから……放って置けなかったのだ。
「正直、迷惑になっていないか心配です……」
そう言ってから笠原は、いつの間にか浅井が呆気に取られた表情をしていることに気がついた。
ついびっくりして言葉を途切れさせると、浅井が口を開いた。
「いやぁ、あの……ホント、近年稀に見る奇特な子だなぁと思ってたんだけど」
それこそこっちが驚いていると言わんばかりの様子である。
「笠原君、ホントびっくりするぐらい良い子だね」
「えっ……?」
今度は笠原が呆気に取られる番だった。
そんなことを言われるつもりなど、一切無かったのに。
笠原の顔を見て、浅井はにこりと笑った。
「俺も綾さんも幸せだなぁ。こういう、他人の温かい気持ちに触れる機会なんてそうそう無いし。俺まで元気出ちゃうよ」
「でも俺、何も」
「いやいや充分。笠原君、立派にやってくれた」
本当にありがとう。
浅井は座ったまま、深くお辞儀をした。
「いえ、違うんです!頭を上げてください!」という笠原は相変わらずで、すっかり恐縮である。
頭を上げた浅井は何だかすっきり晴れた表情を浮かべていた。
「そろそろ綾さんに会いに行こうか」
残りの善哉を食べきって店を出ると、すぐさま竹川医院に向かって錦野さんに会った。
浅井が関東に戻る話に至っても、お互い涙も零さなかった。
ただ穏やかに言葉を交わして、別れを告げる。
「それじゃあ綾さん、また!」
「気ィつけて帰りや」
丸でいつもと変わらない挨拶。
浅井はいつものようにニコニコと笑って、そして帰っていった。
錦野さんは微笑んで、ドアの向こうに消えるまで見送った。
2人共、最後まで不安や哀しみを微塵も見せることはなかったのだ。




